2023年冬号<VOL.71 NO.3>特集:ルール作りでビジネスを変える
特集:世界各国・地域が独自のルールを展開し、自国・地域に有利なビジネス環境を作り出している。現代の経済社会では、各市場において自らに有利な形にルールを作り替えなければ市場を失う可能性が高い。日本でも、ルールを変え、うまく使いこなすノウハウを得て、その力をビジネスに活用する組織が生まれ始めている。本特集は、こうした新たに生まれつつある組織の経験を知ることで、ビジネスツールとしての「ルールを変える力」を日本企業が獲得することを期待して構成した。
特集論文Ⅰ ルール形成のプロセスにおけるマネタイズの道筋
標準化・規制対応の「兵站」強化こそ日本産業界の急務
羽生田慶介
(株式会社オウルズコンサルティンググループ 代表取締役CEO)
今の日本企業に必要なのは、もはや新興国企業から自らを守る「競争戦略」視点でのルール形成ではない。社会課題解決につながる新たな価値を定義し、それをビジネスとして成立させる「新市場創出」の観点でのルール形成戦略が急務だ。政府による企業啓発ではこの進展は望めない。不慣れな日本企業がルール形成に必要な機能を内部に具備するのは容易でない。今、官民でめざすべきは、ルール形成の「成果」のみならず、プロセスの強化、すなわち支援機関の育成である。折しも、米欧中のルール形成「列強」もその姿勢を強めている。本稿では、ルール形成のプロフェッショナルサービスのマネタイズとはどういうものかを整理し、今後解決すべき日本の課題を論じる。
特集論文Ⅱ パブリックアフェアーズによるルール形成の支援活動
電動キックボードの社会実装を事例として
城譲
(マカイラ株式会社 執行役員/Makaira Public Affairs代表)
近年、ルールメイキングを志向する企業や団体が増えており、パブリックアフェアーズ・コンサルティングを業としているマカイラ株式会社への相談も増えている。パブリックアフェアーズとは「企業・団体などが事業目的の達成のために行う、公共・非営利分野や社会への戦略的関与活動」であり、マカイラでは、政策リサーチ・政策提言、ロビイング、セクター間連携のコーディネーション、イベントやシンポジウムの企画、メディアリレーションズなど、広範なパブリックアフェアーズ活動を支援している。本稿では、マカイラが直近でかかわった電動キックボードのルール整備の事例も交えて、パブリックアフェアーズについて説明していきたい。
特集論文Ⅲ 規制改革、ルールメイキングにおけるエコシステムの役割
桜井駿
(株式会社デジタルベースキャピタル 代表パートナー)
スタートアップをはじめとする民間企業によるデジタル、イノベーション創出において、政府も規制改革や産業変革を後押しする形で取り組みを加速している。金融、不動産、建設などの規制産業においては、スタートアップや民間企業単独での取り組みは難しく、官民が連携したエコシステム構築による取り組みが必要となっている。イノベーション、規制改革は誰のためのものなのか。プロジェクトを進めるカギは何なのか。本稿では、実際に特定産業で官民連携を進める事例を挙げて紹介する。
特集論文Ⅳ 民間のルール形成におけるかかわり方の変化
プロトタイプ政策研究所の展望
落合孝文/小泉誠/宮田洋輔
(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 シニアパートナー,弁護士/デジタルリテラシー協議会 事務局/株式会社ポリフレクト 代表取締役社長)
情報通信技術の進展が進み、カーボンニュートラル、安全保障など、さまざまな環境が大きく変化するなかで、公がルールを作成し、それに民間が従うという旧来の構図では、横断的な社会課題に対し、適切なルール形成を図れないケースが多くなってきている。著者らは、2022年6月にプロトタイプ政策研究所を設立し、母体となった法律事務所のメンバーだけでなく、外部から企業の渉外・法務担当者、学者、公務員経験者、コンサルタント、他法律事務所の弁護士ら20人を集め、通信、労働市場、金融インフラ、政府のEBPM(証拠に基づく政策立案)に向けたデータガバナンスの整備などの提言を行っている。本稿では、なぜこのような組織の設立が必要となったのか、その背景となるビジネスと制度との変化とはどのようなものか、そして、同研究所ではどのような活動をめざしているのか、などを整理し、今後のルール作りとビジネスとの関係強化に必要となるさまざまな活動を紹介する。
特集論文Ⅴ 標準化を活用したルール作りとビジネスへの活用
規格は成長して標準になる
江藤学
(一橋大学イノベーション研究センター教授)
