【一橋ビジネスレビュー】 2022年度 Vol.70-No.3

2022年冬号<VOL.70 NO.3>特集:デザインとは何か?
――経営とイノベーションの本質に迫る

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:デザインが経営を、社会を変える。そのような実例が複数見られているが、デザインを経営に取り込むことは容易ではない。なぜか。要因の1つは、デザインの定義が曖昧で、人によってさまざまに捉えられているところにあるのではないか。現代においてデザインは何を指しており、そこから浮かび上がる経営、そして、イノベーション創出へのヒントは何なのか。本特集では、日本を代表するデザイン実務家をはじめ、多様な分野・領域の専門家にデザイン観を問い、共通点と差異点、そして、経営への示唆をあぶり出す。


特集論文Ⅰ デザインの本質――石器時代と「デザイン経営」をつなぐもの
永井一史
(株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長/多摩美術大学美術学部教授)
デザインとは何か。そして、なぜ、今デザインが注目されているのか。デザイナー、アートディレクターとして数多くのブランディングに携わってきた著者は、デザインを「人の手を加えてより良くすること」と定義する。その上で、デザインの理解のために、目的、思想、行動の3つの視角で眺めることの重要性を指摘している。あわせて著者は、近年の優れた製品例を紹介しながら、魅力ある未来に向けて企業経営の根底にデザインを置くべき理由と、その実践がどのような効果をもたらすのかを論じている。

特集論文Ⅱ デザインの垣根――今と昔
山中俊治
(デザインエンジニア/東京大学大学院情報学環・生産技術研究所教授)
デザインとは、本質的には計画をする行為で、エンジニアリングデザイン(工学的な設計)とエステティックデザイン(意匠を施すこと)の間には垣根はない。しかし、現実には両者の垣根が意識されてきた。本稿では、日本を代表するプロダクトデザイナーでありデザイン人材の育成にも携わってきた著者が、歴史的な観点からその理由を探り、21世紀においてデザインをめぐる環境がどのように変わってきたのかを整理する。その上で、日本のビジネスが直面する課題と、日本を担う将来のデザインエンジニアのあり方について提言する。

特集論文Ⅲ 網膜のデザインと観念のデザイン――私論「デザイン経営の読み解き方」
森永泰史
(京都産業大学経営学部教授
1990年代において、デザイン経営(あるいは、デザインマネジメント)の意味するところは、「優れた外観の製品を開発するためのマネジメント」という狭いものであった。しかし、2010年代以降、その意味は大幅に拡張され、あらゆる企業活動に関連する概念になっている。守備範囲が広がり、デザイン経営の地位が向上した反面、抽象度が高まり、実態がつかみにくくなった。そこで本稿では、筆者なりのデザイン経営の読み解き方について論じている。その際、カギとなるのは「網膜のデザイン」と「観念のデザイン」という2つの概念である。これらの概念を用いて、デザインとブランド、イノベーションの3者の関係を明らかにする。

特集論文Ⅳ プロダクトデザイナーから見たデザイン
柴田文江
(Design Studio S 代表/多摩美術大学美術学部教授
企業にとってのデザインとは、企業にとってやりたいことを探り、そして、それをカタチに表現することである。企業がめざす方向性を明確にする行為でもあり、ブランドづくりでもあり、また、企業が進むべき方向性を加速させる行為でもある。本稿では、日本を代表するプロダクトデザイナーの1人である著者が、自身のデザインの成果を事例として紹介しながら、デザインが経営のなかで果たす役割を提言する。その上で、デザインの役割を最大限実現するためにビジネスパーソンに求めることを提言する。

特集論文Ⅴ 行政におけるデザイン思考の活用――特許庁「デザイン経営」の取り組みより
外山雅暁
(特許庁 デザイン経営プロジェクト推進事務局
経済産業省・特許庁は、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営を推進する「『デザイン経営』宣言」を2018年に公表した。これとともに特許庁は、自らがデザイン経営を実践するために「デザイン経営プロジェクト」を立ち上げ、デザイン思考などを活用してユーザー視点でサービスを改善・創造することにより、行政のイノベーションを模索している。本稿では、デザイン経営について解説しつつ、特許庁自らが行っているデザイン経営の取り組みと、それによって得た知見や今後の取り組みについて紹介する。

