【一橋ビジネスレビュー】 2015年度 Vol.63-No.1

2015年度<VOL.63 NO.1> 特集: 「最後のフロンティア」アフリカ
われわれは何を学ぶのか

 
 
 
 
12・3・6・9月(年4回)刊編集
一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社
 
 
特集:経済フロンティアとしては「最後の」、人種や文化面でまったく異なるという点では日本にとって「最初の」フロンティアといえるアフリカと、日本政府や企業は今後どのようにかかわるべきか。本特集では、アフリカにおけるリスク評価やビジネスモデル構築にくわしい研究者、日本企業のアフリカ進出を支援する実務家の視点を通じて、日本政府や企業に残されたチャンスとは何か、アフリカで政治的あるいはビジネス的に成功する戦略を考えることやそのために必要な、従来とは異なるマインドセットを持つことから、日本が得られることについて考察する。
 
特集論文Ⅰ いまなぜアフリカなのか――最後で最初のフロンティア
米倉誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター教授)
「いまなぜアフリカなのか」という問いに答えるならば、アフリカを考えることが日本のパラダイムチェンジにつながり、停滞する日本に新しいビジョンを提供することになると考えるからである。本稿では、日本がその契機を得るために、2つの国のケースを中心に取り上げる。アフリカ大陸の最南端に位置し多様な市場を擁する南アフリカ共和国とアフリカ中央部に位置するルワンダ共和国である。南アフリカについては、個々の市場に対してその特性を考えてどのような戦略を考えるべきか議論する。一方ルワンダについては、大虐殺という悲劇を経験し、そこから政治・経済環境の整備を進める同国に対して、従来になかったクリエーティブな支援のあり方について考察する。本稿を通じて、日本の新たなフロンティア開拓のトリガーが引かれることを期待する。
 
特集論文Ⅱ “日本とアフリカ”地政学・地理経済学的関係の転換――日本企業の視点から
マーティン・デイヴィス/キーラ・マクドナルド
 (フロンティア・アドバイザリー CEO/フロンティア・アドバイザリー アナリスト)
かつては「人任せ支援」と言われながらも、アフリカに対して無償の開発援助を長く続けてきた日本。しかし、中国の存在感が強くなったことにより、支援も経済的な見返りを求める形への方向転換が図られた。その見返りのなかには国連安保理常任理事国入りの支持をアフリカ諸国から獲得するという長期的目標が含まれる。本稿では、アフリカに対する日本の支援政策の進化を追うとともに、日本企業にとって現在関心の高い資源確保のための事業戦略の事例を取り上げ、彼らにとって資源の次に発展の可能性があるビジネスは何か、また、日本企業がアフリカで持続的に成功を収めるには何が重要な要素であるかを考える。
 
特集論文Ⅲ 新しい市場、新しいマインドセット――アフリカ拠点におけるビジネスの構築
タシュミア・イシュマエル
(プレトリア大学ゴードン・インスティチュート・オブ・ビジネス・サイエンス(GIBS)講師)
世界における低所得層を意味する言葉としてベース・オブ・ピラミッド(BOP)が定義され、その階層の市場獲得が注目されるようになって久しい。しかし、先進国の従来型ビジネスモデルをこの低所得層の市場にそのまま持ち込んだ多くの企業は失敗した。言葉や費用や時間や距離の問題によって十分な調査ができていないことが原因だ。本稿では、BOP市場を理解してビジネスモデルを設計するためのフレームワークやアフリカにおける成功企業事例の紹介、経営資源の不足または欠乏を前提にイノベーションを起こすこと、そのためにこの市場における社会的ネットワークを利用する価値などについて議論を展開する。そのなかから、企業によるBOP市場へのアプローチにおいて、目先の利益追求で代表されるステレオタイプのマインドセットを変換させて、本当の意味での持続可能な価値を加えるために、人、地球、利益を統合する姿勢が大事であることが見えてくる。
 
 
特集論文Ⅳ 紛争後/脆弱国家におけるプロジェクトファイナンスDFIsの役割は何か
ミッシェル・ルイタース/ティエリ・ジョルダーノ
(南部アフリカ開発銀行 アフリカリサーチャー/農業開発研究国際協力センター エコノミスト)
農業開発研究国際協力センター エコノミスト)
平和と持続的発展との間には強固な関係性があるとする仮説は幅広く支持されている。この仮説から、国際金融機関(International Financial Institutions: IFIs) や開発金融機関(Development Finance Institutions:DFIs)、また民間企業は、紛争後/脆弱国家(post-conflict/fragile states)に対して、リスクを最小化しつつ便益を最大化するような投資の選択肢を模索し始めている。本稿の目的は、DFIsがこうした紛争後/脆弱国家に果たす役割を明らかにすることである。
 
