【一橋ビジネスレビュー】 2023年度 Vol.71-No.2

2023年秋号<VOL.71 NO.2>特集:闘う第1次産業
クレイジーイノベーターたちの挑戦

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:日本は豊かな森林や素晴らしい海洋資源に恵まれた類いまれな立地にある。しかし、自給率は38%と先進国で最低の水準であり、農水産業も林業も補助金なしでは成り立たない。なぜこうなったのか、何がこうさせたのか。本特集の目的はそうした要因や犯人探し、失政叩きをすることではない。今必要なのは、自分の足で立ち、持続可能な第1次産業をビジネスとして確立しようとしている実践者の姿なのである。したがって、本特集では、各分野で新たな取り組みをしている、いわばイノベーターたちに執筆をお願いした。実は彼らの取り組みが、日本の第1次産業を抜本的に変革してくれる芽を包含していることに気づくだろう。

特集論文Ⅰ 新しい農業革命
      都市型植物生産産業の創出
山田眞次郎
(株式会社プランテックス 会長)
植物は、最初は海草だったが、4億年あまり前に陸に上がったときから、植物は空気と土で生きるようになった。約1万年前に農耕が始まった。以来、人々は春に種をまき、夏に天候を祈り、秋に収穫することを1万年もの間続けている。新しく創出される植物生産産業では、植物は4億年の時を経て初めて水と空気のなかで生きることになる。毎日種をまき、天候に左右されず、虫にも病気にも侵されず、毎日が収穫祭である。また、人工光型植物工場の出現により、植物の生産方式が1万年ぶりに変わる。その大きな転機に、日本が誇るモノづくり技術を活かして、日本から植物生産産業を創出しようという話である。本稿では、これまで著者が学んできたことと経験を重ねてきたことについてまとめる。

特集論文Ⅱ 持続可能な水産業をめざして
      東日本大震災から12年、北三陸から世界へ

下苧坪之典/眞下美紀子
(株式会社北三陸ファクトリー 代表取締役CEO/株式会社北三陸ファクトリー 代表取締役COO)
2011年3月、北三陸地域は東日本大震災で壊滅的な打撃を受けた。水産加工会社を営む著者らは、震災から半年後、東北地域の食産業の復興に向けて動き始める。2013年、北三陸を世界に発信するローカルブランドをめざして「北三陸ファクトリー」を立ち上げ、現地・岩手県洋野町の特産であったウニの本格的加工・販売を開始した。一方、日本全国、そして世界に目を向けると「磯焼け」と呼ばれる、海から海藻がなくなる現象が深刻化していた。そこから、磯焼け海域でウニを採取し、実入りの改善をする「うに再生養殖」に着手する。経済的な成果を得ながら、海洋の環境保全を同時に実現できるこの手法をもとに著者らは現在、同じく磯焼けが進むオーストラリアにも進出している。本稿では、未曾有の震災に直面したローカルベンチャーの12年の軌跡をたどるとともに、日本の漁業の問題点や、未来の海のあるべき姿について考える。

特集論文Ⅲ スマート農業は日本の農業を救えるか
      システムプロバイダーから見たスマート農業のポテンシャル

吉田 剛
(株式会社トプコン 執行役員・スマートインフラビジネス事業本部長
農業の現場では、生産性の向上と省力化、品質の向上への取り組みが求められている。その解決手段の1つとして、ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用した「スマート農業」への注目が高まっている。スマート農業の先進国であるイタリアでは、日本とはまったく異なる作業体系で稲作が行われ、スマート農業システムが活用されている。本稿では、スマート農業システムの世界的プロバイダーとして知られるトプコンの農業ビジネス推進を担う著者が、農業技術の歴史を振り返り、スマート農業システムの最前線を紹介しながら、デジタル化の導入こそが、高齢化による人出不足が進む日本の農業にとっての持続可能な道であることを提言する。

特集論文Ⅳ ソーシャルテックが地球の社会課題を解決する
齋藤潤一
(AGRIST株式会社 代表取締役兼CEO
日本の農業従事者は高齢化が進み、年収も低く、担い手が減少するなどの悪循環に陥り、今後の持続性が不安視されている。こうした悪循環への対策として、テクノロジーとビジネスの手法を通じて社会課題を解決する「ソーシャルテック」という新たな概念を提唱したい。著者は、九州地方を中心にビジネスによる地域づくりとして、農産物のブランド化などに尽力してきた。そして、2019年にテクノロジーで農業課題を解決するベンチャーAGRISTを設立し、宮崎県ではピーマンの自動収穫に特化したロボットを開発し、人手不足という課題に取り組んでいる。本稿では、著者の実践を通じて得られた経験や、技術面だけでない、資金や社会環境の面から見た農業イノベーションのあり方も提唱する。そして、社会課題解決を起点としたビジネスモデルによって、持続可能な農業の未来、世界の食料問題解決へのヒントを考える。

特集論文Ⅴ 日本農政のパラダイムチェンジ
      一般農家の廃業と農福連携の台頭

那部智史
(NPO法人AlonAlon 理事長
日本の農業人口が2015年から2020年の6年間で46万人余り減少し、「あと10年で日本の農業は滅亡する」と叫ばれている。この現状において、農福連携(障害者福祉事業者による農業参入)の可能性を、実際に障害者福祉・農福連携を行っている事業者の現場の声として伝えていきたい。かつて障害者福祉にビジネスの要素を入れることはタブーとされていた。その風潮は現在でも色濃く残っているが、あえて多くのビジネス要素を加えた障害者福祉事業モデルを構築した事業を紹介する。20代で起業した著者は、IPO、M&A、MBOなどを経験し、生き馬の目を抜くビジネスの世界に身を置いた10年間の経験を活かして、農業だけでなく閉塞感が漂う障害者福祉の世界にも新しい風を吹かせたいと考えている。

