【一橋ビジネスレビュー】 2021年度 Vol.69-No.1

2021年夏号<VOL.69 NO.1>特集:グローバル経営の再構築
――これからの日本経済と世界経済のつなげ方

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:現在、日本経済は世界経済とのつなげ方を問われている。日本国内では労働力不足が深刻で、外国人人材との融合は1つのカギである。また、2003年の観光立国宣言以降、日本政府は観光政策を次々と打ち出し、新型コロナウイルス感染拡大までは日本経済を牽引する1つの産業になるはずであった。一方、これまで大きく拡大してきたグローバル化の流れは、重要な転換期に入っている。従来の貿易規制のレベルを超えて、各国・各地域の保護主義が鮮明になり、モノ・カネ・ヒト・情報の移動に制限がかけられている。主要国で台頭した大衆迎合政権の内向的姿勢に、コロナ禍が拍車をかけたことは言うまでもない。本特集では、こうした現状をさまざまな観点から見つめ直し、これからの日本経済と世界経済のつなげ方について議論する。


特集論文Ⅰ グローバルでオープンなR&D戦略への変革
――武田薬品工業の事例から
浅川和宏/ハリー・コリーン
(慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授/
 ロンドン・ビジネススクール講師)

自国中心主義、自前主義をベースに長年の成功体験を有する大企業が、その限界を悟り、グローバルでオープンな経営に短期間で戦略転換することは可能か。これは国内志向・自前志向で成功を収めてきた多くの日本企業に当てはまる課題である。本論文では、長年の自国主導、自社内中心のR&DからグローバルでオープンなR&Dへわずか数年の間に大きく舵を切った武田薬品工業の事例を通して、実績ある日本の大企業でも組織慣性を克服し、自己革新が可能であることを示す。そのカギは、経営マインドセットのジオセントリックへの刷新と、変革を促すガバナンスの役割にあることを、具体例をもとに示したい。

特集論文Ⅱ グローバルな製品開発戦略の進化
――ダイキン工業 成長の軌跡

柴田友厚
(学習院大学国際社会科学部教授)
日本企業にとってグローバル戦略の推進は不可避だが、そこに横たわる根本課題は、グローバル統合とローカル適応のジレンマといわれる経営課題である。本論文では、この課題解決への道筋をつけるためには、モジュラー戦略が有効性を持つことを主張する。その上で、グローバル化の顕著な成功例とされるダイキン工業が、グローバル化を進める途上でどのような課題に直面したか、そして、それを克服するために従来の製品開発戦略からモジュラー戦略へ転換したプロセスを紹介する。

特集論文Ⅲ 日本企業の海外子会社における言語選択
金 熙珍/板垣 博/関口倫紀
 (東北大学大学院経済学研究科准教授/
  武蔵大学名誉教授・埼玉大学名誉教授/
  京都大学経営管理大学院教授

日本企業は海外子会社の経営において、どの言語を使用しているのだろうか。言語選択の理由と、言語選択における経営上の課題は何だろうか。そもそも、言語選択と国際経営にはどのような関係があるのだろうか。本論文では、アジア地域における日本企業の海外子会社8社の事例から、日本語、英語、現地語のうちのどれを重視し、あるいはどれを組み合わせて使用しているのかについて異なるパターンがあることを示す。そして、日本本社からの知識吸収、多様な拠点・顧客との連携、現地市場への埋め込みといった異なる合理的理由に基づいた言語選択のパターンについて説明し、それぞれのパターンにより人材管理上の課題も違ってくることを指摘する。本論文は、国際経営において言語を戦略的資源として捉える視点を提供する。

特集論文Ⅳ グローバル人材とそのマネジメント
――国際人的資源管理研究から得られる知見

山尾佐智子
(慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授
本論文では、長年にわたる国際人的資源管理論の研究蓄積のなかから、海外派遣者、自主的海外勤務者といった、グローバル人材のマネジメントに言及した主な研究をレビューした。そこから、企業が対象となる人材に、異文化研修やメンタリングなどの人事的サポートを行う必要があることがわかる。たとえば、国内の部署に外国人社員が加わる場合、入ってくる外国人社員に日本社会や企業文化への理解を促すと同時に、既存社員にも異文化研修や継続的なコーチングを行い、相互理解を促すことが必要であろう。管理職研修やダイバーシティー研修の一環として、異文化研修の要素を取り入れることもできるのではないか。さらに、海外勤務やチームの職務遂行上のゴールを明確化することや、キャリアパスを示すことも重要である。

特集論文Ⅴ 生産システムのグローバリゼーション
――物理空間とデジタル空間の視点から
石田 修
(九州大学経済学研究院教授
生産システムのグローバリゼーションに注目すると、一方では、物理空間として、国境間における障壁が低下し、国境にまたがる組織内・組織間の取引が観察される。他方では、デジタル化によるデジタル空間の拡張に伴い、取引費用が削減され、グローバル化が促進された。そのため、生産プロセスのタスクが細分化され、組織間関係の国際的補完関係が形成されて、生産システムの効率化の追求がグローバル化のプロセスを進めた。また、デジタル空間の拡張にあわせた生産システムの調整制度として、4つのネットワークが注目される。さらに、デジタル空間の拡張は経済にこれまでにない影響を与えている。換言すれば、物理空間編成をデジタル化が促進するとともに、デジタル空間が物理空間編成を変容させている。本論文では、生産システムのグローバリゼーションを物理空間とデジタル空間の両面から考察する。

