【一橋ビジネスレビュー】 2022年度 Vol.70-No.2

2022年秋号<VOL.70 NO.2>特集:観光業の危機対応力
――コロナ禍の教訓と復活への戦略

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、日本の観光業は深刻な打撃を受けた。右肩上がりで増え続けていた訪日外国人観光客が途絶えてインバウンド需要が消失しただけでなく、国内の旅行需要までもが激減してしまった。この激しい環境変化に直面した業界各社は、いったいどのような創造的対応策を講じて、危機を乗り越えようとしているのだろうか。危機のさなかにある観光業の分析を通じて、急速な環境変化に対する企業や地域の創造的対応力を考える。


特集論文Ⅰ 観光を広げることで新生する「観光産業」
山内弘隆/宮崎俊哉
(一橋大学名誉教授/
 株式会社三菱総合研究所 観光立国実現支援チームリーダー・主席研究員)

観光産業がコロナ禍から復興し、持続可能な産業となるためには、観光を主要な売り上げとする観光産業の核となる事業所の生産性の向上や市場との関係強化といった、コロナ禍で顕在化した課題の解消やDX化が不可欠である。また、観光産業全体で資金調達や人材について他産業との連携が条件となる。その上で、観光産業のポジショニング自体を再定義し、旧来の観光産業のバリューチェーンを超えて、よりいっそう市場と根差す地域との関係性を深める方向性をめざす必要がある。観光産業は低迷する日本の縮図である一方、今後の日本や地域の変革を駆動していく産業として新生を図ることが可能である。

特集論文Ⅱ アフターコロナに向けてホテル事業者が取るべき創造的対応策
澤田竜次
(PwCコンサルティング合同会社 パートナー)
過去に類を見ないパンデミックの影響は、ホテル業界に甚大な被害を与えると同時に、業界の課題を浮き彫りにした。また、当該課題を加速するとともに、人々の行動や意識の変容を促した。コロナ禍の後遺症(過剰債務)で苦しむ企業にとっては、これらの課題や変容に抜本的かつ創造的な対応を図る必要が生じている。具体的には、①リスク耐性の強化を図り、②仕組みとしての運営力=経営力を強化し、③ブランドビジネスへの転換を図ること、そして、④業界横断的なプラットフォーム作りを検討することによって、アフターコロナにおける生き残りを図りつつ、成長産業のリーディングカンパニーとして大きな成長をめざすことが期待される。

特集論文Ⅲ 国内ホテル事業者の危機対応
上原渉/鎌田裕美/福地宏之
(一橋大学大学院経営管理研究科准教授/一橋大学大学院経営管理研究科准教授/
 一橋大学大学院経営管理研究科准教授

本論文の目的は、コロナ禍における宿泊事業者の対応と事業成果の関係を探索的に明らかにすることである。既存研究では、政府や自治体の政策の効果に注目した研究が多かったが、事業者の活動の効果に関する研究は見つからなかった。危機下のマネジメント行動研究を参考に、筆者らが質問票調査を実施し分析したところ、①起業家志向、特に行動を起こすことを重視する経営層がおり、②ロイヤルカスタマーを重視し、サービス品質を向上させ、③値下げをしない事業者の事業成果が相対的に高まる、といった傾向が見られた。一部の事業者はコロナ禍でも積極的に投資を行い、コロナ後の経営を見据えた行動を取り始めていることがわかった。

特集論文Ⅳ コロナ危機における国民の観光意識の国際比較――日本とイタリアの場合
加納史子
(コペンハーゲン商科大学准教授
2020年夏、コロナ危機の下、日本は東京2020オリンピック・パラリンピックの開催国として、世界各国からの訪日客を迎える予定であった。一方でイタリアは、新型コロナ感染症の拡大が収まり、徐々に規制緩和による旅行需要の回復の兆しが見えてきていた。当時の日本とイタリアでは、国民の旅行に関する危機感、国内および海外旅行への意欲は、どのように異なっていたのだろうか。それぞれの国で、国内または海外旅行へ意欲を見せたのは、どのような人たちなのだろうか。2020年7月に両国の消費者を対象に実施した調査から、当時回答者が示したコロナ危機後の行動意欲、国内旅行への危機感、外国人観光客の受け入れについての、両国間における共通点と相違点を明らかにする。

