2011年度 Vol.59-No.4

2011年度<VOL.59 NO.4> 特集:リアルに考える原発のたたみ方 

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2011年度<VOL.59 NO.4>
特集:リアルに考える原発のたたみ方 東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機にして、わが国のエネルギー政策のゼロベースでの見直しが進められている。どれくらいのペースで進展するかについては、論者によって見通しが異なるが、中長期的に見て、わが国の電源構成に占める原子力発電のウエイトは縮小してゆくことだろう。原発推進派と脱原発派が互いにネガティブ・キャンペーンを展開する時代は終わった。今こそ、「リアルでポジティブな原発のたたみ方」を考えるときである。本特集では、さまざまな立場から、専門家が建設的な提言を行う。
鈴木達治郎(原子力委員会 委員長代理) 3・11以後の原子力政策課題
 
  2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所事故は、炉心溶融と水素爆発、これに伴う大量の放射性物質放出という最悪の事故となった。これにより、原子力政策の優先順位は大きく変わった。事故の収束はもちろん、避難した住民の安全確保、汚染除去と環境修復、そして最終的な廃止措置に向けて、課題は多く存在する。一方で、政府は「減原子力依存社会」に向けて、エネルギー環境政策を再構築することとなった。このなかで原子力政策の徹底検証を行うこととなり、原子力委員会では新原子力政策大綱の策定会議を再開して、議論を進めているところである。本稿は、現時点で考えられる原子力政策の重要課題についてまとめた。
齊藤 誠(一橋大学大学院経済学研究科教授) 普通の産業技術として見た軽水炉発電技術
  軽水炉発電技術は、正常時の運転においても、過酷事故の対応においても、産業技術として優れた特性を備えている。それにもかかわらず、福島第一原発において大地震と大津波で深刻な事故が生じた理由は、第1に、福島第一原発施設がフロンティアの技術状態に比べてあまりに古かった、第2に、東電経営者も、規制当局も、一次冷却系の復旧見込みがないケースにおいて基本原則に沿った手続きで対処してこなかったからである。福島第一原発事故の本質は、福島第一原発が抱えていた固有の事情にあり、原発事故から派生する問題の一義的な責任は、施設運営責任者である東京電力にある。東電の事業再生においても、東電のステークホルダーの責任を基軸にすべきである。
吉岡 斉(九州大学副学長・大学院比較社会文化研究院教授) 脱原発工学の構想
  福島原発事故によって、原発の本質的な弱点と、日本の原子力安全確保の劣悪な状況を思い知らされた国民の間で、脱原発論が急速に広がっている。事故前には異端的意見であった脱原発論は、事故後は正統的意見となった。原発に対して無関心だったか、あるいは容認していた人々の多くが、脱原発を支持するようになった。「脱原発論者は政治的反体制派か、環境保護至上主義者」というかつてのステレオタイプは崩壊し、多様な意見を持った人たちが脱原発論に参入している。脱原発を円滑に進めるためには、「脱原発工学」の構築が必要である。これは、脱原発を実現するための実用的な知識全般である。工学を標榜する以上は、実学的志向を持たなければならない。脱原発工学は、最適な形で脱原発を進めるための具体的な方針や指針について研究するものである。
飯田哲也(環境エネルギー政策研究所 所長) 「リアルな原発のたたみ方」のリアリティ
  東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を経てもなお、日本のエネルギーをめぐる議論は混乱をきわめている。そのなかで「リアルな原発のたたみ方」は新鮮な提案だが、何がリアルかは慎重に見極めることが必要である。抽象的な「遠景のリアリティ」ではなく、グローバルな大局的視点と歴史を踏まえたリアリティであると同時に、ミクロで政治的なリアリティを見据えたものでなければ画餅に終わる。そうしたリアリティに立脚した上で、日本の環境エネルギー政策は、21世紀パラダイムへと大きく進化することが求められている。原子力・化石燃料中心から再生可能エネルギー・省エネルギー中心へ、大規模集中型から小規模分散型へ、トップダウン型からネットワーク型へ、重厚長大的な産業重視から21世紀型の知識・環境重視へ、まさにパラダイム転換が必要だ。日本の環境エネルギー政策は、大変革の「夜明け前」にあるのだ。
澤 昭裕(NPO法人国際環境経済研究所 所長) 電力システム改革──小売りサービス多様化
  東日本大震災により多くの発電所が被災したことで、関東では計画停電が実施されるに至った。大規模集中型発電という現在の電力供給システムがリスクに脆弱だという問題意識での改革は正しいのか。改革論の主流は、送電線開放を軸とするいわゆる発送電分離モデルだが、安定供給、燃料調達の対外交渉力などの観点から問題が大きい。発送電分離を先行した欧米でも、設備形成や安定供給の面では問題が顕在化している。しかし、電力の需要家は料金やサービスの多様化と供給業者選択の自由を求めていることも事実だ。一方、原子力発電については、量的にも経済的にも短期間で依存度を急激に低下させることは困難である。事故の賠償や廃炉を進めながらも、今後のエネルギー供給源の選択肢として残すよう、官民のリスク分担のあり方について見直していくべきだ。本稿では、新たな電力システム構築に向けての改革案を、今後の東京電力の取り扱いを含めた電力会社の再編成とともに提案する。
