【一橋ビジネスレビュー】 2021年度 Vol.69-No.3

2021年冬号<VOL.69 NO.3>特集:スタートアップが変える未来
――新たなイノベーションシステムの確立に向けて

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:大企業中心の日本の産業システムは、社会に安定性をもたらす一方でイノベーションを生む活力をそぎつつある。今後、活力ある産業発展を実現するには、新興企業の成長が欠かせない。そのためには、技術、資金、信用、経営ノウハウなど、企業家に不足しがちな経営資源を、社会全体から供給、補完する必要がある。本特集では、それらの経営資源がどのようなルートでスタートアップ企業に供給されているのかを多面的に明らかにするとともに、そこに含まれる諸課題を抽出し、新旧企業を交えた産業発展のあり方を探る。


特集論文Ⅰ 日本の起業家群像
――「産業変革の起業家たち」に基づく一次報告
藤原雅俊/青島矢一
(一橋大学大学院経営管理研究科教授/
 一橋大学イノベーション研究センター長・教授)

スタートアップ企業による新規事業創出が活発化する諸外国に比べ、日本の産業成長は長らく既存の大手企業に依存してきた。しかし近年、日本でもスタートアップ投資が徐々に活発化してきている。日本が今後、大手企業依存型のイノベーションシステムから脱却し、スタートアップ企業の成長を実現するには、どのような課題を克服すべきだろうか。こうした問いに対して本論文は、本誌に連載中の「産業変革の起業家たち」にこれまで登場した9人の起業家たちへのインタビュー記事を振り返り、起業家(アントレプレナー)、機会認知、経営資源の獲得、戦略的柔軟性(ピボッティング)という4つの視点から、彼らの活動を整理するとともに、一次的な分析を行った。さらに、スタートアップ企業の成長を支える大手企業や公的機関が果たす役割についても言及する。

特集論文Ⅱ 既存企業の再生・再編
――VC・PEファンドの歴史に見る価値向上に向けた根幹の精神・ガバナンス

畠山直子/黒沢洋一郎
(ニューホライズン キャピタル株式会社 相談役/
 ニューホライズン キャピタル株式会社 シニア・マネージング・ディレクター)

日米で新興企業の成長や経済全体での成長に差が生じた一因に、VC(ベンチャーキャピタル)・PE(プライベートエクイティー)などの産業金融のプレゼンスの差が挙げられる。究極的な資金供給者としての年金基金の存在が、量的・質的にVC・PEなどの産業金融機能に圧倒的な違いをもたらしたが、アメリカでその端緒となったのがエリサ法による投資分散の指針であった。年金基金という国民の資産(ピープルズ・マネー)がその資産の最大化を企図して価値向上のためにガバナンスを進展させたことも、企業が成長分野に向けたリソースを適切にシフトすることを促してきた。本稿では、その根底にあった精神を考察するとともに、イノベーションやサステナビリティー志向で新たな価値の創造・向上に取り組んでいる日本企業の事例を考察する。

特集論文Ⅲ IPO企業の地域分布とパフォーマンス
――地方創生のためのファイナンスの課題

忽那憲治
 (神戸大学大学院経営学研究科教授
IPO企業の東京集中が著しく、地方企業にとってIPOは遠い存在である。地方企業に限定されることではないが、スタートアップスのための市場であるマザーズのアンダープライシング(公開価格の過小値付け)は、かなり高い水準にある。地方ベースで活動するVCが増えてきたとはいえ、IPOまでの十分な成長資金を調達できない状況にある。IPO後の長期株価パフォーマンスも、残念ながら良好とはいえない。地方大学発ベンチャーを核とする成長企業の輩出が今後期待される。また、インパクト投資やインパクトIPOという概念が少しずつ認知されるようになってきており、社会的課題の解決のために活動する地方ベースのスタートアップスの登場にも期待が持たれる。

特集論文Ⅳ 大学発ベンチャー
――20年間の進展と今後の課題

各務茂夫
(東京大学大学院工学系研究科教授
「大学発ベンチャー」という言葉が頻繁にメディアに登場するようになってから20年が経過した。2001年5月に経済産業省が発表した「新市場・雇用創出に向けた重点プラン」(通称「平沼プラン」)がその起点となる。「大学発ベンチャー企業を3年間で1000社」にする目標が宣言されてから、2020年10月時点での大学発ベンチャーの企業数は2905社となった(経済産業省調査)。東京大学だけを見ても、同省の調査とは大学発ベンチャーの定義は若干異なるものの、その数は四百数十社に及んでいる。本論文では、筆者が所属する東京大学の20年間の大学発ベンチャーの軌跡を追うことで、大学発ベンチャーの過去・現在を概観し、今後の発展に向けた課題を導出したい。

特集論文Ⅴ スタートアップ支援の現状と方向性
石井芳明
(経済産業省 経済産業政策局 新規事業創造推進室長
イノベーションの創出と社会実装が豊かな社会と暮らしのカギを握る今日において、その担い手たるスタートアップの重要性は増大している。世界ではスタートアップの成長が顕著で、旧来型の企業と新しい技術・サービスで市場を創出するスタートアップが入れ替わり、経済の新陳代謝と活性化が進む。また、都市におけるスタートアップの創出・成長促進のためのエコシステム整備の動きも加速している。このような動きを受けて、日本においても、内閣府、経済産業省、文部科学省など、各省庁や自治体が連携して、スタートアップ・エコシステム拠点形成戦略、J-Startupなど政策的な支援を強化している。本稿では、スタートアップをめぐる現状と政策の方向性を概観する。

