2004年度 Vol.52-No.3

2004年度<VOL.52 NO.3> 特集:競争力の検証 -日本企業は本当に復活したのか? 

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2004年度<VOL.52 NO.3>
特集:競争力の検証 -日本企業は本当に復活したのか?日本経済は「失われた10年」と呼ばれる1990年代を経て、ようやく明るさを取り戻しつつある。だが、長期低迷の根本的な原因を解明することなしに、現在の回復基調を手放しで喜ぶことは危険である。特に、足下の回復が短期的なリストラ効果やデジタル家電需要、中国経済の進展といった要因のみに依存している限り、日本経済の将来は決して明るくない。本特集では、日本の産業と企業の競争力が90年代にどのように変化したかをデータをもとに検証したうえで、日本企業の低迷のメカニズムを解明し、目先の業績回復を長期的な成長に結びつけるための課題と方策を考える。
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元橋一之
(東京大学先端科学技術研究センター助教授)
「失われた10年」に日本の産業競争力は低下したのか?
  ようやく景気回復局面を迎えたように見える日本経済だが、回復の盛り上がりについては悲観的な材料も多い。ただ、今後の日本経済の活性化に向けてのより長期的な視点として重要なのは、日本企業が世界的に躍進した1980年代から「失われた10年」といわれる90年代を経て、産業競争力の実態がどう変化したかを分析・評価することである。日本の競争力に対する評価は90年代以降一気に低下してしまったが、経済成長率の動向を産業別、あるいは内需、外需といった要因別に分解して見た場合、果たして日本の主要産業の競争力は世界的に低下したといえるのだろうか。本稿では、80年代以降の産業競争力の変化とその背景となる経済環境についてデータに基づいて検証し、今後の展望について論じる。
軽部 大
(一橋大学イノベーション研究センター助教授)
データで振り返る日本企業のパフォーマンスと経営課題
  バブル崩壊後の長引く不況で長期的な停滞にあえいでいた日本企業は、「痛み」を外部に切り離す積極的なリストラが結実し、ようやく回復の兆しが見られる。このような今こそ、目先の表層的な回復基調の評価よりも「なぜこれほど長期にわたって日本企業は低迷したのか」という長期低迷を生み出した背後の根本的原因やメカニズムの理解が必要である。本稿では、日本企業の1990年代の業績低迷の原因をマクロ経済政策、制度的慣行、戦略という3つの側面に整理したうえで、日本企業のパフォーマンスの変遷と戦略課題がどこにあったのかを、80年代にさかのぼって分析する。そして、今後日本企業がより強固な復活を遂げるための戦略と組織両面での課題と展望について論じる。
伊地知寛博
(一橋大学イノベーション研究センター助教授/文部科学省科学技術政策研究所客員研究官)
日本のイノベーション・システム--「全国イノベーション調査」データに見る民間企業全体の現況
  イノベーションとは、各企業が単独で実現できるものではない。他企業との関係、大学・研究機関からの情報・知識の導入や公的支援の活用なども含めたイノベーション・システムとして捉え、それを促進する制度・政策・環境づくりが重要となってきている。本稿は、文部科学省科学技術政策研究所が日本の民間企業4万3174社に調査票を配布して実施した「全国イノベーション調査」の結果を踏まえ、日本全体としてイノベーション活動がどのように取り組まれているか、その実態と特徴についてマクロの視点から分析する。さらに、1990年代に実施された先行調査結果との比較を通じ、90年代に日本企業のイノベーションの取り組み方にどんな変化が生じたかについて、主にシーズ・ニーズ両面の情報源の利用、成果利益の専有可能性の2点から考える。
加登 豊
(神戸大学大学院経営学研究科教授)
日本的品質管理を鍛える--「失われた10年」からの教訓
  1990年代、業績低迷にあえいだ大多数の日本企業は、終身雇用慣行との決別、米国流の経営手法の導入など、さまざまな試みに挑戦しながら、思うような成果を得ていない。その背景には、日本的経営の根幹に、いまだ手つかずに放置された問題が潜んでいるからである。その典型が、日本的品質管理のあり方である。日本的品質管理活動は、日本製品に対する世界的な高評価をもたらしたが、品質向上の努力は必ずしも収益性の向上には結びついていない。むしろ、品質管理運動の弊害や、過剰品質といった問題が顕在化し、原因不明の品質問題の多発という逆機能を招いている。本稿では、日本的品質管理の抱える問題を明らかにするとともに、その抜本的な解決策としての、管理会計の有用性を説く。
