【一橋ビジネスレビュー】 2021年度 Vol.69-No.4

2022年春号<VOL.69 NO.4>特集:マイノリティーから考えるビジネス創造
――多様性を社会の創造力に変える

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:私たちがめざすべき社会とは、多様な人々が分け隔てられることなく、自らの特長を活かせる社会である。本特集では、ビジネス創造を通じたマイノリティーによる市場活動への参加に注目し、分け隔てなしに活動できることが、豊かで持続的な社会の実現に不可欠であることを検討する。インクルージョンやダイバーシティーの問題は、人権や社会的福祉の問題であると同時に、ビジネスや市場を創造する上での問題でもある。マイノリティーが果たす役割を多面的に捉えることで、市場機会の発見・創造からビジネス創造に至る一連の過程を明らかにしたい。


特集論文Ⅰ 「見えない」女性起業家に光を当てる
――マイノリティーからの脱却と事業創造
鹿住倫世
(専修大学商学部教授)
世界的に見ても女性の起業は男性より少なく、日本では男性の約3分の1にすぎない。女性による起業家活動はハイテクベンチャーから自宅起業、コミュニティービジネスまで多様であるが、一般的に小規模であり、小売業やサービス業への偏りが見られ、自宅開業や副業での起業が多い。女性起業家はマイノリティーゆえに実情が理解されず、男性が起業する事業を想定して作られた公的創業支援策は、女性にはミスマッチとなっている場合がある。本稿では、女性起業家の多様性を論じ、特に今まで公的支援機関などと接点がなく、「見えない」存在であった女性起業家に光を当て、生活者視点に立ち、ワークライフバランスを取りながら起業したいと考える女性がビジネス創造できるような方策について考察している。地域において女性の起業が正当性を獲得することにより、女性起業家の実情に合った支援策が講じられ、女性の視点やニーズに基づくビジネスが創造される。

特集論文Ⅱ セクシュアルマイノリティーと日本社会
杉山文野
(特定非営利活動法人東京レインボープライド 共同代表理事)
現在、日本においてLGBTQを自認する人の割合は5〜8%ほどであるといわれている。身近にはいないと思っていても、実は、私たちは意識しているよりも多くのLGBTQ当事者と共に暮らしている。マイノリティーとマジョリティーが共存し、誰もが暮らしやすい優しい社会をつくるには、どのようなアップデートが必要だろうか。多様性やグローバルスタンダードを十分に理解することは、ビジネスを進める上でもいまや必須である。本稿では、日本社会におけるセクシュアルマイノリティー(性的少数者)を取り巻く環境と問題について解説するとともに、自治体や企業が取り組むべき課題についても考察する。

特集論文Ⅲ 外国人起業家から見た創業環境としての日本
軽部大/橘樹/米倉誠一郎
(一橋大学イノベーション研究センター教授/
 一橋大学大学院経営管理研究科修士課程/
 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授

外国人起業家は、マイノリティーとして社会の一翼を担う重要な主体である。しかしながら、日本における外国人による起業の実態はほとんど知られていない。本論文はその実態を明らかにしようとするものである。具体的には、外国人による起業を日本社会における「よそ者」による創業として捉えるのではなく、出身国から居住国への転住経験を経て、日本人が見落としがちな新しい事業機会を発見し、その実現を通じて両国を架橋する革新者として捉えることの意義を確認する。その上で、筆者らによる質問票調査と聞き取り調査の結果を踏まえて、日本における外国人起業家の実態を明らかにする。最後に、外国人起業家が日本の既存企業との協業を通じて、日本の企業社会変革の触媒となりうることを指摘する。

特集論文Ⅳ 特定の人の「専用品」を、より多くの人が使える「共用品」へ
星川安之
(公益財団法人共用品推進機構 専務理事兼事務局長
福祉とビジネスは、一見すると水と油のように相いれないもののようだが、見る角度を変えたり、めざす社会を相反するもの同士で共有すると、そうではない面が表れてくる場合がある。障害当事者専用に必要なものとされてきた福祉的なモノやサービスを実現してみると、障害のない人たちにもニーズがあるものだったりする。本稿では、障害の有無や年齢の高低にかかわりなく使える製品・サービスを共用品・共用サービスと名づけるまでのプロセスと、その普及に貢献した市場規模の可視化を紹介するとともに、共用品を作り出していく根幹である人のコミュニケーションを、会議のあり方を例に紹介していく。

特集論文Ⅴ ユニークな人の教育と新しいビジネス創造
中邑賢龍
(東京大学先端科学技術研究センター教授
かつて科学技術をリードしてきた日本に元気がない。規制緩和や新しいルールへの国民の反発などもあり、社会変革の速度も上がらない。イノベーションを期待する声も大きく、教育改革も進むがその成果が見えるかどうかもわからない。現在の社会を大きく変えた巨大プラットフォーム事業を立ち上げた、スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクらのような異才の登場を期待する声が大きいが、わが国でそれだけのスケール感を持った人物を育てることができるのだろうか。本稿では効率重視の現在の教育の課題を分析し、メインストリームから外れたユニークな人たちを活かしていくイノベーティブな未来への道筋を考える。