特集論文Ⅵ 製造業におけるサービスデザインとマネジメント
木見田康治
(東京大学大学院工学系研究科特任講師
サービスデザインは目的や対象、活動主体が多岐にわたっており、その捉え方も三者三様である。本稿ではまず、マーケティングや設計工学、生産工学などのさまざまな分野におけるサービスデザインの取り組みを俯瞰した上で、特に製造業におけるサービスに着目し、経済性と環境性を同時に高めるための製品、サービス、ビジネスモデルのデザインとその事例について紹介する。さらに、これらのデザインを推進するための経営上の課題として、ポートフォリオや、経営資源と組織能力の獲得、パートナーシップ、組織設計について解説し、最後に、製造業のサービスに必要なケイパビリティーの向上を支援するツールを適用事例とともに説明する。

特集論文Ⅶ デザインの普及と進化するマーケティング
古江奈々美
(東京理科大学経営学部助教
新製品企画において、マーケティングとデザインは歴史的に多くの共通点を持ち、相互に影響を及ぼし合いながら発展してきた。前者が緻密な市場分析に基づき、現実のデータを最重視して確実な新製品企画を遂行するのに対し、後者は時にデザイナーの直観を重視して飛躍ある新しいコンセプトを提唱するというアプローチ上の相違がある。また、デザインは新製品のコンセプト生成までの段階でも評価されるのに対し、マーケティングでは事業化までいかなければ評価されない、という射程の違いも重要である。しかし、両者は手段が異なるだけで、同じ理念を持っている。本論文では、両領域を相互補完・強化し、未来志向で飛躍的なコンセプトを生み出す方法を探っていく。


[連載]エフェクチュエーションによる新市場創造
[第3回]「起業家による機会の認識」を通じた市場機会の創造
吉田満梨
(神戸大学大学院経営学研究科准教授)

[連載]イノベーションマネジメントの定石
[第8回]知的財産権マネジメント――イノベーションの盾と糊
吉岡(小林)徹
(一橋大学イノベーション研究センター専任講師)

[連載]産業変革の起業家たち
[第13回]衛星打ち上げで終わらない宇宙開発への尽きせぬ思い
八坂哲雄
(株式会社QPS研究所 ファウンダー)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊


[ビジネス・ケース]
旭酒造――「脱」杜氏の酒造りと「獺祭」の海外展開
南敦/木島絵里子/内田翔太郎/佐藤栄二/澤村慎太郎/森一晃/青島矢一
(一橋大学大学院経営管理研究科修士課程/一橋大学大学院経営管理研究科修士課程/
 一橋大学大学院経営管理研究科修士課程/一橋大学大学院経営管理研究科修士課程/
 一橋大学大学院経営管理研究科修士課程/一橋大学大学院経営管理研究科修士課程/
 一橋大学イノベーション研究センター長・教授

「獺祭」で知られる旭酒造は、山口県岩国市に酒蔵を構える老舗メーカーである。国内の日本酒市場はこの50年間で縮小の一途をたどり、企業規模とブランド力の弱い旭酒造は、1980年代に経営危機に直面する。そのなかで社長に就任した桜井博志は、「脱」杜氏の酒造りと製造工程の見える化、高品質の高級酒路線など、当時の日本酒業界の常識や慣習を破る改革を次々に行っていく。そして、活路を地元ではなく、東京、そして、海外に求め、この20年で売り上げを約70倍へと急成長させ、海外でも知られるブランドを確立した。本ケースでは、当事者への丹念なインタビューなどをもとに、旭酒造の40年にわたる成長の軌跡をたどる。

アールシーコア――個性的な「暮らし」を届けるBESSの家
秋池篤/吉岡(小林)徹/村山貴俊
(東北学院大学経営学部准教授/
 一橋大学イノベーション研究センター専任講師/
 東北学院大学経営学部教授

ログハウスの国内シェアトップを誇るアールシーコアは、どのようにして顧客をファンにし、成長してきたのか。本ケースでは、①家を楽しい暮らしを実現するための道具として位置づける独自の製品戦略を30年近く続けてきたこと、②展示場に来て納得してもらうことを重視した販売戦略をとってきたこと、③製品の独自性と製品への納得が生み出したユーザーコミュニティーとの創発的な関係があったこと、を描き出す。同社の経営は、社長の二木浩三が言うように一見「へそ曲がり」であるが、マーケティング起点の戦略の王道ともいうべきものであった。


[私のこの一冊]
■小さな勇気の灯を胸に
――江川紹子『勇気ってなんだろう』
酒井健
(東北大学大学院経済学研究科准教授


[マネジメント・フォーラム]

インタビュアー:米倉誠一郎/吉岡(小林)徹
デザインはより良い世界をつくるためのムーブメント
田中一雄
(株式会社GKデザイン機構 代表取締役社長CEO)


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