特集論文Ⅵ 自社のサービス部門に「3次効果」への備えはあるか
ハン・H・スプリング
(京都大学経営管理大学院准教授
コロナ禍の下でさまざまなサービスへのデジタル技術の導入が、予期せぬ速さで進んでいる。ここで大切なのは、こうした技術がサービスの性質にもたらした変化を観察し、評価することである。本論文では、分析の1つの枠組みとして、サービスに技術を取り込んだことで生じる影響を評価するための「デジタル技術による3次効果」の理論を紹介する。1次効果は、既存のサービスルーティンを支援する目的でデジタル技術を設計し、直接適用することで得られる。2次効果は、サービスの現在のプロセスが、デジタル技術の特性を反映したものに変わること。そして、3次効果には、サービスそのものを動的に作り直す機能の開発などが挙げられる。本論文では、世界各地でのデジタルを用いたサービスの変革事例を取り上げながら、新常態におけるサービス業の競争力強化のために、3次効果の導入への意思決定者への素早い戦略的判断を提唱する。

特集論文Ⅶ 米中対立と技術標準の地政学 
――岐路に立つグローバル化とテクノナショナリズム

イ・ヒジン
(延世大学校国際学大学院教授
近年、世界の至る所で行われている生産と消費のグローバリゼーションが疑問視され、グローバルバリューチェーンのデカップリング(切り離し)などについても言及されるようになった。グローバリゼーションの危機は、テクノナショナリズム(技術国家主義)という思潮が再浮上したことと深くかかわっている。アメリカと中国の技術標準化をめぐる紛争の文脈から考えると、テクノナショナリズムはグローバリゼーションの危機を誘発した原因の1つであり、その結果が深化して表れることもある。本論文では、このグローバリゼーションの危機を導き出した技術標準、その技術標準化という場で行われている地政学的な競争について、テクノナショナリズムの観点から検討する。そして、テクノナショナリズムを強めているアメリカと中国に対して、日本と韓国のような国々がとるべき道について考察する。

[私のこの一冊] 
■人間の根本原理を知る
――乾敏郎・阪口豊『脳の大統一理論─自由エネルギー原理とはなにか』

永山 晋
(法政大学経営学部准教授

[連載]産業変革の起業家たち
[第7回]AIでリアル産業の現場を革新する
岡田陽介
(株式会社ABEJA 代表取締役CEO)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊

[連載]イノベーションマネジメントの定石
[第2回]着想を促す「つながり」の科学
吉岡(小林)徹
(一橋大学イノベーション研究センター講師)

[連載]「ポジショニング」を問う――顧客の脳内をどう制するか
[第1回]今、なぜポジショニングを問うのか
結城 祥
(神戸大学大学院経営学研究科准教授)

[ビジネス・ケース]
Spiber ――構造タンパク質素材で世界を変える
青島矢一/藤原雅俊
(一橋大学イノベーション研究センター長・教授/
 一橋大学大学院経営管理研究科教授

慶應義塾大学発の学生ベンチャーとして2007年に山形県鶴岡市に設立されたSpiberは、クモ糸に由来する構造タンパク質素材を人工的に生成して量産するという、前人未踏のイノベーションへの挑戦を始めた。クモ糸は強靭さと伸縮性に優れるスーパー繊維であり、その量産化が実現すれば、石油由来の繊維を代替し、環境負荷を大幅に軽減する潜在性を持っている。実験室レベルで構造タンパク質を生成することに成功した後に同社は、その商業化に向け、ベンチャーキャピタルや事業会社から出資を受けつつ、有力企業との協業や大企業OBからの支援の下で、低コストで高品質の製品を量産する技術とノウハウを確率してきた。本ケースでは、同社の歩みとマネジメントの特徴を紹介し、その成長を支えてきた出資者や外部の技術者、パートナー企業とのやり取りの軌跡を描く。

アクセルスペース ――衛星データプラットフォーム事業への挑戦
菅原岳人/大薗恵美
(東京大学産学協創推進本部 スタートアップ推進部 ディレクター・特任研究員/
 一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授

アクセルスペースは、超小型衛星の設計、開発、運用に強みを持つ、2008年設立の東京大学のスタートアップ企業である。「宇宙を普通の場所に」をビジョンに掲げる同社は、超小型衛星のメーカー兼オペレーターという基盤事業に加えて、自社衛星網から得られる衛星画像データを加工・分析し、提供する衛星データプラットフォームサービスを事業化してきた。しかし、データサービス事業を始めた当初は、衛星画像を使ったサービスの民間市場は顕在化しておらず、市場の見通しはきわめて不確実性の高いものであった。本ケースは、市場のない状況で起業したアクセルスペースが、不確実性の高い初期を生き延びるために、エフェクチュエーションをしながら経験を積み、ネットワークを広げ、売り上げを立てながら生き延び、市場を紡ぎ出す姿を描いたものである。

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー:米倉誠一郎/カン・ビョンウ
日本のスタートアップや中小企業を支援し、海外で成功させるモデルをつくる
張 成煥
(バイドゥ株式会社 代表取締役社長)


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