特集論文Ⅵ マイノリティーからマジョリティーへ
――個の直感・違和感・行動が組織を変える

島田由香
(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社 人事総務本部長
この世界は誰一人として、生まれてきてからまったく同じ経験をしている人はおらず、それぞれが独自の個性や強みを持っている。その意味で、すべての人がマイノリティーになりうる存在である。しかし、日本では周囲と違っていたり、多数と比較して普通でないことを非常に恐れる。著者はユニリーバ・ジャパンの人事担当者として、日本にはびこる「おかしな当たり前」を疑い、働き方や新卒採用などの改革で、それらを解消する仕組みを社内外に展開してきた。特に、新型コロナウイルスの蔓延で、働き方や生き方が問い直され、マイノリティーであったものがマジョリティーに変化してきている。本稿は、著者自身がパーパスとパッションを伝え続けてきた活動の軌跡や、最近の経営学での議論を紹介しながら、マイノリティーの存在が社会をより良い場に変えていく必要性を説く。


[連載]イノベーションマネジメントの定石
[第5回]イノベーション実現への反対のマネジメント
吉岡(小林)徹
(一橋大学イノベーション研究センター専任講師)

[連載]産業変革の起業家たち
[第10回]後発グルメサイトの戦い方「食体験で人生をハッピーに」
武田和也
(Retty株式会社 代表取締役CEO)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊


[私のこの一冊]
■「書くこと」を生業にするということ
――村上春樹『職業としての小説家』
清水たくみ
(慶應義塾大学総合政策学部准教授


[ビジネス・ケース]
アイリスオーヤマ ――「ユーザーイン」による需要創造の経営
柴田友厚/藤本雅彦
(学習院大学国際社会科学部教授/
 東北大学大学院経済学研究科教授

アイリスオーヤマは、東大阪のプラスチック成形の町工場として1958年に出発した。その後、脱下請けをめざして次々と自前の商品開発に挑戦し、現在6900億円(グループ連結)の売上高を擁するグローバル企業に成長した。その戦略の本質は、競争をできるだけ回避して新天地を開拓し、新たな需要創造と市場創造を行うことにある。では、どのような仕組みで行われるのだろうか。本ケースは、同社の成長の軌跡を紹介するとともに、成長の過程で需要創造のために作り上げられた主たる仕組みを紹介する。

カイハラ――Makuakeプロジェクトを通じたB2Cへの挑戦
鈴木智子
(一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻准教授
国内トップシェアを誇る、デニム生地メーカーのカイハラ。国内製ジーンズの2本に1本は、カイハラのデニム生地を使用している。たとえば、ユニクロの高品質ジーンズを支えているのもカイハラである。海外ブランドにもその品質は認められており、1本数万円もするようなプレミアムジーンズにも、カイハラのデニム生地が使われている。これまで黒子に徹してきたカイハラが、表舞台に挑んできた。新しいモノや体験の応援購入サービス「Makuake」を通じて、初めて一般消費者向けにジーンズを売り出したのだ。それは、「Makuake Of The Year 2021」を受賞するほどの大成功を収めた。本ケースでは、Makuakeでのプロジェクトをいかに成功に導いたか、企業向けビジネス(B2B)一筋だったカイハラの一般消費者向け販売(B2C)への挑戦を描く。

スークカンパニー――百貨店のなかに市場を創り劇場化する
松井剛
(一橋大学大学院経営管理研究科教授
阪急百貨店うめだ本店(現・阪急うめだ本店)は、店舗の建て替えをきっかけに、2012年以降「劇場型百貨店」というコンセプトを掲げるようになり、多くの顧客を魅了してきた。目玉となるのは、9階の巨大空間「祝祭広場」で開催されるイベントと、10階の雑貨フロア「うめだスーク」である。スークとは「市場」を意味するアラビア語だ。このネーミングからわかるように、うめだスークは、性格の異なる3つの「街区」に分かれていたり、出店者が入れ替わるスペースを設けるなど、百貨店の常識にとらわれない「市場」である。またクリエイター3000人のネットワークを活かして、個性的な各種イベントを年間1000回開催している。2018年にスークカンパニーが設立されたのは、こうして蓄積されたノウハウをH2Oグループの外側でも展開するためである。本ケースでは、うめだスークをはじめとする同社のユニークな取り組みを見る。


[ポーター賞]

第21回 ポーター賞受賞企業・事業に学ぶ
大薗恵美
(一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻教授)


[マネジメント・フォーラム]

インタビュアー:米倉誠一郎/軽部大
DXを活用し、障害を価値に変えた新しいビジネスを創造する
垣内俊哉
(株式会社ミライロ 代表取締役社長)


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