2006年度 Vol.54-No.2

2006年度<VOL.54 NO.2> 特集:サービスを科学する   

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2006年度<VOL.54 NO.2>
特集:サービスを科学する日本のサービスビジネスは、製造業との比較において生産性の低さやグローバル化の後れが目立つ。今後の日本経済の原動力としての期待が高まるものの、研究や知識の蓄積は少ない分野である。本特集では、日本のサービス産業の可能性や、非サービス業産業におけるサービス化の重要性について、マネジメント、サイエンス、エンジニアリングなどの観点から多面的な議論を展開し、日本のサービスビジネスの今後を展望する。
藤川佳則/カール・ケイ(一橋大学大学院国際企業戦略研究科専任講師/同博士課程) 生活起点のサービスイノベーション―サービス経済の起業家精神
 
  日本国内のサービス産業は従来、生産性や競争力における後進性が指摘されてきた。しかし、本稿では、そうした国内の旧態依然たる業界こそが起業家精神を発揮する最高の土俵であることに着目する。本稿では、古本業のブックオフ、写真館業のスタジオアリス、アミューズメント業のネクストジャパン、葬儀業のアーバンフューネスなど、斬新な発想と戦略を通して、日本人の日常生活に根ざした新しい顧客価値の創造に挑戦する事例に焦点を当てる。なぜ、こうした業界でイノベーションが実現できたのであろうか。これら「生活起点のサービスイノベーション」の事例を、サービスマネジメント分野で広く用いられてきたフレームワーク「サービス・プロフィット・チェーン」を応用することによって分析し、その機会発生や事業実現の論理に迫る。
小野譲司(明治学院大学経済学部助教授) 顧客起点のサービスマーケティング―囲い込みと使い分けのせめぎ合い
  顧客を自社にもたらす経済的価値でセグメント化し、それを起点にして、マーケティング上の資源配分や戦略展開を図る「顧客起点のアプローチ」については、さまざまな知見が蓄積されてきた。この顧客起点のアプローチがさらに進化しつつあることを指摘し、企業側の論理である「囲い込み」と顧客側の論理である「使い分け」を対概念として捉え、国際線航空と音楽CDショップの顧客調査データをもとに、最新の実証結果を紹介する。そして、顧客資産を自社のみで所有する「クローズドな囲い込み」に対し、提携パートナーと積極的に共有する「オープンな囲い込み」の有効性を提案するなど、サービスマーケティングの新たな方向性、さらにはサービスサイエンスの体系化に向けての展望を紹介する。
今枝昌宏(経営コンサルタント) 製造業のサービス化とサービスマネジメントへの2つのアプローチ
  サービスにおけるマネジメントは、製造業のマネジメントと異なり、希少な経営資源であるタレント当たりの利益の最大化が求められる。この目的を達成する方法として、「プロセス型サービス」と「プロフェッショナルサービス」という2種類のアプローチが存在する。本稿では、実務家の視点から論を進め、サービスにおける価値増加の仕組みと2種類のアプローチ、そのマネジメントシステムを明らかにしたうえで、それらのアプローチの異業種、特に製造業との親和性について検討する。また、サービス化で陥りがちな「罠」を明らかにし、その克服方法を提案する。
新井民夫/下村芳樹(東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻教授/首都大学東京大学院システムデザイン研究科システムデザイン専攻教授) サービス工学―製品のサービス化をいかに加速するか
  サービスは従来、マーケティング分野で主に議論されてきたが、そこではモノ(製造物)との比較から、サービスの無形性が強調されていた。これに対して、モノもサービスも同等に「人工物」として扱い、工学的手法を用いて人工物と人間、社会との関係を考える学問体系であるサービス工学が提唱されている。サービス工学の具現化ツールとして、筆者らはサービスを設計するためのサービスCADを構築しつつ、サービスと顧客と満足度を客観的に表現することで、サービスをシミュレートし、評価する方法を提案している。本稿では、そのサービスの定義や製品設計との違い、その実践例に言及しつつ、工学分野におけるサービス議論の最前線をビジネスコミュニティ向けに紹介する。
丹羽邦彦(独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター シニアフェロー) サービスサイエンス―サービスイノベーションを目指す多分野融合的アプローチ
  経験やノウハウに基づいて提供されていたサービスを科学の対象として捉え、IT・コンピュータサイエンス・数学・ビジネスマネジメント・マーケティング理論などを融合した新しい学問領域を体系化しようとするサービスサイエンス(SSME)の概念が注目されている。SSMEはサービス分野にイノベーションを生み出すものと 期待されるが、本格的な検討が始まってからまだ日が浅く、その全体像を明確にする模索が行われているところである。本稿では、主として技術的な観点から、米国の研究成果や世界各国でのSSME教育などの最新の動向を紹介するとともに多分野融合的なサービス研究の基礎づくりのあり方を問う。
