2005年度 Vol.53-No.2

2005年度<VOL.53 NO.2> 特集:M&Aと企業再編のマネジメント  

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2005年度<VOL.53 NO.2>
特集:M&Aと企業再編のマネジメント1990年代より企業の合併・買収(M&A)が世界的に盛んになっており、企業の成長戦略および再生戦略として重要な役割を果たしている。日本企業でも、外資による経営権の獲得を含めて、企業再編が活発化している。しかし、現実にはM&Aが企業を弱体化させた事例も多々あり、また、日本では敵対的買収に対する防御手段が不十分との見解もある。本特集では、M&Aによる企業再編を成功させるための条件、マネジメントのあり方および日本の制度改革上の課題について学際的に分析する。
ダニエル・A・ヘラー/藤本隆宏/グレン・マーサー
(横浜国立大学国際社会科学研究科助教授/東京大学大学院経済学研究科教授/マッキンゼー・アンド・カンパニー シニア・プラクティス・エキスパート)
組織学習強化のためのM&A活動の価値-自動車産業のケースより
 
  昨今、世界の自動車産業で起こっている資本提携や買収統合など大型のM&Aに対する否定的な評価は少なくないが、ルノーと日産の提携のように、成果をもたらしたと考えられる事例も存在する。同じ自動車産業においてのM&Aではあるが、何が成否を分けるのであろうか。本稿では「学習する組織」という概念に注目し、これを自動車の製品開発プロジェクトにおいてコンセプト開発から生産準備までを一貫して行うことのできる能力と権限とを持ちあわせた組織と定義し、M&Aがこの組織の強化に用いられるかどうかで、その長期的な価値を決めることを3つのケーススタディを通じて論証する。現在の自動車産業の進歩に対して、財務指標や生産規模といった面のみに立脚した従来のM&A評価とは異なった、競争力の源泉に迫る視座を提示する。
安田隆二
(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)
企業再生におけるM&Aの活用
  M&Aは企業の成長戦略として論じられることが多いが、業績が衰退し抜本的な再生戦略が不可避なときにも、重要な役割を果たす。実際に不況後の経済再生期ほどM&Aは活発になる。ここ数年で日本に再生ファンドが出現したことも、危機にある企業が相次いで業績を回復させている要因である。現在、回復過程にある日本経済において、この再生戦略型M&Aはこれからも増加していくであろう。本稿では、再生戦略型M&Aの特徴を「初期段階」「産業再編段階」「破綻寸前の再生」「法的整理による再生」の4段階に分けて、それぞれ各企業の成功事例を紹介しつつ解説し、期待される再生戦略型M&Aのあり方とその成功要因を考える。
長岡貞男
(一橋大学イノベーション研究センター教授)
合併・買収は企業成長を促すか?-管理権の移転対その共有
  営業譲渡、企業分割、合併・買収などによる上場企業の企業再編が1990年代後半から大幅に増加しているが、こうした企業再編は、成長率など企業パフォーマンスの改善をもたらしていない場合もある。本稿では、企業パフォーマンスを高めるための要件が何かを実証的に分析する。最初に、1980年代の後半から最近までの上場企業による営業譲渡、企業分割などの動向、並びに上場企業間の合併・買収の動向を、業種別に整理する。次に、事業の管理権が移転される営業譲渡の場合には、買い手企業のほうが成長力と収益性の双方で優れていることを明らかにする。最後に、対等合併以外の合併では、合併・買収が売上成長率を高め、企業の生産性を高める効果があるが、対等合併は平均的に見ると、雇用の伸び率の低下とほぼ同じ売上成長率の低下をもたらすことになること、また、対等合併では経営者の自社株保有が重要であることを指摘する。
淺羽 茂
(学習院大学経済学部教授)
外資は日本企業を建て直せるか?
  近年、外資による日本企業の買収は増加傾向にある。外資の参入は、経営難に陥っている企業を翻弄してしまうと敬遠される向きもあるが、日産自動車のように、買収した企業の経営に従来とは異なる視点やビジネスモデル、ノウハウを持ち込み、傾いた日本企業の経営再建を実現する外国企業も確実に存在している。本稿では、1980年代からの外国企業による日本企業買収のデータを分析する。買収前後の経営パフォーマンスや経営指標を比較することにより、外国企業による買収は日本企業をどのように建て直すことができるのか、買収後どのような施策がとられるのか、そして、建て直しにはいかなる条件が必要かを実証的に検討する。今後、外資による日本企業の買収がますます増えるなかで、日本企業を活性化する方法の1つとして、外資とのあり方を考える。
柳川範之
(東京大学大学院経済学研究科助教
授)
企業再編・買収の方向性と制度設計
