【一橋ビジネスレビュー】 2013年度 Vol.61-No.1

2013年度<VOL.61 NO.1> 特集:市場と組織をデザインするビジネスエコノミクスの最前線

12・3・6・9月(年4回)刊編集
一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:近年、経営戦略や企業組織を分析するための経済学の道具立ては、大きく進化している。行動経済学や組織の経済学、契約理論、オークション理論などである。2012年ノーベル経済学賞受賞者であるロイド・シャプレーとアルビン・ロスの専門分野であるマッチング理論やマーケットデザインも、そういった新しい道具立ての1つである。本特集では、近年の経済学の進化を踏まえて、ビジネス・エコノミクスの新しい流れを具体例に即して解説する。ビジネスシーンで日々起こっている事象を、より深く洞察するための見方・考え方を提供する。

特集論文Ⅰ マーケットデザインの理論とビジネスへの実践
安田洋祐 
(政策学院大学助教授)
ミクロ経済学から得られた知見を応用して、現実の市場や制度の具体的なデザインを研究・提案するマーケットデザイン。既存の市場・制度を与えられたものとして捉え、その機能を解明することに注力してきた伝統的な経済学とは異なり、新たにイチから制度を設計、あるいは変更することを対象とするマーケットデザインは、実践例の拡大とともに近年急速に関心を集めている。本稿では、この新しい分野が特に成功を収めている、オークション設計とマッチング・メカニズムについて、それぞれの代表的な理論とビジネスへの実践に触れながら解説を行う。

特集論文Ⅱ 仲買人とサーチ市場―市場の中身をのぞき見る/仲介がビジネスとして成立する理由
渡辺 誠 
(オランダ・ティンバーゲン研究所フェロー)
伝統的な経済学では、市場の中身をブラックボックスとして取り扱うことが多い。市場の中身をのぞき見ると、そもそも、売り手と買い手が取引相手や対象物を探し出し、納得のいく取引にたどりつくまでの過程が重要だ。これは、サーチ理論に基づく市場観で、ジョージ・スティグラー(1982年ノーベル経済学賞)によって導入され、ピーター・ダイアモンド、デール・モーテンセン、クリストファー・ピサリデス(いずれも2010年ノーベル経済学賞)によって発展を見た。本稿では、この分野での最新の理論を用いて、仲介がビジネスとして成り立つ理由、仲介の経済機能、および、仲介業者が経済に対して与える影響を考察していく。

特集論文Ⅲ 抱き合わせ販売
花園 誠 
(名古屋大学大学院経済学研究科准教授)
パッケージをどのようにして構成し、どんな価格をつければよいかという問題は、複数の財やサービスを生産・販売する企業の重要な課題である。本稿は、パッケージすなわち抱き合わせ販売を用いるにあたって、どのような条件の下で集積収益性が高まるのか、価格をどう設定すればよいのかについて考察する。パッケージ販売は、費用削減等のシナジー効果だけではなく、消費者の利用価値を平準化しその分布を平均付近に集中させ、利益を満遍なくしかも比較的大きく獲得できるような効果をもたらす。特に、利用価値に負の相関を持つ財の抱き合わせ、多数の財の抱き合わせ、また、パッケージとバラ売りを組み合わせた混合抱き合わせは効果が高いことがわかっている。

特集論文Ⅳ 行動経済学と産業組織論――ナイーブな消費者と市場
中島大輔
(小樽商科大学商学部准教授)
伝統的に合理的な個人を想定してきた経済学は、近年「さほど合理的でなく、行動や思考に偏りがある個人(消費者)」をモデルに取り込むことによって、その分析範囲を広げてきた。本稿では、完全には合理的でない消費者として、後になって自分が無駄遣いやサボりの誘惑に負けてしまうことをすっかり忘れている消費者、自分がどれだけサービスを利用するかの見通しが甘い消費者などを取り上げ、企業そして市場はどのような価格設定をするかについて、最新の研究をなるべくわかりやすく説明する。

特集論文Ⅴ 人事の経済学――企業組織における昇進の役割について
石田潤一郎
(大阪大学社会経済研究所教授)
企業組織内部について、市場の分析に主眼を置く伝統的な経済学においては、長い間あまりよくわからない状態が続いていたが、近年ではゲーム理論や契約理論などの進展により、企業組織内部の問題に関する理解も飛躍的に高まっている。人事の経済学は、企業組織の中でも主に人的資源管理にかかわる諸問題を扱う分野として位置付けることができる。本稿では、人事制度を構築する上で不可欠な「インセンティブ設計」の視点から、特に企業組織内における昇進の役割に着目して文献の一部を概観する。