標準化活動は日本企業にとっては長い間ボランティア活動のように扱われてきた。21世紀に入り、自ら標準化を率先することの重要性が認識されてきたが、企業の視点は個社で市場を支配することで得られるデファクト標準に向けられ、コンセンサス過程を持つ標準化活動はビジネスツールの主流とは見られなかった。ところがここ数年、コンセンサス標準化活動がルール作り活動の重要なツールとして注目され始めた。これは、標準化活動によって成立する任意規格が強制力を持つルール作りの第一歩として、企業が個社でも取り組むことのできる活動と認識されたからだ。本稿では、コンセンサスで作成された任意規格が強制力を高めていく過程を整理し、政府の支援制度がどのように強制力の強化に活用されているかを分析する。
[連載]産業変革の起業家たち
[第17回]独立系ベンチャーキャピタルとして
日本発のスタートアップを世界へ
百合本安彦
(グローバル・ブレイン株式会社 代表取締役社長)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊
[連載]戦略人事の考え方
[第2回]経営戦略と人材マネジメントの連動
島貫智行
(中央大学大学院戦略経営研究科教授)
[私のこの一冊]
■学問と国づくりの関係を再考する ――福沢諭吉『学問のすゝめ』
芦澤美智子
(慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授)
[ビジネス・ケース]
日本航空 ――進化する意識改革
服部泰宏/谷口悦子/金井文宏
(神戸大学大学院経営学研究科教授/立命館大学OIC総合研究機構 稲盛経営哲学研究センター客員助教/立命館大学OIC総合研究機構 稲盛経営哲学研究センター客員教授)
日本航空(JAL)は、 2010年1月に経営破綻したが、 京セラ名誉会長・稲盛和夫の会長就任により、当時史上最速の再上場を果たした。再生にあたって、京セラの経営で磨き上げてきた2本柱、 すなわち新生JALのフィロソフィを全社員に浸透させる「意識改革」および部門別採算制度である「アメーバ経営」が導入された。経営指標の改善にアメーバ経営が寄与したことは周知の事実であるが、これを支えたのが一連の意識改革である。具体的には、全社員教育(JALフィロソフィ教育)と現場における社員の組織学習・組織行動であり、本ケースでは、意識改革が「進化」していくプロセスを明らかにする。JALの事例は、パーパス経営の核ともいえる企業理念・フィロソフィの社員への浸透が、「自律型人財」の成長を促し企業再生に果たした役割を示すものとして、重要な価値を持つ。
FLOSFIA ――α型酸化ガリウム半導体のイノベーション
藤原雅俊/青島矢一
(一橋大学大学院経営管理研究科教授/一橋大学イノベーション研究センター長・教授)
われわれが使用するエネルギーは、ますます電気に依存するようになりつつある。そのキーデバイスとして、電力変換を担うデバイスであるパワー半導体が注目されている。その材料として主にシリコンが用いられてきているが、近年はシリコンカーバイドや窒化ガリウムといった材料でも市場化されている。そして今、さらに高性能な新材料として期待されているのが酸化ガリウムである。このうちα型と呼ばれるタイプの酸化ガリウムを用いたパワー半導体デバイスの開発と実用化を進めているのが、京都大学発スタートアップとして2011年に設立されたFLOSFIA(フロスフィア)だ。α型は多くの開発課題を抱える材料で、既存企業からは敬遠されていた。にもかかわらず、なぜ新興企業のFLOSFIAはその開発に挑み続け、今日に至るまで成果をあげられているのだろうか。本ケースではその過程を、当事者たちへの取材などをもとに材料開発の源流にまでさかのぼって記述していく。
ジーニーラボ ――小規模ITサービス企業が推進する間接材購買取引の標準化
宇野舞
(一橋大学大学院経営管理研究科特任講師(ジュニアフェロー))
ジーニーラボは、最新技術に依存せず、業務の標準化というオーソドックスな視点から、間接材購買取引のあり方を変革しようとしているベンチャー企業である。間接材の種類は多岐にわたり、1つの企業のなかにおいても、品目ごとあるいは部門ごとに異なるプロセスやルールで取引が行われている。したがって間接材購買は、企業内での標準化も、企業横断的な標準化もきわめて難しい領域である。本ケースでは、複雑な間接材購買領域において、間接材の買い手企業と、最終的には売り手企業の業務を効率化することに、ジーニーラボがどのように取り組んでいるかを明らかにする。
[マネジメント・フォーラム]
技術とルール作りの掛け算で、グローバルに市場を切り開く
十河政則
(ダイキン工業株式会社 代表取締役社長兼CEO)
インタビュアー:米倉誠一郎/江藤学
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