2009年度 Vol.57-No.4

2009年度<VOL.57 NO.4> 特集:価値づくりの技術経営MOT  

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2009年度<VOL.57 NO.4>
特集:価値づくりの技術経営「MOT」日本企業は「ものづくり」は得意だが「価値づくり」が苦手だ。素晴らしい商品開発ができても、それを高い業績に結びつけることができない。元来、ものづくりとは、付加価値を創造するためのものだが、日本の製造業は、その基本がおろそかになっている。本特集では、近年の技術経営における最大の課題である価値づくりに焦点をあわせる。特に、単純な技術的・機能的価値を超えた、顧客や社会に真に役立つ価値づくりについて、さまざまな視点から議論を展開する。
延岡健太郎(一橋大学イノベーション研究センター教授) 価値づくりの技術経営
 
  近年、ものづくりと価値づくりの関係が複雑で曖昧になり、優れたものづくりが価値づくりに結びつかなくなっている。日本企業はものづくりでは一流だが、価値づくりは不得手だ。ものづくりでは日本企業に劣るアメリカや台湾・韓国の企業のほうが、価値づくりはうまい。価値づくりとは、その企業にしかできない、しかも顧客にとって価値の高い商品を提供することであり、「社会にとって真に価値のあるものづくり」である。日本企業がめざすべき価値づくりとは何か。日本企業の持つものづくりの力を、最大限に活かす価値づくりとは何か。カギを握るのは、顧客が商品に対して主観的に意味づけすることによって生まれる価値、つまり意味的価値の創出である。
石井淳蔵(流通科学大学学長) 市場で創発する価値のマネジメント
  わが国の産業は、モノづくりが中心となって発展してきた。自動車、エレクトロニクス、産業機器といった産業分野で、多くの日本企業が世界の強豪に伍して戦ってきたのは、日本人の持つ「モノづくりの力」によるところが大きい。しかし今日、モノづくりだけを志向した経営の限界がささやかれ、「価値づくりの経営」への転換が要請されている。本稿では、そうした局面にあって「市場における価値創発」という1つの視点を問いたい。価値は、商品と市場の狭間において生まれる。そこにおいては、マーケティング・マネジメントが重要な役割を果たす。そのことを改めて認識し直すことで、腰の据わった経営が可能となる。
楠木 建(一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授) イノベーションの「見え過ぎ化」
  グローバル化や情報技術の進展を受けて、製品やサービスはコモディティ化を余儀なくされている。企業にとってのこの逆風を克服するには、イノベーションによる付加価値の創造が必要である。この認識に基づき、多くの企業がイノベーションに真摯に取り組み、資源を投入している。しかし現実にイノベーションで価値創造に成功し、長期利益を実現している企業は例外的である。なぜ多くのイノベーションが長期利益に結実せず、競争のなかに埋没してしまうのか。本質的な問題の1つはイノベーションの「見え過ぎ化」に求められる。多くの企業にとって、可視的な価値次元の上で製品やサービスを「よく」しようとするイノベーションは限界に近づきつつある。本稿では、イノベーションが実現しようとする「価値次元の可視性」に注目して、真に脱コモディティ化を可能にするイノベーションと、そのためのマネジメントについて検討する。
延岡健太郎/高杉康成(一橋大学イノベーション研究センター教授/株式会社企業競争力研究所 代表取締役) 生産財における意味的価値の創出
  生産財においても、消費財以上に、意味的価値が重要である。本稿で取り上げるキーエンスは、商品が持つ機能的な優位性が競争力の源泉ではない。単なる商品機能がもたらす価値ではなく、個々の企業の置かれたコンテクストにあった使いやすさやソリューションの提供によって、顧客が真に喜ぶ、役に立つ価値をつくりだしているのだ。同社は、営業と開発の二人三脚によって、顧客にとって意味的価値の高い商品をつくり、莫大な付加価値や利益をあげている。過去20年以上にわたり、売上高営業利益率は平均40%を超えている。本稿では、それを可能にするマネジメントのあり方を、具体的に議論する。
宮原諄二(東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授) 価値空間の変遷
  私たちの価値観は、その「人」の、その「社会」の、その「時代」の生活空間のなかで生まれ、生活空間は価値を判断して行動する価値空間そのものでもある。それは、人類の誕生から中世に至る、実に長い間〈自然界〉のなかにあったが、近世になり、自然科学と近代工業技術による〈人工界〉が新たに加わった。そのなかで私たちは「人工物空間」をつくりあげ、近年には「情報空間」も加わった。私たちは〈人工界〉のなかで人類の創意工夫による成果を存分に享受してきたが、しかし、何かがおかしいと感じるようになってきたことも確かである。〈人工界〉の時代は終盤を迎えているのだろうか。それとも〈人間界〉と呼ばれるかもしれない新たな時代の始まりなのだろうか。
●ビジネス・ケース
吉原英樹(南山大学大学院ビジネス研究科教授)
セーレン:夢と戦略が技術を開花させる
  1987年、倒産の危機に瀕していたセーレンの社長に就任した川田達男は、抜本的な経営改革を打ち出した。それ以来、同社の業績は急速に改善し、いまや世界制覇をねらうほどの企業に変貌している。製品・事業も大きく変わり、かつては売上の3分の2が衣料だったが、現在は非衣料が3分の2を占める。かつては染色加工だけを行っていたが、現在は原糸生産、織・編、染色加工、縫製というすべての工程、さらには商品の企画と販売も行っている。本ケースでは、この「革命」ともいうべき経営改革の軌跡をたどる。
●ビジネス・ケース
池田千代和(株式会社博報堂ブランドコンサルティング コンサルタント)
協和発酵キリン:社員参加型の経営理念構築
  協和発酵キリンは、協和発酵工業の医薬事業部門とキリンファーマが統合して、2008年10月に誕生した会社である。その統合過程においてユニークであったのは、無形の資産の統合を、有形の資産と並行して進めた点にある。両社の社員が新会社に抱く想いを語り合い、そこから新会社の経営理念を生み出すという経営理念策定プロジェクトが実施された。本ケースでは、同プロジェクトを俯瞰し、経営理念という無形資産の積極的な統合が、企業統合・合併において社員融合に大きな成果を生み出しうることを確認したい。
●技術経営のリーダーたち(6)
 高須秀視(ローム株式会社 常務取締役 研究開発本部長 兼 Kionix 担当)
 「それが面白そうだったから 半導体の可能性に魅せられて走り続けた40年」
●コラム連載:「人勢」議論(1)
 金井壽宏 「ひとは「ポジティブ」で動くのか、「ネガティブ」で動くのか」
●私のこの一冊
 清水 洋 「パラダイム・チェンジとは何か:トーマス・クーン『科学革命の構造』」
●マネジメント・フォーラム
 辻野晃一郎(グーグル株式会社 代表取締役社長):
       
インタビュアー・米倉誠一郎
 「日本の優れた文化やテクノロジーを世界に向けて発信して大きなビジネスにつなげます」
●PORTER PRIZE 2009
 大薗恵美 「第9回 ポーター賞受賞企業に学ぶ」
●用語解説
 福川裕徳 「公正価値評価」

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