【一橋ビジネスレビュー】2024年春号 Vol.71-No.4

2024年春号<VOL.71 NO.4>特集:デジタル&バーチャル時代のマーケティング

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:オンライン、オフラインを問わず、あらゆる接点で顧客との関係を築くことがマーケティングの常識となった。今、一貫した体験を空間を問わず提供することや、自身のビジネスモデルを変革することが問われているが、これらにはさまざまな障壁がある。どのようにすれば顧客との最適な関係が構築でき、どのようにすれば顧客に最新の技術を受け入れてもらえるのか。本特集では、最新のマーケティング研究からうかがえる新しい定石を概観する。

特集論文Ⅰ 新技術導入によるオムニチャネル戦略の新たな局面
南知惠子
(神戸大学大学院経営学研究科教授)
オムニチャネル戦略は、開始されてから約10年が経ち、モバイルチャネルの発展やオンラインチャネルへの新技術導入により新たな局面を迎えている。本稿では、マルチチャネルからクロスチャネル、オムニチャネルへの進展について研究上これまで明らかにされてきたことを整理し、また、モバイルチャネルとAR利用効果に関する最新の研究を紹介する。オムニチャネルはオンラインとオフラインの相乗効果を出し、顧客経験を最適化するものとして期待されてきたが、モバイルチャネルの導入やオンラインチャネルの技術進化はオンライン上の経験についての限界を補い、強化するものとなる。オンラインチャネルはサービスプラットフォームとして発展の可能性がある。

特集論文Ⅱ オムニチャネル環境下での小売戦略
田頭拓己
(一橋大学大学院経営管理研究科准教授)
本稿は、オムニチャネル小売環境が整った状況を前提とした現代の小売マーケティング戦略について論じる。このような環境における小売企業による戦略として、①(顧客にとっての)不便の排除、②製品ブランドの確立、③顧客経験の提供、の3つの観点から議論する。これらの戦略は、それぞれ異なる消費者像(理論的枠組み)からその有効性の根拠が説明できるものであり、本稿はこれらの消費者像との関係に基づき戦略の有効性を論じている。また本稿では、これらの戦略を組み合わせながら各企業が競争優位をめざすことの重要性も実務的含意として提示している。

特集論文Ⅲ 現代の顧客が求めるオーセンティシティと買い物体験
奥谷孝司
(株式会社顧客時間 共同CEO取締役
パンデミックがもたらした「暮らしのデジタルシフト」。買い物体験におけるデジタル接点の利活用は当たり前のものとなった。そのようななか、リアルでの購買行動は戻りつつあるが、企業は改めてオンラインとオフラインを行き来する消費者との強固なつながりを作る手法に苦心している。本稿では、近年の海外マーケターのキーワードであるオーセンティシティ(本物感)をテーマに、リテールテクノロジーの利活用と、消費者の求めているオーセンティックという概念についてアカデミックな視点から考察を進める。さらに、オーセンティシティ構築がもたらすあるべき顧客価値とは何かを顧客エンゲージメントとの観点から提示する。

特集論文Ⅳ オンラインプラットフォームにおけるマーケティング戦略:YouTube上のビッグデータ分析より
青木哲也
(一橋大学社会科学高等研究院特任講師
GAFAに代表されるプラットフォームの経済的影響力は拡大の一途をたどり、もはやそれぞれが1つの大きな市場として機能している。こうした新市場で操業する企業に求められるマーケティング戦略は、どういった点で通常の戦略と異なるのだろうか。オンラインプラットフォームには、プラットフォーム参加者の行動が記録・公開・活用されるという通常の市場とは異なる固有な特徴がある。この特徴に起因して、①自社の優良顧客ばかりでなく、自社以外の購買先を複数持つ「移り気な顧客」に注目すること、②顧客全体に直接対応できないのであれば、顧客同士の交流促進に注力すること、③顧客と自社を結ぶ複数チャネル間の調整に気を配ること、の3つのポイントがオンラインプラットフォーム上では重要となる。

特集論文Ⅴ オンラインショッピングでのARの応用とその効果
日下恭輔
(北陸大学経済経営学部助教
本稿の目的は、オンラインショッピングにおいて、「拡張現実(AR)が消費者に対してどのような効果をもたらすのか」および「ARの応用で企業の財務成果は向上するのか」という実務上の疑問に回答することである。これらに回答するため、ARが生み出す特徴的な体験である空間的プレゼンスに着目し、マーケティング研究における実証研究を概観した。空間的プレゼンスとは、ARなどのメディアの使用者が「そこにいる」と感じることである。この感覚は、消費者のオンラインショッピング体験の評価を高めるだけではなく、実際に手に取ることができない製品の評価を容易にする可能性が示唆される。また、こうした機能を持つARは製品の売上にも貢献する。

