【一橋ビジネスレビュー】 2022年度 Vol.70-No.1

2022年夏号<VOL.70 NO.1>特集:カーボンニュートラル革命
――日本型エネルギーシステムの構築に向けて

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:世界は、カーボンニュートラル革命の時代に突入した。パリ協定の採択、IPCC報告書の発表以降のカーボンニュートラルの実現は、いまや世界共通の政策課題となっている。カーボンニュートラルの実現は、産業革命以降すべての産業の基盤となっている化石燃料中心のエネルギーおよび電力システムの抜本的な改革を求めるものであり、産業界においては、イノベーションの推進を含めた抜本的な事業・経営の改革が求められている。また、世界各国も、産業政策的な観点も含めて、その政策の推進を競い合っている。本特集では、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みに関して、政策の動向、各産業における変革の方向性など、さまざまな観点から議論する。


特集論文Ⅰ 産業革命としてのカーボンニュートラル革命
市川類
(一橋大学イノベーション研究センター教授)
新たな産業革命であるといわれるカーボンニュートラルは、世界各国がその実現に向け、グリーン成長戦略に取り組んでいる。しかしながら、この「カーボンニュートラル革命」は、本当に過去の産業革命がもたらしたような経済成長を引き起こすのだろうか。本論文では、カーボンニュートラル革命について、過去との比較の下、特に産業転換、経済波及という2つのイノベーションの観点から考察する。カーボンニュートラル革命では、エネルギーシステムの急速な代替を目的とした比較的短期で集中的なイノベーションが推進されるがゆえに、過去の産業革命とは異なり、経済成長への効果は、理論上限定的であることを示す。これは、イノベーションの経済効果が、従来の外部不経済とされた環境価値の向上に補填されるためであるが、その上での経済波及効果の拡大に向けた課題についても考察する。

特集論文Ⅱ 日本型カーボンニュートラルへの道
橘川武郎
(国際大学副学長/国際大学大学院国際経営学研究科教授)
人類をはじめとする地球上の生物にとって、温暖化に象徴される気候変動問題の深刻化は、重大な脅威となっている。この問題の解決のためには、カーボンニュートラルに取り組むしかない。カーボンニュートラルとは、気候変動の原因となるCO2(二酸化炭素)を中心とする温室効果ガスの排出量と吸収量・除去量とを一致させて、「排出を実質的にゼロとする」ことである。日本は2020年10月、カーボンニュートラルを2050年までに達成することを世界に向けて宣言した。この宣言に実効性を持たせるために、企業・政府・地方自治体は、それぞれ何をなすべきであろうか。

特集論文Ⅲ なぜカーボンニュートラルの実現が「野心的」といえるのか
――S+3Eの再考

朝野賢司
(一般財団法人電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員
ロシアによるウクライナ侵略によって、わが国のエネルギー政策において基本方針とされるS+3Eのありようが、改めて問われている。2050年までのカーボンニュートラル達成に向けて最善を尽くす方針に変わりはなく、S+3Eのうち、「環境(Environment)」の優先順位は依然として高い。しかし、脱ロシア依存による資源価格の高騰で生じる「経済効率性(Economic Efficiency)」や「エネルギー安全保障(Energy Security)」への悪影響を見極め、これを最小化する努力が求められている。まずは、脱ロシア依存と3Eとで親和的な政策である、エンドユース機器の低炭素化や脱炭素エネルギー源の拡大を進める必要がある。

特集論文Ⅳ カーボンニュートラルに向けた自動車技術と関連政策
大聖泰弘
(早稲田大学名誉教授
先進国では、「パリ協定」における地球温暖化対策の目標が強化され、2050年に向けてカーボンニュートラルをめざすことになった。とりわけ自動車分野では、石油燃料の依存度がきわめて高く、エンジンを動力源とする自動車の燃費改善のみではCO2の大幅な削減は不可能な状況にある。自動車メーカーでは、エンジン車に代わって、充電機能を含むハイブリッド車、バッテリー電気自動車、燃料電池自動車などのいわゆる電動車の開発・普及拡大が積極的に取り組まれ、さらには燃料・エネルギー技術による脱炭素化も試行されている。そこで本稿では、自動車分野におけるカーボンニュートラルの実現に向けて有望とされる技術の将来性と、それを支援する政策について展望する。

