2009年度 Vol.57.-No.2

2009年度<VOL.57 NO.2> 特集:ネットワーク最前線  

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2009年度<VOL.57 NO.2>
特集:ネットワーク最前線米国発のスモールワールド・ネットワーク研究は、今世紀に入り世界的ブームとなった。だが、コンピューター・シミュレーションに基づく成果は、社会ネットワーク分析に限られた洞察しか与えない。感情を持つ個人と個人がつながるとき、機械的な情報伝達を超えた力学が存在する。多くの選択肢から1つを選び取るとき、人はランダムではなく方向性を持った探索を行う。本特集では、こうした人間くさい視点を織り込みながら、現代ネットワーク分析の最前線を探る。シミュレーションに基づく「機械じかけ」のようなネットワーク分析を超える、社会ネットワークの豊かな研究領域の可能性を示唆する。
西口敏宏(一橋大学イノベーション研究センター教授) 松本あすかという作品:ネットワーク論で見るある芸術家の魂の遍歴
 
  成功する人や組織は、遠距離交際と近所づきあいの、絶妙なバランスを保ちながら活動している。濃密な近所づきあいを維持しながら、他方では、触手をはるか遠くへ伸ばし、遠距離のノード(結節点)とも、短い経路でつながっている。そして、そこで得られた冗長性のない情報を、巧みに利用している。対照的に、失敗し続ける人や組織は、どこかでネットワークのバランスを崩している。本稿では、クラシック音楽に新たな響きと感動を呼び起こさせるピアニスト・松本あすかの、成功と失敗の入り交じった、波乱に富んだ半生を、3つの時期の人的ネットワーク図をもとに読み解く。一貫して一個人の視点からなされる人的ネットワークの定性分析は、人生選択術のヒントを与えよう。
安田 雪(関西大学社会学部教授) ネットワーク分析の本質
  本稿は、最新のネットワーク分析の本質と問題点について、平易な言葉で解説している。今日のネットワーク分析が到達した技術水準と、さまざまな制約条件の概要を知るには、最良の手引きである。われわれは、時間、労働力、資金といったあらゆる面での資源制約に直面している。そこにおいては、適切なつなぎ方、関係構築力こそが競争力の源泉となる。人間関係や企業間関係は、いわば道路でありインフラである。その上を、どのように情報、カネ、行為の伝播や影響力が流れているのかの解明が、今後のネットワーク分析の最先端になるであろう。
辻田素子/西口敏宏(龍谷大学経済学部准教授/一橋大学イノベーション研究センター教授) 貧しくても繁栄する秘訣:中国・青田華僑の成功を支えるネットワーク能力
  王貞治の父の故郷、中国浙江省の青田。伝統的に貧しかった青田人は多数が欧州に渡航し、苦節の年月を過ごした。だが、強い信頼の絆に支えられたネットワーク能力によって、今日、彼らは大きな富を築いて繁栄を謳歌し、故郷に富をもたらしている。本稿は、青田、温州、西欧、東欧にまたがる長年の徹底した現地フィールド調査に基づき、最新のネットワーク理論を用いて、青田人の同郷人ネットワークを分析する。同郷人ネットワークがいかなる政治経済的要因によって、どのように形成されてきたのか、また、そうしたネットワークがどのような場面でいかに活用されてきたのか、を詳述したうえで、しなやかに生き抜くためのネットワーク構築の重要性や、ソーシャル・キャピタルのありようを議論する。
金光 淳(京都産業大学経営学部准教授) ネットワーク分析をビジネスに活かす実践的入門
  21世紀に入って、社会ネットワーク分析を積極的にビジネスに活かそうという動きが本格化している。欧米の有名ビジネススクールでは、社会ネットワーク分析のパラダイムを採用する研究者が存在感を増している。本稿は、ネットワーク・モデルの基礎を解説した上で、実践的な事例によって、社会ネットワーク分析のビジネス利用に向けた指針を与えるものである。社会ネットワーク分析の「人間臭さ」や「粘着性」は、日本企業が伝統的にめざしてきた経営スタイルとも親和性が高い。これを「社会的ネットワークのマネジメント」という見方に止揚することができれば、本稿で紹介する考え方、すなわち「ネットワーク思考」は、混迷する現代の日本企業への処方箋の探求に役立つであろう。
