【一橋ビジネスレビュー】 2015年度 Vol.63-No.3

2015年度<VOL.63 NO.3> 特集:中国モデルの破壊と創造

 

 

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集
一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

 
特集:20世紀終盤から「世界の工場」として急成長を遂げてきた中国。国が富むにつれ、中国は「世界の市場」としての性格も帯び始めている。さらに地場からは世界的に著名な企業も登場した。しかしながら、近年ではマクロ経済指標が次々に悪化しており、人件費の高騰やシャドーバンキング問題、株価や不動産価格の下落など、負の側面もさまざまに顕在化している。本特集は、このように多様な諸相を見せる中国経済および中国ビジネスを多角的な視点や分析レベルで論じる。
 
特集論文Ⅰ 中国マクロ経済の光と影
田中 修(日中産学官交流機構 特別研究員)
中国経済は最近減速しているものの、指標には一部改善の傾向もあり、株式・国際金融市場に大きな混乱が発生しなければ、ハードランディングに陥る可能性は低い。習近平指導部も、過去の大規模な景気刺激策が経済リスクを増大させた反省を踏まえ、雇用が安定していれば安易に短期・大型の景気刺激策を発動せず、ターゲットを絞った景気テコ入れ策を小まめに打ち出しながら、むしろ経済改革・構造調整を重視する姿勢をとっている。今後の見通しとしては、2020年までに経済改革と構造調整を着実に進め、経済発展方式の転換に成功できなければ、中国経済は「中等所得の罠」に陥り、低成長・ハードランディングのリスクが増大することになろう。
 
特集論文Ⅱ 中国資本主義の牽引役、温州モデルは脱皮できるか──コミュニティー・キャピタルによる温州企業の繁栄と限界
西口敏宏/辻田素子
(一橋大学イノベーション研究センター教授/龍谷大学経済学部教授)
知識や学歴といった「個人的資源」に恵まれない温州人企業家が、他の中国人を圧倒する繁栄を手にできたのはなぜか。本稿は、彼らの「コミュニティー」に起因するパフォーマンス上の違いを分析するにあたり、特定のメンバーシップによって明確に境界が定まり、その成員間でのみ共有され利用されうる資源としての「コミュニティー・キャピタル」と、個人のネットワーク戦略に注目する。その結果、温州人の同郷縁をベースとする結束型コミュニティー・キャピタル(内的凝集性)と、遠距離交際に長けた「ジャンプ型」人材を中心とするネットワーク能力の高さ(外部探索性)のバランスの良さが浮き彫りになった。ただし近年は、温州人に繁栄をもたらしたその特性が、彼らのさらなる発展を拘束している。
 
特集論文Ⅲ 社会ネットワークを介した希少資源の効率的多重活用──中国PV産業急発展のメカニズム
青島矢一/王 文
(一橋大学イノベーション研究センター教授/一橋大学大学院商学研究科博士課程)
太陽光発電(PV)産業は、世界各国の普及政策に後押しされて急発展を遂げてきた。この発展において特筆すべきは、技術的な先端産業であるにもかかわらず、実質的に市場が立ち上がった2000年代後半の5~6年の間に、圧倒的に後発であった中国企業が、日欧企業からシェアを奪い、一気に市場を席巻したことである。中国企業はなぜここまで短期間に競争力を獲得できたのか。特に、成長に必要となる有能な技術者と経営者の不足をどのようにして克服したのか。本稿では、中国におけるPV産業の集積地である江蘇省無錫市における丹念な実態調査を通じて、企業間での情報や知識の移転と共有という観点からこれらの問いに対する1つの回答を提示するとともに、そこに付随する問題点も指摘する。
 
 
特集論文Ⅳ アリババ──プラットフォーム帝国への道
江 鴻/劉 湘麗/黄 陽華/賀 俊
(中国社会科学院工業経済研究所 助理研究員/中国社会科学院工業経済研究所 研究員/
中国社会科学院工業経済研究所 副研究員/中国社会科学院工業経済研究所 副研究員)
アリババは、現行の制度や慣行と実際の市場ニーズとの隙間を的確に見いだし、ITを駆使して、日用品、生産財から行政手続き、金融商品、医療サービスまでさまざまなものをオンラインで販売してきた。変化の時代にある今日の中国では、制度・慣行も、市場ニーズも、大きく動いている。両者の隙間は埋められたかと思えば、また新たな隙間が生まれる。アリババは、まさにこうした隙間を利用して、物やサービス売買の仲介者としてプラットフォーム帝国を築き上げた。時代は、ビッグデータがものをいう方向へ流れている。隙間に関する目利きという点では、アリババの経営者は優位に立っているが、ITについてはクリエイティブな精神をもって対応しなければならない。
 
