2009年度 Vol.57-No.3

2009年度<VOL.57 NO.3> 特集:「世界標準」が変える競争 

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2009年度<VOL.57 NO.3>
特集:「世界標準」が変える競争「世界標準」の重要性を訴える動きは多く見られるが、同時に「世界標準をとれば市場がとれる」といった誤解も蔓延している。標準化の本質は、単純化であり、両立であり、互換性の実現である。標準化が行われることで市場を獲得することもあるし、失うこともある。利益を得るものもいれば、失うものもいる。本特集は「『世界標準』が変える競争」をテーマに、グローバルスタンダードの出現による競争環境の変化を、どのように見通せばよいのかを考察する。さまざまな事例の分析を通じて、変化に対応できるビジネスモデル構築のヒントが得られるであろう。
江藤 学(一橋大学イノベーション研究センター教授) 標準のビジネスインパクト
 
  「標準化」がブームである。しかし、その陰で、さまざまな誤解や思い込みが蔓延している。標準化のビジネス効果が明確にされていないことが最大の原因だ。標準化のコストダウン効果は広く知られている。市場拡大効果も多くの企業が感じている。しかし、その効果の定量化は困難であり、標準の競争促進効果と競争阻害効果の関係などは定性的にさえ整理されていない。本稿では、過去の研究による成果を振り返りつつ、これまであまり取り上げられなかった試験方法標準のビジネスへの影響を、液晶パネルを事例とすることで観察している。標準の設定が競争にどのような影響を与えたのか、標準が競争に影響を与えることができなかった理由は何かを検討し、「『世界標準』が変える競争」とは何かを考える基本となる情報を整理している。
小川紘一(東京大学総括プロジェクト機構・知的資産経営総括寄付講座特任教授) 国際標準化とビジネスモデル
  日本は国際標準の獲得で、決して欧米各国に大きく遅れているわけではない。しかし日本企業は、せっかく自ら世界標準を作成しても、その市場から追い出されてしまうのである。日本には、家庭用ビデオやDVDなど新市場を拓く製品を開発し、標準化し、世界に普及させる力がある。同時に、レーザー技術やレンズ技術など、他国が容易にキャッチアップできない高度な技術も持つ。にもかかわらず、日本製品が市場シェアを維持できない最大の理由は、市場拡大のためのオープン化戦略と、利益確保のためのクローズド戦略を、製品のアーキテクチャ変化を予測した上でリンクさせていないからだと本稿では分析している。では、世界が標準化をビジネス戦略に取り込むなかで、日本の事業戦略に欠けるものは何か。どうすれば日本の技術力を利益に結びつけることができるのか。本稿にある多くの事例を参考に考えてみたい。
原田節雄(財団法人日本規格協会 IEC活動推進会議) 民間企業の事業戦略と国際標準化の現実
  いわゆる標準とは、「工業標準」や「技術標準」といったせまい範囲に限定される概念ではない。国際標準化の基本的な目的は、利便性を念頭に置いた国境をまたぐ社会の構築だ。個人と組織がさまざまな想いを持ち、さまざまな利害関係にある人々が競争する標準化活動で、最終的に何を得ることが、勝利といえるのだろうか。民間企業は、協調という建前と競争という本音を使い分けた標準化活動を展開する。本稿には、ソニーのフェリカ標準化の現場で戦い抜いた経験から得られた多くの知見と、その分析が整理されている。これらをもとに、標準化活動における戦いの本質、その戦いにおける勝利の意味、勝利を得る戦術について考察する。
長岡貞男/塚田尚稔(一橋大学イノベーション研究センター教授/一橋大学イノベーション研究センター助手) 標準をもたらす研究開発と標準に依拠した研究開発
  DVD、MPEG2などの動画像圧縮、そしてGSMやCDMAといった携帯電話プロトコル、いずれも業界全体を巻き込んだ大きな技術革新をもたらし、また標準に組み込まれた特許がライセンスのみからも大きな収益をもたらしている技術である。しかし、これら以外に、そのような特許群があまり見られないのも事実である。これらの特許群を構成する発明は、どのような研究開発で生み出され、どのように使われ、そして次世代の技術にどのような影響を与えているのだろうか。本稿は、発明者に対する日本で初めての大規模調査「RIETI発明者サーベイ」の結果から、標準をもたらした必須特許を抽出し、その特質の分析とともに、標準の研究開発への影響を定量的に分析している。それをベースに標準化と特許の相互依存関係を客観
的に把握し、ビジネスに生かす素材を提供したい。
藤野仁三(東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授) クアルコムの誤算