中馬宏之
(一橋大学イノベーション研究センター教授/科学技術政策研究所客員総括研究官/経済産業研究所ファカルティフェロー)
日本のサイエンス型産業が直面する複雑性と組織限界--半導体露光装置産業の事例から
  従来、日本の製造業の強さの源泉は、企業横断的な知識を有した統合型人材の豊富さにあり、設計思想としてはインテグラル(統合的)かつクローズド(一企業完結型)の「擦合せ型」製品にこそ比較優位があると理解されてきた。しかし、科学・技術的な革新の急速な進展により、特にサイエンス型企業にとって求められる専門知識は高度化するとともに複雑性を増し、企業の境界を越えた組織経営能力が問われるようになっている。本稿では、“歴史上最も精巧な装置”と称される究極の「擦合せ型」装置である半導体露光装置産業に焦点を当て、かつて圧倒的な国際競争力を誇った日本企業が、1990年代後半以降の技術的革新を契機に欧州の競合企業にその座を脅かされるようになった要因を分析し、日本のサイエンス型企業が直面する典型的な問題を浮き彫りにする。
天野倫文;加藤寛之
(法政大学経営学部助教授;東京大学大学院経済学研究科博士課程)
グローバル戦略の展開と競争優位--HDD産業に見る東アジアにおける日米企業の戦略分析
  1990年代の日本企業の低迷は、グローバリゼーション、IT・ネットワーク化という流れのなか、過去に築いた経営システムや戦略原理が不協和を招いたことによる。その1つに国際化への構造的な問題が潜んでいる。HDD(ハードディスクドライブ)産業においても、国際化(グローバル化)への取り組み方によって、日米企業の競争力に明暗が見られる。米系の新興ドライブメーカーはなぜ圧倒的な地位を維持でき、日系電機メーカーは競争優位を回復できなかったのか。その反面、日系部品メーカーはどうやって飛躍的な成長を遂げたのか。これらの問いに対する答えの鍵は、日米企業の東アジアへのアプローチと企業システムの進化の違いにある。その事例として、本稿では国際化という観点からHDD産業の東アジアにおける日米企業の戦略分析を行う。
●ビジネス・ケース
楠木 建;吉田 彰
(一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授;株式会社損害保険ジャパン人事部)
ガリバーインターナショナル:中古車流通の革新とビジネスモデル
  日本の中古車市場では、IT技術の普及やネットワーク化に伴い、1990年代以降全国規模のオークション市場の整備が進み、数々の新しいビジネスチャンスが生まれている。ガリバーインターナショナルは、「クルマの流通革命」を標榜し、独自の中古車査定システムの構築によって、一般消費者から適正価格で中古車を買取り、オークション市場で効率的に販売するユニークなビジネスモデルを確立。1994年の設立以来、10年連続の増収増益という高成長を続けている。ただ、中古車業界の競争激化の流れのなか、一般顧客向け中古車販売を含めた新事業展開の模索も始めている。同社を成功に導いたビジネスモデルを検証し、将来に向けての課題を考える。
石崎琢也
(一橋大学イノベーション研究センター研究機関研究員)
日本エイム:アウトソーシング・ビジネスの進化と企業間分業の再構築
  製造業に特化したアウトソーシング会社、日本エイムは、「モノづくりの技能を継承して、日本の製造業を強くする」というミッションを掲げ、創立からわずか9年で株式上場を果たした。同社の基本戦略は、国内の半導体・液晶製造への集中・特化、生産ラインの一括請負という2点に集約される。2000年以降、事業の急拡大とITバブル崩壊後の業績低迷によって顧客企業の単なる雇用調整弁としてのビジネスの限界を悟った同社は、いかにして復活への戦略を見出していったのだろうか?国内メーカーが急速にアジアでの現地生産シフトを進めるなか、日本国内にこだわり、製造業とサービス業を融合した独自の形態を追及する日本エイムの軌跡を追いながら、新しい企業間分業のあり方としてのアウトソーシング・ビジネスの可能性を考える。
●連載:ブランディング・イン・チャイナ:中国消費市場におけるマーケティング戦略(4)
 畢 滔滔 「自動車:3S店販売チャネルの構築」
●コラム連載:戦略思考の技術(3)
 沼上 幹 「良循環と悪循環のマネジメント」
●マネジメント・フォーラム
 柳井 正(株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼CEO:
       
インタビュアー・米倉誠一郎
 「失敗を恐れず、もう一段の成長に挑みます」
●用語解説
 竹口圭輔 「ストック・オプション」

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