2004年度 Vol.52-No.4

2004年度<VOL.52 NO.4> 特集:中国ビジネスのフロンティア  

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2004年度<VOL.52 NO.4>
特集:中国ビジネスのフロンティア広大で深く、昨日の常識が今日には役立たなくなるという中国。この激変する中国のビジネス環境に日本企業はどう考え、開拓していけばよいのか。本特集では、現場を深く知る研究者を集め、中国の企業に深く入り込み、最新の現地調査に基づいて、そこから浮かび上がってくる中国の実態を描き出す。台湾系企業の中国大陸進出、温州市のネットワーク、労働事情、家電業界、外資系企業の動向など、ミクロ・マクロの両観点から巷間にあふれる単なる印象論や通説とは異なった現場発の議論を展開していく。
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関 満博
(一橋大学大学院商学研究科教授)
台湾系IT企業の果敢な中国大陸進出に日本は何を見るべきか
 
  1990年代半ばの珠江デルタへの進出で経験を重ねた台湾系IT関連企業が、 2002年初頭から長江デルタの蘇州に驚異的なスピードで集積し始めている。同様に大陸進出を果たしながら、敗退を余儀なくされるケースが多い日本企業とは対照的である。台湾系IT企業は、大陸展開にいかなるビジネス・チャンスを見出し、どんな行動を仕掛けているのだろうか。本稿では、長江デルタにおける経時定点的な現地調査をもとに、ノートパソコンに関連する台湾IT産業が短期間に一大集積を形成していった状況を描き出す。中国ローカル企業の台頭という一歩先の事態を見越し、危機意識を濃厚に持つ台湾企業と大きな構造変化に乗り遅れている日本企業の実態とを比較することは、これからの日本企業にとっての課題を考えていくうえでも大いに参考になるだろう。
西口敏宏;辻田素子;許 丹
(一橋大学イノベーション研究センター教授;静岡産業大学経営学部講師;一橋大学商学研究科博士後期課程)
温州の繁栄と「小世界」ネットワーク
  かつて中国の貧しい港町だった温州(浙江省)は、改革・開放後、私企業を中心に自力で急発展を遂げ、今や最も豊かな地域の1つにまで成長した。その秘密は、国内・海外の同郷人を中心とするネットワーク能力にある。血縁、地縁中心の「遠距離交際」を含む人と人のつながりが、遠隔地にある市場を「スモールワールド(小世界)化」し、感度の良いリワイヤリングを通して、ビジネス・チャンスの先取りを許す。これが好循環で回り、ものすごい効果を生み出す。本稿では、1960年代のミルグラムの実験から最新のワッツに至る「スモールワールド」ネットワーク理論を用いて、資源と情報の制約を克服する温州人の斬新なネットワーク機能を分析し、温州の驚異的な繁栄のメカニズムを探り出す。
安室憲一
(兵庫県立大学経営学部教授)
中国の労務管理の実情
  今日、中国では「深刻な労働力不足」が叫ばれているが、その多くが地元の中小企業や韓国・台湾系企業においてであって、過酷な労働条件と低賃金労働が原因であった。中国企業では従来、企業の労務管理組織「工会」の設立が義務づけられているが、その機能は西側諸国の労働組合とは大きく異なり、レクリエーションと労働紛争の調停という役割を果たしてきた。しかし近年、外資系企業では、工会の設立が忌避され、実体は形骸化している。こうした事態を前に、2000年以降、中国政府は労働条件監視のための規制強化を推進しているものの、労働条件の改善に結びつく気配はない。中国が製造業を軸とした持続可能な社会を築いていくための労務管理はどうあるべきか。そして、進出日本企業は労働者に対してどのような経営を行っていくべきか。最新の中国労働事情を踏まえ、人事労務管理上の問題点を考える。
西口敏宏;天野倫文;趙 長祥
(一橋大学イノベーション研究センター教授;法政大学経営学部助教授;一橋大学大学院商学研究科博士後期課程)
中国家電企業の急成長と国際化