特集論文Ⅴ アフリカに行く日本企業
堺夏七子(JCCP M株式会社 代表取締役)
アフリカが最後のフロンティアであり自社もいずれ進出しなければならないことを理解している日本企業は少なくないだろう。しかしながら、54カ国のうちのいったいどの国へ最初に進出すればいいのか、その後どのように展開すればいいのか、従来の海外進出と同様の方法が通じるのか、はたまた独自の方法が必要なのか、等々と疑問ばかりが募り、最初の一歩を踏み出すことを躊躇しているのが現状ではないだろうか。本稿では、古くは1920年代からアフリカに進出している企業をはじめ、すでにアフリカでビジネスの実績を挙げている日本企業の事例を紹介することにより、上記の疑問に答えてみたい。
 
 
[経営を読み解くキーワード]
戦略的忘却
閔 廷媛
(九州大学大学院経済学研究院講師) 
 
[技術経営のリーダーたち] 第24回 
イノベーティブな開発では、深いところで皆をつないで
引っ張っていくことがリーダーに求められる 
小木曽 聡 
(株式会社アドヴィックス 顧問/トヨタ自動車株式会社 顧問)
 
[ビジネス・ケース]
エニグモ――ビジネスモデルの構築と成長のプロセス 
田路則子/福田淳児
(法政大学大学院経営学研究科教授/法政大学大学院経営学研究科教授)
「海外在住の個人の出品者から世界中のブランド品をお得に購入できる」というソーシャルショッピングサイト「BUYMA」を運営するエニグモは、創業から8年後の2012年に株式を公開した。新しく画期的なサービスではあるものの、同社の起業から株式公開までの道のりは決して平坦なものではなかった。本ケースは、まず株式公開までに経営者が経験した失敗や事業戦略を考察する。ベンチャー企業の成長プロセスだけではなく、ウェブビジネスのイノベーションのプロセスの研究でも示唆に富んだ内容である。続く同社の現経営体制の考察は、ベンチャー企業が株式公開後、採用・人事評価・新規事業開発などをさらなる成長の牽引力として有効に機能させる方策を提供してくれる。
 
日本交通――タクシー業界における組織変革とサービスイノベーション
露木恵美子
(中央大学ビジネススクール露木ゼミナール・中央大学大学院戦略経営研究科教授)
低迷が続くハイヤー・タクシー業界にあって、「『拾われる』タクシーから『選ばれる』タクシーへ」をモットーに、多様な顧客の要望に応えるサービスを次々と打ち出し、業界トップクラスの業績を挙げているのが、1928(昭和3)年創業の老舗ハイヤー・タクシー会社、日本交通である。子どもの安全な送迎サービスや訪日外国人の観光案内を手がける「EDS(エキスパート・ドライバー・サービス)」を展開するなかで、他社に先駆けてきめ細かなサービスを実現し、1時間4000円以上の料金設定にもかかわらず顧客を増やしてきた。注目すべきは、そのサービスをつくりあげる過程で、タクシー乗務員による活発な意見交換が行われ、現場から常に工夫や改善が重ねられているという点である。本ケースでは、約1900億円もの負債を抱えていた同社が、「選ばれる」タクシーの実現に向け、現場のタクシー乗務員たちの自主性を引き出し、復活を遂げるまでの軌跡をたどる。
 
[連載] 無印良品の経営学 第1回(新連載)
無印良品の誕生
西川英彦
(法政大学経営学部教授)
 
[コラム] 価値創りの新しいカタチ─オープン・イノベーションを考える 第1回(新連載)
周回遅れの日本企業
清水 洋 (一橋大学イノベーション研究センター准教授)
 
[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー/米倉誠一郎
社会的結合をイノベーティブに実現させようと模索する
アフリカの旗手、南アフリカ
モハウ・ペコ
(南アフリカ共和国大使館 駐日特命全権大使)
 
[投稿論文]企業内人材の事業創造効力感を
高める行動特性
関口倫紀(大阪大学大学院経済学研究科教授)
企業内で事業創造を担う人材の重要性が高まっている。そこで本研究では、企業内人材が有する事業創造活動への自信を示す「事業創造効力感」に影響を与える行動特性を実証的に検討した。日本で正社員として働く594人の調査データを分析した結果、仕事における「ネットワーキング行動」「プロアクティブ行動」「逸脱行動」が事業創造効力感と関連していることが明らかになった。さらに、これらの先行要因でもあり事業創造効力感に直接的にも関連する従業員特性として「社会的スキル」「創造的内発動機」「リスク志向」の影響が確認された。本研究の結果は、企業内事業創造人材の発掘・育成や、企業内事業創造を活発化する組織風土の醸成などについて一定の示唆を与えるものである。
 
[私のこの一冊]
■座右の書とするに値する名著――ポール・ミルグロム/ジョン・ロバーツ『組織の経済学』
 長岡貞男 (東京経済大学経済学部教授)
 
■ドラッカー経営思想の真の原点――P・F・ドラッカー『「経済人」の終わり』
 田中弥生 (大学評価・学位授与機構教授)
 
 
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