特集論文Ⅴ カーボンニュートラルをめぐる動向とカギとなるCO2関連技術
河原圭
(経済産業省 エネルギー・環境イノベーション戦略室長
日本は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言したが、政府として、この目標をどのように実現しようと考えているのだろうか。この問いへの1つの答えが「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」である。本稿では、同成長戦略の方向性を俯瞰するとともに、目下議論されている「クリーンエネルギー戦略」の視座を明らかにする。さらに、2050年カーボンニュートラルに向けてカギとなる個別技術として、CO2の分離回収技術とネガティブエミッション技術を取り上げる。海外勢も本個別技術の開発を加速するなか、どうすれば「技術で勝ってビジネスでも勝つ」ことができるか。本稿では、こしたCO2関連技術の重要性と政策の方向性についても論じる。


[連載]エフェクチュエーションによる新市場創造
[第1回]市場機会が創造される3つのパターンと2つの論理
吉田満梨
(神戸大学大学院経営学研究科准教授)

[連載]イノベーションマネジメントの定石
[第6回]イノベーションの普及のための定石
吉岡(小林)徹
(一橋大学イノベーション研究センター専任講師)

[連載]産業変革の起業家たち
[第11回]大企業からシリアルアントレプレナーへ――時代の変わり目を楽しみ尽くす
福井啓介
(EdMuse株式会社 代表取締役CEO)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊


[私のこの一冊]
■道徳的経営の実現にあたって
――渋沢栄一『論語と算盤』
一小路武安
(東北大学大学院経済学研究科准教授


[特別寄稿]
新しい消費者参加型の製品開発 ――ソーシャルメディアのオピニオンリーダーとの共創
小川進
(神戸大学大学院経営学研究科教授
インターネットが普及した1990年代後半から、製品仕様の決定に消費者の意見を反映させる動きが見られるようになった。不特定多数の人々がインターネットを通じて製品開発に参加する仕組み、クラウドソーシング(CS)が代表的な仕組みに挙げられる。CSは製品開発を主導する企業のブランドや開発テーマに興味を持つ消費者を製品開発に組み込む。それに対し、製品に対する「評価」で他者の製品購入に影響を与える情報を、ソーシャルメディアを通じ発信するオピニオンリーダーに注目して製品開発に統合し、成長を試みる企業が近年登場してきている。彼ら彼女らは自身の発信内容に関心を持つ巨大な購買者予備軍に対して短時間かつ低コストで影響力を及ぼすことができる。こうした点に注目して事業を展開しているのが、CORESだ。本論文では、同社が展開する仕組みの特徴、誕生の背景と理由について紹介し、新しい消費者参加型製品開発の仕組みの可能性について考察する。


[ビジネス・ケース]
日本環境設計――服から服へ、資源が循環する持続可能なエコシステムの創造
橘樹/内田大輔/軽部大
(一橋大学大学院経営管理研究科博士課程/
 九州大学大学院経済学研究院准教授/
 一橋大学イノベーション研究センター教授

日本環境設計は、不要になった服が大量に廃棄される現実への強い問題意識を持つ2人の創業者が2007年に設立したスタートアップである。限られた資源の有効活用の必要性を唱える「循環型社会」は、理念としてはわれわれの生活に定着した。しかし、現実には解決すべき課題が多く、理念と現実の間にはギャップが存在している。同社は独自の技術を生み出し、消費者・企業・行政と連携しながら、「服から服をつくる」持続的なリサイクルエコシステムを構築した。本ケースでは、同社のリサイクルエコシステムがいかに構想され、創造されてきたかを議論する。

ヤマトグループ――標準化とオープン化による物流改革への挑戦
鈴木智子/今岡植
(一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻准教授/
 一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻博士課程

いまや日本の誰もが知る「宅急便」を開発したヤマトグループ。イノベーションを起こして成長を続けるだけでなく、社会問題に積極的に向き合う姿勢でも知られる。現在の物流網は、経済的にも環境的にも社会的にも持続可能性が危惧される。課題の打開策として掲げられたのは「自前主義からの脱皮」。そのカギは、標準化とオープン化による効率改革である。「クール宅急便」に代表される、自らの強みである小口保冷配送サービスの国際標準化とオープン化を進めている。本ケースでは、ヤマトグループによるコールドチェーン(低温流通体系)物流の標準化活動ならびに世界規模の食品流通の確立に向けたコンソーシアム「FRESH PASS」発足の軌跡を描く。


[マネジメント・フォーラム]

インタビュアー:米倉誠一郎/市川類
日本発の発電技術とソリューションで世界のエネルギー問題に挑む
奥田久栄
(株式会社JERA 取締役副社長執行役員)


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