2006年度 Vol.54-No.3

2006年度<VOL.54 NO.3> 特集:企業リスクを防ぐ

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2006年度<VOL.54 NO.3>
特集:企業リスクを防ぐ企業リスクに向ける世間一般からの視線はより厳しくなりつつある。これは、新世紀に入り頻発している企業不祥事と無縁ではない。わが国でも、ここ数年さまざまな業界で顧客の信頼を損なう事件を起こしている。優良企業も例外ではなく、もはや日本企業の「品質神話」は崩れ去りつつある。では、いかに企業リスクを防ぐべきか。重要なのは、日本企業の経営スタイルにあったリスクマネジメントの仕組みを構築することである。本特集では、日本企業がリスクを制御し、持続的な企業価値の創造を実現するために検討すべき課題について取り扱う。
伊藤邦雄/加賀谷哲之(一橋大学大学院商学研究科教授/一橋大学大学院商学研究科助教授) ブランドリスクマネジメントと企業価値
 
  近年の企業不祥事の頻発、法制度の改革、レピュテーションリスクの増大により、企業リスクへの関心がかつてないほどに高まっている。その一因は、日本企業が1990年代の一連の経営改革によって、企業と社員の心理的距離感を増大させ、結果としてリスク予防・対応力を脆弱化させたことにある。こうした経営体質の変化に対応し、いかにして日本企業はリスクを回避し、持続的に企業価値を創造していくべきか。本稿では、社員1人ひとりがコーポレートブランドの一翼を担っているという自覚と誇りを喚起することで社員の規律意識を高め、リスクの発生を抑制する「ブランディング・ガバナンス」の推進を提唱する。そして、その推進にあたって不可欠となるブランドリスクの「見える化」の手法を日本企業に勤める社員への実態調査をベースに提案する。
中尾政之(東京大学大学院工学系研究科教授) 失敗学―似たような失敗が思い出せるか
  失敗学は失敗を防ぐための学問であり、「失敗学=失敗知識のマネジメント」である。その本質は、過去の失敗知識を有効に使って、「人のふり見てわがふり直せ」を実践することにあるが、失敗事例そのものを皮相的に捉えてしまうと、両者の共通性に気づかず、失敗から学習する機会を見逃してしまう可能性もある。本論文では、近年起こったいくつかの失敗・事故と著者の身近で起こった事故を事例にしながら、失敗を未然に防ぐための手法を検討する。日本企業では、失敗を顕在化することそのものをよしとしない傾向があり、若手の非正規雇用社員と団塊の世代の退職という問題とあいまって、失敗のリスクが徐々に増えてきている。本稿では、そうした諸問題をひもときながら、失敗知識の活用によって、作業効率増加と安全性減少をいかに両立させていくかを説く。
神林比洋雄(株式会社プロティビティジャパン代表取締役社長) ガバナンスを支えるリスクマネジメントと内部統制―最近の法規制を踏まえて
  経済社会・資本市場のグローバル化がいっそう進展するなかで、企業の事業活動や経営成果に対する説明責任の要請が高まってきている。また、新たな会社法や金融商品取引法などの昨今の法改正で、企業はより健全なガバナンスの確立を図り、有効なリスクマネジメントや内部統制を構築することが不可欠となっている。このような動きに対して、企業は後ろ向きの姿勢で応じるのではなく、持続的に企業価値を向上させていくうえで、リスクマネジメント、内部統制をいかに活用すべきかという視点で対処することが大切である。本稿では、最新の事例を解説し、米国での教訓をたどるとともに、ガバナンスを支えるという視点をベースに、経営環境の変化に適切に対応できる、戦略としてのリスクマネジメントと内部統制のあり方を探る。
川口修司(三菱総合研究所 情報セキュリティグループ主任研究員) 情報セキュリティガバナンス
  ITは今日の企業経営における「神経」の役割を担っているが、他方、ITのトラブルは企業経営そのものに影響する深刻な問題を招きかねない。この状況を踏まえ、企業においては、社会的責任にも配慮したコーポレートガバナンスと、それを支えるメカニズムである内部統制の仕組みを情報セキュリティの観点から企業内に構築・運用する情報セキュリティガバナンスの確立が求められている。そのためには、情報セキュリティ管理を実施するだけでなく、ステークホルダに対して情報セキュリティ戦略と取組みを開示し、評価を得る施策が求められる。本稿では、政府の促進施策や、経営課題として情報セキュリティに取り組み、情報開示にも前向きな先進企業の事例を紹介し、情報セキュリティガバナンスの確立に必要な要件や取組みの現状、