特集論文Ⅴ コロナ禍での観光客の受け入れ――観光地の住民態度
鎌田裕美/上原渉
(一橋大学大学院経営管理研究科准教授/一橋大学大学院経営管理研究科准教授
本論文では、観光地の住民がコロナ禍で観光客を受け入れるにあたり、感染リスクへの不安と地域経済の活性化というジレンマに直面する可能性に着目し、観光地の運営主体が住民に対してとるべきコミュニケーションについて議論する。筆者らが2020年9月と2021年2月に実施した調査の結果を比較して、観光地の住民はコロナ禍での観光客の受け入れにはネガティブである一方、観光振興そのもののサポートにはポジティブであり、かつ2回目の調査のほうがサポート意向は高まっていることが確認された。また、「新しいスタイルによる観光振興」にも関心があることが明らかになった。観光地の運営主体にとって、住民と共に今後の観光振興を考えていく好機であり、真の危機対応といえるだろう。

特集論文Ⅵ 観光業の再興と今後の成長に欠かせない観光地の需要創造
村木智裕/三井晃子
(株式会社Intheory代表取締役/独立行政法人国際観光振興機構 広州事務所次長
観光業の再興と今後の成長に欠かせない地域のマーケティング力とそれを支える地域事業者主体の地域マネジメント体制。その役割を担うべく各地に立ち上げられた国内DMO(観光地域づくり法人)が課題を抱える一方で、海外DMOの成功例が多い理由は、地域や地域事業の主体的な取り組みを可能とするエリアマネジメントの仕組みにある。世界水準のデスティネーション・マーケティングで実績を残す、せとうちDMOや修善寺温泉街の宿泊事業者が進めるエリアマネジメント負担金制度の導入。これらが組み合わさることで、地域や地域の観光業の成長循環を起こすことができ、時に訪れる危機にも対応する力を備えることが可能となる。本論文では、国内外の事例からその展望を描く。


[連載]エフェクチュエーションによる新市場創造
[第2回]新しい製品・サービスの開発を通じた市場機会の創造
吉田満梨
(神戸大学大学院経営学研究科准教授)

[連載]イノベーションマネジメントの定石
[第7回]プラットフォームエコシステム戦略
吉岡(小林)徹
(一橋大学イノベーション研究センター専任講師)

[連載]産業変革の起業家たち
[第12回]社会を良くしたい人たちに必要な資金が回る仕組みをつくる
髙橋伸彰
(ファルス株式会社 代表取締役社長)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊


[エッセイ]
「二項動態経営」を考える
野中郁次郎
(一橋大学名誉教授)


[ビジネス・ケース]
ラオックス――観光立国下での創造的戦略転換と戦略アジリティー
何格尓/福地宏之
(一橋大学大学院経営管理研究科博士後期課程/一橋大学大学院経営管理研究科准教授
近年、わが国のインバウンド観光産業は飛躍的な成長を遂げた。観光産業は目下、コロナ禍の苦境に置かれているが、コロナ後の力強い回復とさらなる成長が期待されている。本ケースでは、インバウンド観光産業のシンボルともいえる日本最大級の総合免税店企業であるラオックスをとりあげる。老舗の家電量販店であったラオックスは2000年代以降業績悪化に苦しんでいたが、2009年に中国・蘇寧電器との資本提携をきっかけに大きく戦略を転換し、日本最大手の免税店企業へと成長してきた。しかし、その歩みは順風満帆ではなく、同社の成長は環境変化に機敏に対応してきた結果である。本ケースでは、2009年以降のラオックスの機敏な戦略転換と、その背後にある組織の変化を描く。

東京海上日動システムズ――障害者社員の定着を促進する2つの人材活用アプローチ
丸山峻/島貫智行
(新潟大学経済科学部講師/一橋大学大学院経営管理研究科教授
東京海上日動システムズは、東京海上日動火災保険、東京海上日動あんしん生命保険をはじめとする、東京海上グループの情報システムの企画・提案・設計・開発・保守・運用ならびにシステム活用支援を担うユーザー系IT企業である。同社では、2006年より障害者雇用率を高めるための取り組みを開始し、社内喫茶店や社員向けマッサージルームなどの障害者雇用のための新たな職場を設けるとともに、同社の主要業務であるIT業務を担当する職場でも障害者社員の雇用を拡大した。2022年6月現在の障害者雇用率は3.52%と、法定雇用率を大幅に上回り、障害者社員の離職率も低い。同社における障害者社員の活用の特徴は、職場に応じて2つの異なる人材活用アプローチを併用していることである。本ケースでは、障害者雇用の拡大と障害者社員の定着に成果を出している同社の人事管理を整理しながら、企業による障害者社員の定着および活用のための取り組みについて考える。


[私のこの一冊]
■未知の世界に飛び込む心得
――塚田努『だから山谷はやめられねえ─「僕」が日雇い労働者だった180日』
加藤敬太
(埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授


[マネジメント・フォーラム]

インタビュアー:米倉誠一郎/藤原雅俊
コンセプトを示し、優先順位を組み換えて、危機を突破する
星野佳路
(株式会社星野リゾート代表)


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