特集論文Ⅴ 中国企業の成長とリバース・イノベーション2.0
徐 航明(日系大手電機メーカー勤務)
「世界の工場」でGDP世界第2位へと躍進した中国は、持続的な成長のために「世界のR&D」へ変身しようとしている。「コア技術がない」「模倣天国」などといわれている中国だが、先進国企業の強みをいち早く吸収する巧妙な学習力と、世界最大の産業集積地としての成長や人材の豊富さを加えて、中国発、中国ならではのイノベーションはすでに始まっている。本稿では、中国企業のイノベーションの事例を通じて、ローカルニーズに適用されるグローバルシーズの活用による価値創造のプロセスと、中国企業が担い手となる「リバース・イノベーション2.0」を考察する。
 
特集論文Ⅵ 得意技の抽象化と現場翻訳
藤原雅俊(一橋大学大学院商学研究科准教授)
中国市場で一定の成果を挙げている日本企業は、いったいどのようにして競争優位を実現しているのだろうか。本稿は、3度にわたり大きく波打ちながら楽観と悲観を繰り返してきた日本企業による中国展開史を概観した上で、クボタのコンバイン事業を取り上げ、同社が競争優位を実現するまでのメカニズムを考察する。水稲用賃刈屋を対象顧客とした同社は、その賃刈屋の声に徹底的に応えて連合サービスという仕組みを構築し、コンバインの「絶え間ない耐久性」を実現した。その仕組みは中国独自であるものの、機能に目を向けると、同社が日本市場で構築してきたサービス特急便が果たす機能と相通じている。自社独自の顧客価値とそれを実現する手段とをあわせて得意技と呼べば、クボタは日本市場で構築してきた得意技を抽象化した上で、それを中国市場で現場翻訳したのだった。本稿は、このように得意技を抽象化し、海外市場において現場翻訳することの重要性を説く。
 
 
[技術経営のリーダーたち] 第26回
ブランドを生み出すには、ストーリーを語るリーダーが必要
小川理子
(パナソニック株式会社 役員 テクニクスブランド事業担当)
 
[経営を読み解くキーワード]
ほんもの
大竹光寿
(明治学院大学経済学部准教授)
 
[ビジネス・ケース]
モルフォ──東大発ベンチャーの10年 手ブレ補正ソフトウェアによる起業からグローバル展開まで
小阪玄次郎/上智大学小阪ゼミナール
(上智大学経済学部経営学科准教授)
スマートフォンの高機能化に伴い、画像や動画撮影でもデジタルカメラに劣らないような高品質な仕上がりが求められている。そのなかで手ブレ防止などのデジタル画像処理技術を提供しているのがモルフォである。同社は、東京大学大学院を修了したメンバーを中心として立ち上げられたベンチャー企業である。設立にあたっては東京大学のベンチャーキャピタルが開発拠点と資金を提供した。現在、同社のソフトウェアは世界の主要スマートフォンメーカーの大半で導入されている。設立10年ほどの大学発ベンチャーが、いかにしてこうした成功を収めたのだろうか。本ケースでは、創業の経緯や開発戦略、組織設計、そして同社をサポートした大学の役割についてたどっていく。
 
良品計画──中国に広げる「感じ良いくらし」
西野和美 
(東京理科大学大学院イノベーション研究科准教授)
1980年に誕生した無印良品(良品計画)。「わけあって、安い。」というキャッチフレーズの下、シンプルで美しい生活雑貨を開発し、「MUJI」の名で世界にも広く知られている。同社は、早くから海外進出を始め、現在、世界25カ国・地域に進出している。なかでも中国では、ここ10年で急速に店舗数を拡大しており、MUJIの提案するライフスタイルが受け入れられつつある。しかしそこに至るまでには、多くの紆余曲折があった。本ケースでは、どのように現地で店舗と流通網を作り上げ、店舗運営を行い、従業員に理念を浸透させていったのか。そして、顧客にどんな新しい価値を提案しているのかをたどっていく。

[連載]無印良品の経営学
[第3回]無印良品の再生
西川英彦 (法政大学経営学部教授)

[コラム]価値創りの新しいカタチ──オープン・イノベーションを考える
[第3回]外部のトライアル・アンド・エラーの成果を活かすためのモジュール化
清水 洋 (一橋大学イノベーション研究センター准教授)

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー/米倉誠一郎・藤原雅俊
経済合理性を旗印にして14億人の巨大市場に果敢にチャレンジせよ
丹羽宇一郎
(日本中国友好協会 会長/元・駐中国大使)
 
 
[私のこの一冊]
■私たちは、「科学知」とどう向き合うか──西山哲郎編『科学化する日常の社会学』
 服部泰宏 (横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授)
 
■職業人生の原点に戻っていける──ジェフリー・アーチャー『百万ドルをとり返せ!』
 川本裕子 (早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)
 
 
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