特集論文Ⅵ マーケティングにおける関係性の拡張:DXの視点から
今井紀夫
(阪南大学経営学部専任講師
デジタルマーケティングでは、すべてのステークホルダーに向けた価値の創出、提供、持続が強調されている。そのためのビジネスの捉え方や組織の能力のあり方を考えるときに、プラットフォームを基礎とするエコシステム、そして、デジタルトランスフォーメーション(DX)の概念は「関係性の拡張」という観点で共通点を有する。本稿では、それぞれの言葉はよく知られているものの、必ずしも一体的に意識されているとは限らないデジタルマーケティング、エコシステム、DXの関係を整理する。

[連載]理解のマネジメント
[第1回]行為を支える理解
佐藤大輔
(北海学園大学経営学部教授)

[連載]産業変革の起業家たち
[第18回]職人からテック企業経営者へ
      建設DXで世界をめざす
伊藤謙自
(スパイダープラス株式会社 代表取締役社長兼CEO)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊

[連載]戦略人事の考え方
[第3回]人材マネジメントの一貫性の向上
島貫智行
(中央大学大学院戦略経営研究科教授)

[ビジネス・ケース]
沖電気工業 ――デザイン思考の浸透と全員参加型イノベーションの推進
鈴木智子(一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻教授
イノベーションの創出方法としてデザイン思考に着目する企業は多いが、一過性のデザインプロジェクトではなく、組織にデザイン思考を浸透させることに成功している企業は意外に少ない。沖電気工業は、「全員参加型イノベーション」を掲げ、社員全員をデザインシンカーに育てるための取り組みを行っている。それが、「Yume Pro(ユメプロ)」と呼ばれる、国際標準ISO56002を先取りしたイノベーション・マネジメントシステム(IMS)である。2023年には、Yume Pro活動を通じて創出された商品として、物流業界の問題解決に向けて高効率な店舗配送を実現する配送計画最適化サービス「LocoMoses(ロコモーゼ)」を開始した。本ケースでは、Yume Proの仕組み、ならびにその啓発と実践の詳細を描き、デザイン思考の組織浸透に向けて必要な要因について考察する。

宮下酒造 ――クラフト酒文化の創発と創出
大倉 健/堀 圭介
(就実大学経営学部准教授/就実大学経営学部准教授
1990年代半ば、ビール製造数量の規制緩和をきっかけに全国各地で一斉に小規模事業者によるビール事業が開始され、いわゆる「地ビール」が一大ブームとなった。各地の地ビール事業者たちがローカル性を中核的なコンセプトにした事業モデルをとったのに対して、岡山県にある宮下酒造はそれとは異なる独自の広域的な事業モデルを展開した。地ビールブームはわずか数年で落ち着くが、同社はその初期の取り組みを手掛かりとして事業を発展させ、2000年代の業界低迷期も乗り切って成長を続けてきた。その過程には、現在の「クラフトブーム」に連なる「クラフト酒文化」という「新しい世界」の主体的な発見と創出があった。

花王 ――蚊よけクリーム「ビオレガード モスブロックセラム」の開発
西原(廣瀬)文乃/長縄玲央
(立教大学経営学部准教授/立教大学経営学部経営学科4年
花王は、1887年の創業時から清浄文化の醸成をめざし、1890年に発売した国産石けんを手始めに、シャンプーや洗濯石けん、日焼け止めなどの日用品や化粧品など、生活者の視点に立った製品開発を進め、製品の普及のためのブランディングやマーケティングを行ってきている。さらに2010年代初めからは、新たな製品領域として蚊が媒介する感染症に関する研究を始めている。蚊が媒介するマラリアやデング熱などの感染症は、蚊に刺されないことがいちばんの予防策であるが、そのために使われてきた殺虫剤や従来の蚊よけスプレーなどは、人にも蚊にもいくつかの課題があるものであった。本ケースでは、こうした課題を解決すべく、独自の視点と技術で開発した蚊よけクリーム「ビオレガード モスブロックセラム」の開発を取り上げる。

[マネジメント・フォーラム]
デジタル技術とビジネスモデルの革新で国内外の障壁に挑む
三木谷浩史
(楽天グループ株式会社 代表取締役会長兼社長)
インタビュアー:米倉誠一郎

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