[特別寄稿]
投資家に評価されるビジネスモデル
井上達彦/近藤祐大
(早稲田大学商学学術院教授/早稲田大学大学院商学研究科博士課程
投資判断というのはアートなのかサイエンスなのか。本稿の目的は、昨今注目を集めているビジネスモデルの視点からこれを読み解くことにある。世間でのビジネスモデルの取り上げ方は、経営者や起業家の目線で語られていることが多い。まさに、ビジネスモデルは起業家が投資家との対話によって、未来を切り開くためのツールである。上手に活用すれば起業家にとっての「強力な武器」となるが、投資家の立場を理解できていなければ資金調達に結びつかず、企業価値を高めることはできない。本稿では、最前線で活躍するシニアアナリス
ト、ファンドマネジャー、ベンチャーキャピタリストへの実験インタビュー調査から、投資家たちの思考プロセスに迫り、ビジネスモデルを通して投資家たちが企業の将来性をどのように捉えるのかを解明していく。果たして投資家は、何をどう評価するのだろうか。

[連載]産業変革の起業家たち
[第16回]「火の次の発明」を人類に
                      核融合で実現する究極のエネルギー
吉野英樹
(株式会社クリーンプラネット 代表取締役社長)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊

[連載]戦略人事の考え方
[第1回]今求められる戦略人事のアップデート
島貫智行
(中央大学大学院戦略経営研究科教授)

[私のこの一冊]
■「生存バイアス」と向き合う責任
――大崎善生『将棋の子』
中園宏幸
(広島修道大学商学部准教授

[ビジネス・ケース]
ソニー   ――CMOSイメージセンサーの開発
山内裕/鉄川弘樹/平山照峰
(京都大学経営管理大学院教授/ソニーグループ株式会社 先端研究部 統括部長/ソニーグループ株式会社 社友
CMOSイメージセンサー(CMOSセンサー)は、スマートフォン搭載カメラとして広く普及しており、その市場規模(2021年)は約213億ドル、年平均成長率(2021~27年)は6.7%と推定される。現在、ソニーのCMOSセンサーは、市場シェアの首位を獲得している。ソニーのイメージセンサーの歴史を振り返れば、CCDイメージセンサーの開発に成功したソニーは、1980年代にカメラ一体型ビデオに搭載し、CCD市場で高いシェアを維持する。しかし、2000年頃にはモバイル(フィーチャーフォン)向けとして、CCDより画質の劣るCMOSセンサーという新しい技術が出現する。本ケースでは、CCD市場のリーダーであったソニーが、イノベーションのジレンマを乗り越えて新興技術のCMOSセンサーにどのように対応し、成功していくのかを技術、市場、組織の側面から探っていく。

マクアケ――クラウドファンディングを超えたビジネスモデルの構築
小阪玄次郎/遠藤貴宏/坪山雄樹
(上智大学経済学部教授/ビクトリア大学ピーター・B・グスタフソン スクール オブ ビジネス准教授/一橋大学大学院経営管理研究科准教授
2010年代以降、クラウドファンディング市場は目覚ましい成長を遂げている。また、オンラインでの流通を増やしたコロナ禍は、さらなる追い風となった。本ケースでは、クラウドファンディング市場で、独自のポジションを築き、高付加価値化に成功しているマクアケを取り上げる。同社は、商品・サービスを提供する側と、資金を出す側をつなぐ従来型のプラットフォーマーにとどまらない。コンサルティングを通して新しい商品・サービスの魅力を最大限に引き出し、それらをプロジェクトの終了後も広げていくためのサポートを一気通貫で提供するという国内外でも類を見ない事業を展開している。本ケースでは、マクアケが構築した特異なビジネスモデルの戦略論理と、それが生み出されるまでのプロセスを描く。

パナソニック ホールディングス――センター・オブ・エクセレンスとしての中国事業
鈴木智子/王 国堅/沙 辰
(一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻准教授/一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻修士課程/一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻修士課程
多くのグローバル企業で、世界中にセンター・オブ・エクセレンス(CoE)を持つ構想が進んでいる。CoEはグローバルに影響力を持つ最先端のエリアで情報収集、戦略立案、商品開発などをリードし、その知見をグループ全体の活動に展開し、グローバルで通用する強いブランドを育成する。パナソニック ホールディングスでも、中国で最新技術を投入した街づくりや商品開発が進められている。本ケースでは、中国のスマートシティ産業の国際的競争力について分析し、その上で中国事業(中国・北東アジア社)のウェルネススマートタウンへの挑戦とグループにおける役割について考察する。

SCSK――合併企業の経営と成長
張 嘉怡
(一橋大学大学院経営管理研究科博士後期課程
日本の大手システムインテグレーターのSCSKは、1969年に住友商事が設立した住商コンピューターサービス(SCS)をその源流し、2005年に同じ住友グループの住商エレクトロニクス(SSE)と、そして、2011年に独立系システムインテグレーターのCSKとの合併によって設立された企業である。一般的に合併は難しいとされるなか、同社はさまざまな施策を講じて困難を乗り越え、融合を進めることによって、その組織力を高めてきた。また、経営陣のリーダーシップの下、働き方改革にもいち早く着手し、高い評価を受けている。さらに市場が拡大していくIT業界のなかでも、親会社に依存することなく、平均成長率を上回る形で増収増益を続けている。本ケースでは、SCSKの変革の歩みをおよそ半世紀前の前身時代から丹念にたどっていく。

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー:米倉誠一郎
需要創造と供給ネットワークづくりを通じて
林業のサステナブルな流れをつくる
市川 晃
(住友林業株式会社 代表取締役会長)

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