  昨今の日本で盛んな動きを見せるM&Aや敵対的企業買収は、経済をより活性化させていくうえで、重要な役割を果たすものと思われる。しかし、どのような仕組みや制度のもとでM&Aが行われていくべきか、また、どのようなM&Aが企業価値を高めるのかについては、十分なコンセンサスがとれているとはいいがたい。また、企業再編は企業にとってベストの選択なのであろうか。本稿では、企業価値・企業買収の基本的な考え方、投資家と技術者の関係、収益拡大のための方策、ステークホルダー間の利害調整、企業買収側の情報の非対称性など、企業再編を取り巻く諸問題を経済学の手法を用いて整理し、現状と今後の課題を描き出す。
川浜 昇
(京都大学大学院法学研究科教授)
独禁法上の企業結合規制の現状
  1990年代半ば以降、企業の合併・買収(M&A)の流行が続いている。企業結合は市場構造を変化させ、市場支配力の形成強化などが生じる可能性があり、 各国では独禁法の課題として、企業結合規制の比重が大きくなってきている。日本でも一連の商法改正によって合併・取得のための手段が整備され、多様な形態の企業結合が活発に行われるようになってきている。従来は経済学的な視点が欠如しがちな企業結合規則ではあったが、2004年のガイドラインの全面改正では、欧米のアプローチにならって、経済学的な分析枠組みを利用して審査が進められることとなった。本稿では、改正ガイドラインを執行していく際に参照すべき関連市場画定、市場支配力分析の基本的枠組み、市場集中度の評価、単独型・協調型行動それぞれの競争への影響など、企業結合規則の実態基準を概観し、 効率性の評価、破綻企業の抗弁などの今後の検討課題も明らかにする。
●ビジネス・ケース
服部暢達
(一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授)
JFE:対等合併の稀有なる成功例の研究
  2001年12月、NKK(日本鋼管)と川崎製鉄は経営統合を発表し、日本最大規模の鉄鋼メーカーであるJFEホールディングスが誕生した。同社はその後の鉄鋼市況の回復もあり、統合第1期から1000億円を超える経常利益を記録し、2005年には目標数値を1年前倒しで達成、未曾有の好決算を迎えている。1990年代後半の鉄鋼不況のなか、NKKと川崎製鉄はいかに互いのパートナーを探し出し、経営統合の決断をするに至ったのか。あくまでも「対等」にこだわってきた両社の統合の必要条件と新会社の業績向上を導くに至った組織づくりとはどのようなものであったのか。1990年以降、M&Aによって業績改善を実現する日本企業が現れてきているが、対等合併にこだわって成功したこのような事例はきわめて珍しい。鉄鋼をめぐる世界的な構造再編の流れを眺めつつ、JFEの統合の経緯をたどることで、今後の日本型大型経営統合とはいかにあるべきかを考える。
軽部 大/小林 敦
(一橋大学イノベーション研究センター助教授/一橋大学大学院商学研究科MBAコース修了)
三菱電機 ポキポキモータ:成熟市場のイノベーション
  技術的には成熟していると思われていたモーター分野において、新型鉄心構造と高速高密度巻線による高性能モーター(通称・ポキポキモータ)が三菱電機により開発された。この新型モーターの開発により、製造工程の大幅な効率化、コンパクト化とエネルギーの変換効率の向上が可能となった。もともとはFDD向けに作られたこのモーターが、モーター設計者と生産技術者の協力に基づく開発体制によって、いかにして技術者の「常識」に挑んでいったのか。アイディア創出から同社の主要製品として幅広く展開される現在までの一連の開発プロセスを追うことで、成熟市場におけるイノベーションの過程を考える。
天野倫文
(法政大学経営学部助教授)
小糸製作所:なぜ中国進出の先駆者たりえたのか
  本格的なモータリゼーションが始まり、成長の一途をたどる中国の自動車産業。世界中の自動車メーカーと部品メーカーがこの巨大市場に大挙して事業展開している。小糸製作所は日本でトップシェアを誇る自動車ランプメーカーであるが、1970年代から中国に足がかりを求め、1989年に本格的な合弁進出を果たし、現在、中国における自動車ランプのトップメーカーの地位にある。日本の自動車メーカーが進出を果たすかなり前から、中国に足がかりをつくり、事業を成長させることができたのはなぜであろうか。中国政府の自動車産業保護・育成政策に呼応した現地展開、系列にとらわれない自動車メーカーとの提携、生産のみならず開発や設計までを含めた本格的な現地化など、独自の判断で未開拓市場に地位を築いてきた同社のグローバル戦略の軌跡をたどる。
●コラム連載:もの造りと哲学(2)
 藤本隆宏 「物事の根源―質料因と形相因」
●連載:経営学のイノベーションム
 長瀬勝彦 「意思決定のマネジメント(4):市場からの退出と事業売却の意思決定」
●マネジメント・フォーラム
 村上世彰((株)M&Aコンサルティング代表):
       
インタビュアー・米倉誠一郎
 「「ものを言う」株主として企業のあるべき姿を追求し続けます」
●用語解説
 指田朝久 「事業継続」

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