豊田正和(経済産業省通商政策局長) サービス産業政策の確立に向けて
  日本経済が成熟するなか、サービス産業の果たす役割が増大している。また、進行する少子高齢化やグローバル化などの環境変化は、健康・福祉関連サービス、育児支援サービスや観光・集客サービスなどに新たなニーズを拡大させている。このように、わが国におけるサービス産業の重要性がますます大きくなると考えられる状況下で、経済産業省は今後10年の経済成長を視野に入れ、必要とされる産業政策を「新経済成長戦略」として提案した。その議論のために新設された産業構造審議会傘下のサービス政策部会は、2006年6月、サービス産業の革新に関する中間取りまとめを行い、今回初めての取組みとしての横断政策に加え、重点的に6つのサービス分野への施策を打ち出した。本稿では、経済産業省にて産業政策の最前線に立つ著者がこの取りまとめを踏まえつつ、サービス産業強化政策の骨子と方向性を紹介する。
妹尾堅一郎(東京大学先端科学技術研究センター特任教授) サービスマネジメントに関する5つのイシュー―サービスとモノづくりの関係から脱ニーズまで
  近年、継続的に人口が減少する日本において、国際競争力を維持し、新しい成長を実現していくためには、製造業とともにサービス産業の抜本的な生産性向上が不可欠だ、という議論が盛んだ。しかし、産学官公民連携によるサービス産業の活性化は推進すべきものの、果たして「経済成長の必要性→サービス産業の振興→サービス生産性の向上」という図式を単純に前提としてよいのだろうか。本稿では、この前提を吟味するために、「生産性向上とイノベーション」「サービス業と製造業」「標準化と個性化」「所有と使用」「不足解消ビジネスと不安解消ビジネス」という、今後のサービスマネジメントを考えるうえで必要な5つのイシューを取り上げることにした。実践例を交えながら新旧の概念を対比的に議論することを通じて、成熟社会に向けたサービス産業発展のあり方を考える。
●ビジネス・ケース
武石彰/金山維史/水野達哉(一橋大学イノベーション研究センター教授/一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース修了/一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース修了)
セイコーエプソン:自動巻き発電クオーツウオッチの開発
  セイコーエプソンは、長年にわたってセイコーグループ内でのウオッチの開発製造を担ってきた。セイコーは1969年、世界で初めてクオーツウオッチを商品化し、日本のウオッチが世界市場を席巻していくきっかけを作り出した。しかし1990年代以降、日本の時計産業はスイスやアジア勢の台頭で色あせ、その対抗策として、新技術を取り込んだ新しいタイプの腕時計を開発、投入することで巻き返しを図ってきた。その1つが、セイコーエプソンが開発した自動巻き発電クオーツウオッチKINETICである。これは、電池が不要な自動巻き機械式ウォッチの長所と時間精度が高いクオーツウオッチの長所を組み合わせた画期的な技術革新であった。日本の時計産業の現況を眺めつつ、KINETICの開発・事業化の経緯をたどる。
児玉公一郎(一橋大学大学院商学研究科日本企業研究センター プログラム・オフィサー) ヤマハ:携帯電話着信メロディ・ビジネスの技術開発、ビジネスモデル構築
  楽器メーカーのヤマハは、1970年代以降、パソコンやゲーム機用音源チップの供給者として独占的な地位を築いてきたが、1990年代後半の市況悪化で苦境に陥り、大規模なリストラを余儀なくされた。その一方で、新たに携帯電話の着信メロディ(着メロ)事業に目をつけ、軌道に乗せることに成功し、ヤマハの業績はV字回復を遂げることとなった。同社は、長年培ってきた音源技術をいかにして着メロという形で商品化し、新たなビジネスモデルとして確立していったのであろうか。携帯電話を取り巻く業界の構造や技術革新にも触れつつ、デバイスからコンテンツへのビジネスの転換を図ったヤマハの着メロ事業の立ち上げのプロセスをたどる。
●コラム連載:ネクサス―知識と企業者と市場の間(2)
 今井賢一 「企業者(アントレプレナー)にとっての「知識」」
●連載:経営学のイノベーションム
 西口敏宏 「ネットワーク思考のすすめ(2):トポロジーで考えるネットワーク」
●マネジメント・フォーラム
 岩田彰一郎(アスクル株式会社代表取締役社長兼CEO):
       
インタビュアー・米倉誠一郎
 「データとテクノロジーを用いたビジネスモデルで、世界をねらうネット企業を目指します」
●用語解説
 兼宗進 「Web2.0」

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