坂田一郎/梶川裕矢(東京大学政策ビジョン研究センター教授/東京大学大学院工学系研究科総合研究機構特任講師) ネットワークを通して見る地域の経済構造:スモールワールドの発見
  地域クラスターに関する研究はさかんになっているが、具体的にどのようなネットワークが地域の競争力を高めるのかについては、定まった見方はない。本稿では、地域的な「取引ネットワーク」を考察の対象として、この問題を考える。地域経済の繁栄と失敗の秘密を、スモールワールド・ネットワーク理論を用いて実証的に示した、最新の研究成果である。18の地域・分野を対象とし、各ネットワークのトポロジーを可視化しながら、ハブ(中心的な結節点)やコネクター(遠距離交流の仲介役)を特定して、初学者にもわかりやすい解説を加える。
アンソニー・ジョーダン/ジェフ・マーカム(キネティック 主席・軍情報サービス・コンサルタント/キネティック 主席コンサルタント) サービス指向のビジネス・アーキテクチャーとICT支援:英国軍のニーズに対する民間的解決手法の妥当性と適応
  英国防衛企業ナンバー2のキネティックは、社員1万5000人のうち5000人が博士号をもつ超インテリ企業だ。もとは英国国防省の一部だったが、今世紀に入って民営化された。同社は、民間ベストプラクティスの概念を積極的に政府業務に活かそうと努める急先鋒である。同社の内部コンサルタントであるジョーダンとマーカムの執筆による本稿は、支援対象業務の本質に対する感性、柔軟性と迅速性という要件への格別の注意、ICTによるビジネス支援の本質について選択されるコンセプトの重要性、という3つのサービス指向手法の知的活用について論じる。
●ビジネス・ケース
中馬宏之(一橋大学イノベーション研究センター教授)
JSR:テクノロジーとマーケットの複雑性に挑む
  日本の企業には、製造業・非製造業にかかわらず、テクノロジーやマーケットの複雑性のレベルがある限界値を超えると、急速に競争力を失っていくところが少なくない。JSRは、このようなステレオタイプな日本企業観を超越した企業である。同社は、急増するテクノロジーとマーケットの複雑性をまるで順風とするかのように、「サイエンス・イノベーション」を生み出す事前・事後の確率を高めてきている。本ケースの目的は、JSRがこのような「サイエンス・イノベーション」を生み出す原動力を、同社の事業・組織経営上のオリジナリティ(独創性)という視点から探ることである。
●ビジネス・ケース
米山茂美(武蔵大学経済学部教授)
日亜化学工業:白色LEDの開発と事業化
  日亜化学工業は、次世代の光とされるLEDの開発・事業化をリードし、市場で圧倒的な競争力を示してきた。世界中の大企業を相手に、規模的に決して大きくない同社が高い競争力を確立できた背景には、どのような要因があったのだろうか。近年では、アジア企業を中心にLED市場への新たな参入が増加し、価格競争が激化している。こうした状況のなかで、同社はどのような対応を迫られているのか。本ケースでは、日亜化学における白色LEDの開発・事業化に焦点をあわせて、その経緯をくわしく見ていくことで、新技術の事業化のプロセスや技術・事業・知財の三位一体の経営、アジアの新興企業との競争対応などについて考えたい。
●技術経営のリーダーたち(4)
 大久保孝俊(住友スリーエム株式会社 CPO)
 「感動でイノベーションを引き出すグローバルリーダー」
●コラム連載:遺稿・21世紀への歴史的教訓(10)
 アルフレッド・D・チャンドラーJr. 「情報ネットワークの時代に何を学ぶのか(1)」
●連載:経営学のイノベーション(6)
 楠木建 「戦略ストーリーを読解する」
●マネジメント・フォーラム
 兼元謙任(株式会社オウケイウェイヴ 代表取締役社長):
       
インタビュアー・米倉誠一郎
 「みんなの知恵や経験知を交換する助け合いの「場」の運営によって大きな利益をあげる世界企業をめざします」
●用語解説
 島本実 「新エネルギー」

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