  1980年代の中国家電産業は、日本をはじめとする先進国から技術を導入し、輸入代替化による発展を続けてきた。しかし、青島市の家電企業各社では、市政府の主導による品質管理とブランド確立に重点を置いた地場産業育成策の後押しを受け、 90年代に独自の経営戦略を駆使して、急成長を遂げた。なかでも海爾(ハイアール)集団は、驚異的な成長で中国最大の家電企業となり、世界各国にも積極的に製品を輸出するなど国際企業の仲間入りを果たしている。同社については、三洋電機との提携などの話題性もあり、日本ではすでにさまざまな形での研究が見られる。本稿では、そうした従来の中国研究では欠如していた地方政府の産業政策、急成長を支えた経営システム、国際競争力の3点から、海爾集団に代表される中国家電企業の成長プロセスと今後の課題を紹介する。
範 建亭
(上海財経大学国際工商管理学院助教授)
中国経済における外資系企業の役割
  近年、中国は多くの分野で世界一の生産力を持つようになっているが、その急速な産業発展は、対外開放路線の政策下で海外からの製造機能と技術の移転に依存して進められてきた側面が強い。日本企業を含めた外資系企業は、直接投資を通じて、生産技術だけでなく、経営技術やノウハウを移転し、中国企業との間にも分業・協力関係を築きつつある。しかし、量的な拡大を主としてきた中国製造業には、付加価値率の伸び悩み、基礎的技術の乏しさといった問題があり、「外資頼り」の発展には限界も見え始めている。本稿では、外資系企業の対中直接投資と技術移転が中国経済にどんな役割を果たしたかをマクロデータを用いて分析し、日本企業の対中投資と技術移転のあり方についても考える。
●ビジネス・ケース
青島矢一;河西壮夫
(一橋大学イノベーション研究センター助教授;一橋大学大学院商学研究科)
東レ:炭素繊維の技術開発と事業戦略
  東レは1971年にアクリル(PAN)系炭素繊維の商品化に成功して以来、炭素繊維市場の9割を占めるPAN系炭素繊維分野で世界的な競争力を持つ。同社は独自技術をもとに原糸から中間製品、加工品までを垂直統合し、現在は航空機向けやその他産業用途の需要拡大の追い風も受けている。ただ、炭素繊維は、次世代先端材料として期待が高い反面、多大な設備投資が必要な割に大量生産が困難という高コスト構造にあり、供給過剰のリスクもつきまとう。また、取引形態の多様化に伴い、原糸顧客の利益に反することなくいかに独自の川下展開をするかといった問題も抱えている。東レの炭素繊維の技術開発の経路と、事業戦略上の課題を考える。
軽部 大;井守美穂
(一橋大学イノベーション研究センター助教授;一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程)
オリンパス:内視鏡分野での挑戦と革新
  オリンパスは世界の内視鏡市場の約7割という圧倒的なシェアを確立し、内視鏡分野の技術革新をリードしている。その技術的成果の1つが、光学式の内視鏡と超音波診断装置を一体化した超音波内視鏡である。同社の超音波内視鏡は、1970年代後半以降、大学の内視鏡医との産学連携というべき開発・事業化の歴史をたどって、今日では国内シェアの約8割、約80億円の売上を誇る事業にまで成長、標準的な診断機器として、欧米にも広く普及し、消化器系の臨床研究の進歩にも貢献している。その超音波内視鏡は、いかにして開発され、事業化されたのか。オリンパスの内視鏡事業における技術革新のプロセスと背後の競争優位の源泉を考える。
●連載:ブランディング・イン・チャイナ:中国消費市場におけるマーケティング戦略(5)
 山下裕子 「ブランドとコミュニケーション・インフラの相克する原野」
●コラム連載:戦略思考の技術(4)
 沼上 幹 「「孤高の戦略家」という幻想」
●連載:経営学のイノベーションム
 長瀬勝彦 「意思決定のマネジメント(2):データの収集と解釈のバイアス」
●マネジメント・フォーラム
 永守重信(日本電産株式会社代表取締役社長):
       
インタビュアー・米倉誠一郎
 「「回るもの」「動くもの」で世界企業になるためにM&Aを進めます」
●用語解説
 生稲史彦 「オンラインコミュニティ」
●第4回ポーター賞
 大薗恵美 「ポーター賞受賞企業に学ぶ」
●投稿論文
 「技術開発における集中とバランス:インクジェット・プリンター産業の特許データの実証分析」
 ニール・クライマー:淺羽 茂

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