特集論文Ⅵ 組織の異質性がもたらすインセンティブ効果
伊藤秀史 / 森田公之
(一橋大学大学院商学研究科教授 /  一橋大学大学院商学研究科博士後期課程)
会社組織は、同じ信条や価値観を持った人々で構成され、同質化する傾向がある。しかし、同じ組織に属する人々の間でも、異質性、特に異なる意見や好みを持つことはあるだろう。一見すると、上司や部下、そして同僚が異なる意見や好みを持つことにプラスの面はなさそうである。たとえば、素晴らしいと思ったアイデアも、社内の反対に遭い採用されないかもしれない。組織のなかで日常的に直面するこのような異質性にメリットはあるのか、またあるとしたら、それ
はどのようなものか。本稿は、組織の経済学の分野での最近の研究を紹介することで、組織内での意見や好みに関する異質性がもたらすメリットと、そのメリットを生み出すロジックを明らかにする。

[経営を読み解くキーワード]
ブランド・リレーションシップ
久保田進彦 (青山学院大学経営学部教授)

[技術経営のリーダーたち]
「半歩先を行く」という時間差の意識が勝利への道を拓く(第17回)
西嶋貴史 (アーム株式会社 代表取締役社長)

[特別寄稿]イノベーション理論は「生き方」の実践論である
野中郁次郎
(一橋大学名誉教授)
日本発の経営理論として世界的に知られる知識創造理論は、その源流に哲学の知見がある。知識創造理論では、イノベーション理論の本質は「生き方」であり、その基盤として哲学を持たなければならないと説く。なぜなら、知識を創造する暗黙知、形式知、実践知という3つの知の綜合プロセスには、哲学でいう認識論、存在論、経験論が基盤となってかかわり合っているからである。本稿は知識創造理論の提唱者が、哲学の最先端の議論であるネオ・プラグマティズムの暗黙知や徳という流れをひもとき、それらに学ぶことで、経営者に求められる知の本質を探り出す試みである。

[ビジネス・ケース]
良品計画――仕組みづくりと企業風土の醸成を通じた経営の革新
島貫智行
 (一橋大学大学院商学研究科准教授)
「無印良品」で知られる良品計画は創業以降順調に成長してきたが、1999年を境に業績が悪化し2001年度中間決算では赤字に転落してしまう。この危機に急遽社長に就任した松井忠三(現・会長)は業務標準化と人材育成を促進する仕組みづくりや、進化と実行を重んじる革新的な企業風土の醸成に取り組むことによって業績を回復させ、再び成長軌道に乗せることに成功した。本ケースでは、松井による経営改革を振り返りながら企業を継続的に強くするための組織づくりや人材育成のあり方を考える。

[ビジネス・ケース]
巣鴨信用金庫――信用金庫の「復刻」をめざした組織文化改革
露木恵美子
(中央大学大学院戦略経営研究科教授)
東京・巣鴨のとげぬき地蔵尊の縁日である4の日(4日、14日、24日)、たくさんのお年寄りが集まる信用金庫がある。「おもてなし処」として無償でお茶やお菓子を振る舞い、憩いの場を提供している巣鴨信用金庫だ。巣鴨信用金庫では、「喜ばれることに喜びを」というモットーの下、職員1人1人が、お客様のためになることを自ら考え、実践している。横並び意識が強い金融業界において、なぜこのような組織文化を職員1人1人に根づかせることができたのか。本ケースでは、その組織文化変革への取り組みを探る。

[コラム]日本経営学のイノベーション 第2回
もう1つの大学横断的共同研究
小川進 (神戸大学大学院経営学研究科教授)

[私のこの一冊]
■論理と共感の狭間で──玄田有史『仕事の中の曖昧な不安』
 守島基博 (一橋大学大学院商学研究科教授)

■「表現」という工程の重要性──藤沢晃治『「わかりやすい表現」の技術』

 伊吹勇亮 (京都産業大学経営学部准教授)

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー/米倉誠一郎
真のグローバル企業となるために──レノボの「プロテクト&アタック」
ロードリック・ラピン (NECレノボ・ジャパングループ会長)

[投稿論文]イノベーションの普及と正当化――「自分へのご褒美」消費を事例にして
鈴木智子
 (京都大学大学院経営管理研究部特定講師)



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