【一橋ビジネスレビュー】2024年夏号 Vol.72-No.1

2024年夏号<VOL.72 NO.1>特集:サステナブルデザイン
                ー 新しい発展と成長を支えるデザインの力

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:産業革命以降、人類が追求し続けた大量生産、大量販売、大量消費、大量廃棄という経済パラダイムが限界に到達している。限られた地球資源を丁寧に使いながら持続的成長と環境保全を両立させる新しいモデルが各分野で求められているのである。本特集では、そうした新しいパラダイムを支えるデザインの力に迫る。それは、単に意匠という意味のデザインにとどまらない。いかなるマテリアルをいかに効果的かつ効率的に利用していくのか。生産工程の簡素化まで見込んだプロダクトデザインのあり方、さらには、当初から膨大な廃棄を想定した受発注の根本的な見直しなど、これまでの常識を覆すような広義のデザイン革命を含むものである。

特集論文Ⅰ サステナブルデザインとは成長のことなのだ
パトリック・ラインメラ/米倉誠一郎
(IMDビジネススクール ストラテジー&イノベーション教授/一橋大学名誉教授・デジタルハリウッド大学大学院特命教授)
産業革命以来の「連続生産工程」というテクノロジーは、大量に生産しやすいデザインを求め、その結果生まれた大量の商品を大量に販売するためのデザインが考案された。工業化の進展がさらに進むにつれ、より豊かな社会を求めて「大量生産・大量販売・大量消費」というサイクルが拡大していった。これに拍車をかけたのが、20世紀に入ってアメリカを中心に生まれた「計画的な陳腐化」なる戦略概念である。まだ使える商品でさえ大量廃棄される事態が出現したのである。その背景には、「広大なる地球は、人間の無謀な所業を受け止めて余りある」という暗黙の前提があった。しかし、地球の寛容度は限界に達し、天変地異を通じて悲鳴を上げ始めた。ここに、「大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄」を前提としないサステナブルデザイン観が提唱され、それを実践する企業群が登場している。本論文は、欧米日の企業の事例を挙げて、こうしたサステナブルデザインが新たな成長や経済発展と同義語であるという視点を提供する。

特集論文Ⅱ ファシリティマネジメントとサステナブルデザイン
似内志朗
(ファシリティデザインラボ 代表)
ファシリティマネジメントとは何か。そして、サステナビリティが前提である現代のファシリティ(都市、建築、ワークプレイス)の条件とは何か。本稿では、SDGs/ESG時代におけるファシリティの課題を、環境課題解決(E課題/for EARTH)としての「環境負荷の最小化」と、社会課題解決(S課題/for PEOPLE)としての「ウェルビーイングの最大化」というシンプルな構図で整理する。この2つを両立させ、さらに経済課題と整合させることが必要である。そして、すべての起点となるサステナブルデザインの重要性と今後の可能性について述べていく。

特集論文Ⅲ サステナブルデザインの再構築
ファラ・タライエ
(株式会社NewNormDesign CEO兼ヘッドアーキテクト
地球を守り、私たちの生存環境を保全することがサステナビリティだとすれば、それを実現するための建築物や商品、サービスをデザイン・設計することがサステナブルデザインである。それは手法であると同時に、設計思想・設計哲学でもある。そして、コンセプト創造から製造・廃棄に至るまで、製品ライフサイクルのあらゆる段階を考慮した包括的なアプローチでもある。本稿では、サステナブルデザイナーとして長く建設・建築の仕事にかかわってきた著者が、都市や建築の事例を紹介しながら、実際の社会課題解決の手法としてのサステナブルデザインの重要性について論じる。特に、「人間中心のデザイン」から「地球中心のデザイン」への移行を、7つのコアバリューの実践から提案する。そして、サステナブルデザインの影響を社会面・経済面・環境面にわたって検証し、それが環境ばかりでなく、人類の幸福やコミュニティの復活、さらにはウェルビーイングの向上につながることを説く。

特集論文Ⅳ サステナブルファッションの発展に関する概念的検討
水野大二郎
(京都工芸繊維大学未来デザイン・工学機構教授
持続可能性から再生可能性へ、ひいては生存可能性として、あらゆる生命にとって生存可能な人新世をビジネスは思考できるのか。採取主義的ビジネス戦略に臨界点が見えたファッション産業にとって、GX(グリーントランスフォーメーション)は喫緊でありながらも、困難な課題として近年認識されている。本稿では、サステナブルファッションと呼称される一連の持続可能性への移行がどのように推進されているのか、また、その展望としてマルチスピーシーズ(複数種)との相互依存性に基づくリジェネラティブデザイン(環境再生型デザイン)へとどのように結節しつつあるのか、について紹介する。

特集論文Ⅴ 日本型サーキュラーシティのトータルデザイン
                      鎌倉型「中都市モデル」の可能性

田中浩也
(慶應義塾大学環境情報学部教授
循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行が進められるなか、「企業レベル」の取り組みとは別に注目を浴びているのが「都市レベル」の取り組みである。欧州で進む循環型都市(サーキュラーシティ)への実践を日本国内でも立ち上げる方法を探るなか、著者らは「中都市」にその可能性を見いだし、神奈川県鎌倉市を拠点に研究と実践を行っている。本稿では、「循環者」と名づけた未来市民ペルソナを中心に据えた包括的・体系的視座をもとに、産学官民の連携・共創により取り組んでいる種々のプロジェクトを報告する。