  標準に特許を組み込んで利益を上げる代表的企業として、必ず名前が挙がるのがクアルコムだ。日本企業のなかにも「わが社はクアルコムをめざします」と語る人が見られる。しかし、クアルコムの成功は、同社の持つ強力な特許と戦略的特許活用、そしてアメリカのプロパテント環境で鍛えられた、世界中の企業と戦うことさえ厭わない企業力のなせる業である。そのクアルコムでさえ、すべての戦いに勝てるわけではなく、戦略の変更を余儀なくされている。もしクアルコムをめざすのなら、戦う力となる強力な武器と優秀な人材、高度な戦略を駆使し、多くの戦いを勝ち抜かねばならない。クアルコムは本当に日本企業がお手本にできる企業なのだろうか。本稿では、同社の戦いと成長の歴史を振り返りつつ、その特殊性を考えてみたい。
榎本義彦(日本アイ・ビー・エム株式会社 大和事業所 アジア・パシフィック標準・製品安全) IBMのIT標準方針に関する戦略的意味
  IBMは世界最大のコンピュータ企業だ。業界トップでありながら、古くから技術のオープン戦略をとり、標準化にも熱心に対応してきた企業である。そのIBMが2009年、製品でもサービスでもない、情報技術の標準化に関する方針を発表した。背景には、オープンソースやオープンイノベーションといった概念の普及のなかで、「標準」のバラエティが広がり、その戦略的意味が多様化していることがあるだろう。つまり、「本当の標準とは何か」を社会に問い、共通理解を醸成することが必要な時代となったのだ。そこには、IBMとしての企業戦略もある。企業活動の自由を維持し、オープンなイノベーションのなかで利益を確保するために、IBMが発表した「IT標準方針」とはどのような役割を果たすものなのか。本稿では、IBMの視点から議論の背景を追いつつ、その本質を考えてみたい。
●特別寄稿
野中郁次郎/徳岡晃一郎(一橋大学名誉教授/フライシュマン・ヒラード・ジャパン シニア・バイスプレジデント/パートナー)
ビジネスモデル・イノベーション
  100年に1度といわれる経済の激変のなか、世界中のあらゆる産業で地殻変動が起こっている。新たな社会経済環境に対応するためには、今度こそ共通善を意識し、普遍的な正しさを持ってダイナミックな事業創造を追求することが重要であり、そうしたビジョンを組み込んだビジネスモデルの革新、すなわち「ビジネスモデル・イノベーション」(BMI)が求められている。特に日本は「失われた10年」以降、モノづくりに引きこもってしまい、モノをどういう文脈で提供するのかのコトづくりの力、ビジネスの価値に変えていく力が貧困になっている。日本の強みである知識創造の力を、BMIに適用し、よりたくましく価値創造をしていかなくてはならない。本稿では、そのBMI実現のために必要な要素とプロセス、およびBMIを実行するリーダーシップについて考え、多くの先進的な企業の事例を紹介しながら、日本企業が変革者となるための条件を探っていく。
●ビジネス・ケース
長内 厚(神戸大学経済経営研究所准教授/ジュニア・カレーマイスター(日本カレーマイスター協会認定)
ハウス食品:カレールウ製品の開発
  日本の国民食とまでいわれるカレーライス。もともとは多くのスパイスを配合して作られるカレーを家庭でも手軽に作ることができるようになったのは、カレールウの発明が大きい。そのカレールウ市場において、ハウス食品は長年にわたって首位の座を守り続けている。本稿では、近代日本におけるカレーの需要と普及のプロセス、およびカレールウ製品開発の歴史を振り返りながら、漢方薬問屋として出発したハウス食品の歩みをたどっていく。同社は同業他社との厳しい競争を迫られ、時代の流行やニーズに応えながら、どのようにしてカレールウ市場を活気づかせていったのか。とりわけ「バーモントカレー」「こくまろカレー」「プライム」カレーなどのヒット商品の製品開発過程に焦点をあわせながら紹介する。
●ビジネス・ケース
小野善生(関西大学商学部准教授)
I.S.T:成長を持続させるマネジメント
  I.S.Tは、「考える技能集団」を標榜する研究開発型の企業である。耐熱不燃複合繊維の開発、レーザープリンターの省電力化を可能にするベルト定着技術の開発など、継続的にイノベーションを起こして、持続的に成長している。たった4人からスタートしたベンチャー企業が、本社を含む7社のグループ会社を設けるまでになった軌跡は、中小企業の理想的なモデルといえる。本ケースでは、I.S.Tの持続的成長の要因を検討し、ベンチャー企業が発展していくためにはいかなるマネジメントを展開していけばいいのかを考察する。
●技術経営のリーダーたち(5)
 浜田恵美子(名古屋工業大学産学官連携センター准教授/元・太陽誘電株式会社 R技術部長)
 「CD-R事業を創造した開発リーダー」
●コラム連載:遺稿・21世紀への歴史的教訓(11)
 アルフレッド・D・チャンドラーJr. 「情報ネットワークの時代に何を学ぶのか(2)」
●連載:経営学のイノベーション(7)
 楠木建 「戦略ストーリーの「骨法10カ条」」
●マネジメント・フォーラム
 牧野正幸(株式会社ワークスアプリケーションズ 代表取締役CEO):
       
インタビュアー・米倉誠一郎
 「優秀なエンジニアのパワーを結集して日本企業の業務効率を飛躍的に向上させます」
●用語解説
 坂下玄哲 「消費者購買意思決定」

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