青島矢一(一橋大学イノベーション研究センター准教授) 環境、エネルギー、産業競争力の両立を考える──ミクロの視点の重要性
  今、日本は、環境問題(温室効果ガスの削減)、エネルギー問題(エネルギーの安定供給)、経済問題(長期的な経済発展)という、互いに矛盾することの多い、3つの深刻な課題を抱えている。それは、解の見えない複雑な連立方程式のようでもあるが、その方程式を何としてでも解いて、3つの課題を同時に解決しなければならない。そこにしか日本の将来は見えてこない。そのために、さまざまな政策的対応が考えられている。しかし、企業や産業といったミクロの視点から見ると、それらの政策は、日本企業の国際競争力の向上を通じた長期的な経済発展への貢献という点が、十分に考慮されていないように映る。今われわれに必要なのは、技術や産業の現実を深く理解した上で、エネルギーミックスの転換を進めるための照準とタイミングを明確にしたシナリオを持つことである。
島本 実(一橋大学大学院商学研究科准教授) 日本の太陽光発電産業は復活するか
  以前は、原発は温室効果ガスを排出せず、地球温暖化対策として有効であるともいわれていた。東日本大震災と福島第一原発事故によって、原発の安全性に対する信頼は失われ、世界中で、太陽光発電や風力発電をはじめとする再生可能エネルギーに対する関心が高まっている。なかでも太陽光発電産業は、それ自身が新しい産業となり、経済成長にも貢献すると期待されている。日本は、長期にわたって官民挙げて太陽光発電産業の育成に努めてきた。その結果、1990年代末に日本は、太陽電池の生産量や導入量で世界トップの地位を占めるようになった。しかし、2000年代中頃から、そうした事態は急速に変化し始め、優位性を失っていった。本稿では、近年の太陽光発電産業の激しい変化を分析し、なぜ日本は世界一のポジションを失ったのか、今後、国際競争力を維持・拡大するためには何をすべきかについて考える。
●ビジネス・ケース
新津泰昭/延岡健太郎(一橋大学大学院商学研究科博士後期課程/一橋大学イノベーション研究センター教授)
ディスコ──競争力の源泉としてのソリューション
  ディスコは半導体切断装置(ダイシングソー)で長年にわたり圧倒的な市場シェアを築いてきた。ここまで高い競争力を発揮してきたのはなぜか。それは単に、製品開発力が優れていたから、というだけではない。ディスコが最も重視するのは、自社製品(加工ツールと加工装置)を使って顧客に最高の加工結果を得てもらうことだ。それを実現するためにディスコは、顧客に代わり、自身が試行錯誤を通じて製品の最適な加工条件を検討する。その結果を顧客にソリューションとして提供するのだ。このソリューション提供によってディスコは顧客から絶大な信頼を獲得してきた。本ケースでは、ディスコが個々の顧客にあわせたソリューションを提供できるのはなぜなのかという点を中心として、その成功要因を明らかにする。
●ビジネス・ケース
吉村咲野/久保田達也(一橋大学商学部/一橋大学大学院商学研究科COEフェロー)
カラオケ機器業界──2社による複占体制の成立
  カラオケ機器業界は、現在、「DAMシリーズ」を展開する第一興商と「JOY SOUNDシリーズ」「UGAシリーズ」を展開するエクシングの2社による複占である。しかし、この業界では、かつては18社が激しい競争を繰り広げており、市場の縮小と技術変化による淘汰の末、現在の2社体制に落ち着いた。特に、LDカラオケから通信カラオケへの移行期には、LDカラオケを有利に展開してきた大手音響機器メーカーなどは、通信カラオケへの対応に軒並み遅れ、苦戦を強いられることになった。本ケースでは、業界内のプレーヤーの変化がどのようにして起きたのか、また、第一興商とエクシングが最終的に勝ち残ったのはなぜなのかをカラオケ機器業界の変遷をたどることで明らかにしていく。
●経営を読み解くキーワード
 矢澤憲一(青山学院大学経営学部准教授)
 「監査人の独立性」
●技術経営のリーダーたち(14)
 土屋雅義(ソニー株式会社 クリエイティブセンター センター長)
       インタビュアー・延岡健太郎/青島矢一/長内 厚
 「デザインは、企業の明日を拓くイノベーション・ハブになる」
●連載::経営学のイノベーション:はじめてのビジネス・エコノミクス(1)
 柳川範之 「テレビがただで見られる理由は──二面的市場モデルとは何か」
●コラム連載:偶然のイノベーション物語(3)
 榊原清則 「帆船から蒸気船へ」
●私のこの一冊
 石倉洋子  「マネジメントへの大きな励まし──羽生善治『決断力』」
 長内 厚   「あっと驚くものをこしらえる──島谷泰彦『人間井深大』」
●マネジメント・フォーラム
 カール-A・フェヒナー(ジャーナリスト・映画監督・プロデューサー):
       
インタビュアー・米倉誠一郎
 「もう動きだしている。再生可能エネルギー100%の世界へ」
●PORTER PRIZE 2010
 大薗恵美/山晥�_算メ(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授/ 一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任研究員)
 「第11回 ポーター賞受賞企業に学ぶ」
●投稿論文
 武重佳宏(朝日ライフアセットマネジメント株式会社)
 「競争戦略が日本企業の企業成果に与える影響に関する実証研究」

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