今後の課題などについて考察する。
丸谷浩明(京都大学経済研究所先端制作分析研究センター教授) 災害・事故リスクを乗り越える事業継続管理(BCM)
  事業継続管理(BCM)とは、企業が災害・事故等に遭っても重要業務をなるべく中断させず、できるだけ早急に回復するビジネス戦略である。近年、政府の大規模災害の経済被害対策の重要な柱と位置づけられ、その普及推進がガイドラインなどにより図られている。また、事業継続は、取引先とともに形成するサプライチェーン全体での取組みが求められ、普及先進国である米国・英国や国内先進企業では、取引先に事業継続計画(BCP)の策定を促す動きが始まっている。さらに、国際標準規格化についても、多くの企業で関心が高まっている。しかしながら、普及のためには専門人材が不足しており、その育成が急務である。内閣府、大学およびNPOで実務と研究に携わってきた著者が、BCMの概要と最新の動向を解説する。
木俣信行(鳥取環境大学環境情報学部教授) 環境経営格付とリスクマネジメント
  今日、企業活動がグローバル化するに従って経済規模も巨大化し、事業が複雑多岐に亘るようになるとともに、その経営の社会への影響力は大きなものとなっている。こうしたなかで、透明性の高い企業経営を求めるステークホルダからの声が高まってきている。格付はステークホルダーに経営の実態を概括して伝え、そのリスクを測る機能を有するが、財務面以外の格付として最近進められている環境格付は、環境やSR(社会的責任)にかかわるさまざまな課題への企業の取組みの合目的性を評価している。これにより、企業自身はもとより、ステークホルダーは、企業行動のもたらす多方面の影響やリスクを中長期的スパンで推し量ることが可能となる。本稿では、格付が持つ意味とさまざまな展開および効用を紹介するとともに、環境経営、サステナブル経営格付の現状と課題を紹介する。
●ビジネス・ケース
加藤俊彦/山口裕之(一橋大学大学院商学研究科助教授/一橋大学大学院商学研究科博士後期課程)
京セラ:長寿命電子写真プロセスの技術開発と事業への展開
  京セラのプリンタ・複写機事業は競合他社と比べ、規模としてはそれほど大きくはないものの、収益性は良好である。同社はプリンタ市場に参入した直後は後発者の地位に甘んじていたが、のちに本業である産業用セラミック製品の技術を活かして、消耗部品の寿命を飛躍的に高めつつ、生産コストの低減を実現する「長寿命電子写真プロセス技術」を開発した。この技術を最初に応用したページプリンタは、環境保護と低ランニングコストという利点をもたらす画期的な製品であった。競合他社の動向を眺めつつ、このような独自技術を事業で活用してきた京セラの技術開発と事業展開のプロセスをたどる。
朴宰佑/松井剛(神戸国際大学経済学部専任講師/一橋大学大学院商学研究科助教授) 日清ファルマ:コエンザイムQ10の量産化と事業化
  「コエンザイムQ10(CoQ10)」は従来、心臓病の医薬品として処方されていた成分であったが、欧米諸国で美肌やアンチエージングのサプリメントとして大ヒットし、日本でもブームを巻き起こした。その消費量は今後も世界的に増え続けると予測されている。しかし、全世界で消費されるCoQ10原料のほぼすべてが日本で生産され、日本が世界で初めてCoQ10の量産化を実現したという事実はあまり知られていない。このイノベーションを実現した日清製粉の化学事業部門(現・日清ファルマ)は、ビタミンの研究と量産化で培った技術とノウハウを生かして、複雑な化学合成を克服し、医薬品、健康食品分野への進出を果たしていく。本稿では、同社のCoQ10の量産化と事業化のプロセス、将来の課題についてたどる。
●コラム連載:ネクサス―知識と企業者と市場の間(3)
 今井賢一 「オープンソースのもたらすもの」
●連載:経営学のイノベーションム
 西口敏宏 「ネットワーク思考のすすめ(3):企業と政府 スモールワールド化」
●マネジメント・フォーラム
 安尾勝彦(ヤフー株式会社情報セキュリティ本部本部長):
       
インタビュアー・米倉誠一郎
 「インターネットのトップ企業としてスピードとセキュリティを追求します」
●用語解説
 亀谷勉 「デザイン力」

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