特集論文Ⅵ コーポレート・ベンチャーキャピタルの戦略的活用
――日米欧主要CVCの分析

岡本知久/青島矢一
(三菱重工業株式会社 財務企画総括部 事業支援グループ主任/
 一橋大学イノベーション研究センター長・教授

新規事業の創出が喫緊の課題となるなか、日本企業は企業組織の境界を越えた多様な形態によるイノベーションを模索している。その1つとして近年注目を集めているのが、事業会社がスタートアップ投資を行うコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)である。本論文では、日米欧の主要CVC7社の分析を通じて、CVCを有効に活用するための要諦を考察する。CVCの運営では、財務目標と戦略目標のバランスのとり方が課題となるが、両者が異なる組織運営を要請するところに難しさがある。2つの目標の間で適切なバランスをとり、スタートアップ投資を通じて企業が成長や変革を遂げるには、CVCの目的や戦略の明確化、それらと一貫した投資方針やマネジメントが必要であるとともに、経営陣の強い長期的なコミットメントが不可欠であることを説く。

特集論文Ⅶ 多様性とスピードを加速する「CVC4.0」
――VC as a Serviceが拓く未来

米倉誠一郎/アニス・ウッザマン
(法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授、一橋大学名誉教授/
 ペガサス・テック・ベンチャーズ 代表パートナー兼CEO

2000年に1人当たりの名目GDP世界第3位を誇っていた日本は、現在、26位にまで転落。「世界競争力年鑑」のビジネス効率性ランキングでは55位と、競争力が著しく低いことを露呈した。コロナ禍を経てデジタル化が加速し、目まぐるしく変わる世界のなかで、日本は完全に出遅れてしまっている。この危機を乗り越えてイノベーションを起こすためにも、シリコンバレーベースのベンチャーキャピタルとタッグを組んで、国内外のスタートアップを支援し、大企業に新たな風を吹き込む必要がある。本論文では、戦後から現在に至るまでの日本経済の歩みを振り返るとともに、イノベーション創出の手段であるCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)に着目。経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)をフル活用することで、社内外資源や事業のシナジーを最大化する、フル・リソース・プラットフォーム型の「CVC4.0」を提案する。


[連載]イノベーションマネジメントの定石
[第4回]技術獲得目的のM&Aの定石
吉岡(小林)徹
(一橋大学イノベーション研究センター専任講師)

[連載]「ポジショニング」を問う――顧客の脳内をどう制するか
[第3回]ポジショニングのポジショニング
結城 祥
(神戸大学大学院経営学研究科准教授)

[連載]産業変革の起業家たち
[第9回]日本の大学から世界に通用するスタートアップを生み出す
伊藤 毅
(Beyond Next Ventures株式会社 代表取締役社長)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊


[私のこの一冊] 
■消費者という「他者」との価値共創
――清野とおる『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』

吉田満梨
(神戸大学大学院経営学研究科准教授


[ビジネス・ケース]
スーパーホテル ――持たざる経営を支える「自律型感動人間」
板橋洋平/北川実茶/笹森奎穂/志賀俊希/青島矢一
(一橋大学大学院経営管理研究科経営分析プログラム/
 一橋大学大学院経営管理研究科経営分析プログラム/
 一橋大学大学院経営管理研究科経営分析プログラム/
 一橋大学大学院経営管理研究科経営分析プログラム/
 一橋大学イノベーション研究センター長・教授

国内有数の全国ホテルチェーンであるスーパーホテルは、リーズナブルな価格を武器に、時流に合ったビジネスモデルで順調に店舗数を拡大してきた。ところが、次第に本社と店舗のコミュニケーションが希薄になり、店舗間のサービスにばらつきが生じて、成長が鈍化してしまう。そこで同社は、大胆な組織改革を断行した。その中核となるのが、お客様を第一とする経営理念の浸透と、マニュアルに頼らない「自律型感動人間」の育成である。本ケースでは、リーズナブルな価格を維持しつつも高品質のサービスを提供し、高い顧客満足度を得ることに成功した同社の歩みをたどり、その優れた施策を考察する。

NEC ――新事業開発を起点とした企業変革へのチャレンジ
佐々木将人/宇田川元一/黒澤壮史
(一橋大学大学院経営管理研究科准教授/
 埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授/
 日本大学商学部准教授

日本を代表するIT分野のリーディングカンパニーである日本電気(NEC)は、2000年度をピークに売上高・利益率が低下し、長らく業績の低迷に苦しんできた。新事業開発の部門として作られたビジネスイノベーションユニット(BIU)は、これまでのNECとは異なる新たな事業開発の方法を取り入れることで、AIを用いたデータ解析を行うdotDataのカーブアウトに代表されるように、これまでにない新事業開発の方法による成果をスピーディーに成し遂げてきた。本ケースでは、BIUにおける取り組みにフォーカスしながら、こうした成果に結びついた背後のさまざまな制度変革にも着目し、新事業開発を起点とした企業変革の取り組みを紹介する。


[マネジメント・フォーラム]

インタビュアー:米倉誠一郎/青島矢一
エバーグリーンファンドでスタートアップを純粋に応援する
孫 泰蔵
(連続起業家/ベンチャー投資家)


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