特集論文Ⅵ 未来志向のサステナブル不動産
                      環境とAIの融合

井上惇
(株式会社THIRD 代表取締役
従来の不動産業界は、新築重視の経済モデルを追求し、老朽化した建物の建て替え(スクラップアンドビルド)が常態化してきた。しかし、こうした姿勢は大量の廃棄物とCO2を排出し、持続可能性に欠けていた。本稿では、ホールライフカーボンの概念からサステナブルな建物のあるべき姿を探る。著者が所属するTHIRDの独自調査は、欧州の環境規制動向と日本の遅れを明らかにし、データの利活用による既存物件の環境価値向上の実例と課題を提示する。また、最新のテクノロジーを活用して建物の情報化と現場の問題点を明らかにし、具体的な事例を紹介する。不動産業界のDXは遅れているが、AIによる建物設備の有効利用と環境保護の両立が可能である。本稿では、新しい不動産サステナビリティの概念を示している。

[特別寄稿]二項動態による集合「実践知」創造
野中郁次郎/川田英樹/川田弓子
(一橋大学名誉教授/多摩大学大学院教授/一橋ビジネススクール研究員)
『失敗の本質』の刊行から40年。示した教訓は「過去の成功体験への過剰適応を避けよ」であった。組織には慣性が働き、変化を嫌う性質があるが、組織内外の環境変化に直面しても無限に自己変革を志向する組織でなければ生き残れない。本論文では、自己変革する組織の本質は、二項動態による集合的な実践知創造にあることを論考する。経営活動におけるさまざまな矛盾やジレンマを「あれかこれか」の二項対立(dichotomy)で切り抜けるのではなく、「あれもこれも」の二項動態(dynamic duality)経営を実践できれば、葛藤や緊張を超えて、新たな価値創造への道を切り拓くことができる。それは、人間の創造性や野性を解放して、多様で異質な知を組織内外のスクラムで総結集する、集合「実践知」創造による組織的イノベーションに他ならない。本論文では、二項動態の哲学的基盤を検討するとともに、「新しい日本的経営」を創造する企業の事例も紹介しながら、「二項動態」経営の本質を掘り下げる。

[連載]理解のマネジメント
[第2回]理解を通じて人を動かす
佐藤大輔
(北海学園大学経営学部教授)

[連載]産業変革の起業家たち
[第19回]日本のスタートアップにM&Aイグジットという選択を
荒井邦彦
(株式会社ストライク 代表取締役社長)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊

[連載]戦略人事の考え方
[第4回]人材マネジメントによる組織力の構築
島貫智行
(中央大学大学院戦略経営研究科教授)

[ビジネス・ケース]
Ankerグループ ――製品改良からイノベーションへ
網倉久永/姜一麒
(上智大学経済学部教授/上智大学大学院経済学研究科修士課程修了
世界最大の充電製品のメーカーの1つである中国のAnkerグループは、2011年の設立以来、急成長し、現在、北米、ヨーロッパ、日本をはじめとする世界100以上の国と地域で1億人以上のユーザーを擁している。近年では、スマートフォンの周辺機器の他、オーディオやスマートホーム分野のブランドも展開している。Ankerグループは創業時から、アマゾンなどのECサイトを主力販売チャネルとし、その後、実店舗チャネルを開拓し、オフラインの売上構成を伸ばしてきた。モバイルバッテリーやケーブル類は、比較的新しいカテゴリーの製品であり、技術的な参入障壁がさほど高くないことから多数の競争業者が存在する一方で、購買にあたってのユーザー関与度が低いため、市場では熾烈な競争が繰り広げられている。そのなかで、Ankerグループはどのようにして驚異的とも形容できる高成長を達成できたのだろうか。本ケースでは、Ankerグループの成長とイノベーションのプロセスをたどる。

レノバ ――持続可能な社会を形にする
軽部大/宮澤優輝/山田仁一郎(一橋大学イノベーション研究センター教授/一橋大学大学院経営管理研究科修士課程/京都大学経営管理大学院教授
再生可能エネルギーの推進において世界的に出遅れていた日本では、新興企業であるレノバが多様な協業相手との事業展開を通じて、黎明期にある再生可能エネルギー市場を開拓してきた。同社は、日本とアジアにおけるエネルギー変革のリーディングカンパニーとなることを目標に掲げ、再生可能エネルギーを専業とする唯一の上場企業として、アジア各国でマルチ電源(太陽光、バイオマス、風力、地熱、水力)の開発・運営を推進している。レノバは前例のない世界で、地域との共生を通じて、いかに再生可能エネルギー事業を形にし、地球規模の課題解決に貢献してきたのだろうか。本ケースでは、脱炭素を通じて地球規模の社会的課題の解決に挑戦するレノバの歩みをたどりながら、持続可能な社会をめざす同社の事業戦略と、それを支える組織理念や人材育成を紹介する。

[マネジメント・フォーラム]
消費者の「楽しい」を主役に、日本発の循環型社会をつくる
岩元美智彦
(株式会社JEPLAN 取締役 執行役員会長)
インタビュアー:米倉誠一郎

[ポーター賞]
第23回 ポーター賞受賞企業に学ぶ
大薗恵美
(一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻教授)

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