MOTVシリーズ概要

概要

■目的
 MOTVとは「Management of Technology Video」の略称で、「技術経営教育向けの映像教材」を意味する。一橋大学イノベーション研究センターと(株)ケンジ・コミュニケーションズは、MOT教育・研修の活性化をはかることを目指して映像教材の開発、供給に取り組んでおり、MOTVはその産物である。

映像教材は学習方法の多様化・高度化を可能にし、学習者の理解を効果的に促進、支援することができる。MOTVの開発・供給を通じて日本のMOT教育の充実に貢献したいというのがわれわれの願いである。

MOTVは二つのシリーズから構成されている。
MOTV1「イノベーションの世紀:アメリカの革新」シリーズ(以下MOTV1)とMOTV2「イノベーションの世紀:技術と社会」シリーズ(以下MOTV2)である。
MOTV1は2003年度に、MOTV2は2004年度に開発したもので、ともに海外(アメリカ、イギリス、オーストラリア)の既存の映像作品を活用している。海外にはすでに質の高いMOT関連の映像作品が
豊富にそろっているが、中でもとくに優れていると思われるものを選定し、それらの作品について日本でMOT教育用に利用できるように版権を取得し、日本語字幕をつけて、シリーズ化した。

両シリーズあわせて、合計13の作品(約19時間分)から成っている。また、これにあわせて、技術経営に関する講義・研修などでそれぞれの作品をどのように利用できるかを示す手引き(ティーチング・ノート)も用意した。

 両シリーズの開発に要した費用は、経済産業省による「起業家育成プログラム等導入促進事業」(MOTV1)と「技術経営人材育成プログラム導入促進事業」
(MOTV2)の支援にその大部分を負っており、同省ならびに同プロジェクトの運営主体である(株)三菱総合研究所に感謝したい(https://www.mot.gr.jp)。

■MOTV1「イノベーションの世紀:アメリカの革新」シリーズ

 本シリーズは、以下の9作品(60分ビデオテープ15本分)から構成される。
第1巻 電話 ~その発明と革新(51分)(”The Telephone” Simon & Goodman Picture Company/WGBH、Boston、1997年制作)
第2巻 電波の帝国 ~ラジオを創造した男たち(55分/58分)(”Empire of the Air
~The Men Who Made Radio” Florentine Film/WETA、Washington、1991年制作)
第3巻 カメラの鬼才 ~イーストマン・コダック物語(52分)(”Wizard of Photography”
Green Light Productions/WGBH、Boston、2000年制作)
第4巻 真空管からトランジスターへ ~半導体産業の誕生と発展(57分)
(”Transistorized!” ScienCentral/KTCA、1999年制作)
第5巻 シリコンバレー ~ハイテク聖地の歴史(55分)(”Silicon Valley:2001″
Santa Clara Valley Historical Association/OPB、Oregon、2000年制作)
第6巻 パーソナル・コンピュータの誕生と進化 ~Nerdたちの勝利(51分/51分/
51分)(”Triumph of The Nerds” RM Associates/ Channel 4 & OPB、Oregon、
1996年制作)
第7巻 インターネットの勃興 ~Nerd たちの活躍(61分/61分/63分)(”Nerds
2.0.1. ~A Brief History of the Internet” OPB、Oregon、1998年制作)
第8巻 オンライン・マネー ~電子決済の興隆(57分/58分)(”Electric Money” RM Associates/OPB、Oregon、2001年制作)
第9巻 クールの商人 ~ポップカルチャー・マーケティング革新(54分)(”Merchants
of Cool” 10-20 Productions/WGBH、 Boston、2001年制作)

 このシリーズでは19世紀後半から20世紀末にかけてのアメリカにおける主要な
イノベーションをとりあげた作品を集めた。電話、ラジオ、カメラ、半導体、コンピュー
タ、インターネット、電子決済など、それぞれのイノベーションがどのような経緯で
実現、発展し、その過程で様々な人々、組織、政府、制度がどのように関わり、また
それぞれのイノベーションが経済、産業、社会、文化などにいかなる影響を及ぼした
のかが、貴重な映像を駆使してわかりやすく描かれている。作品は全てアメリカの
公共放送(PBS: Public Broadcasting Service)に所属する各地のテレビ局や独立
系番組制作者が制作したものである。

■MOTV2「イノベーションの世紀:技術と社会」シリーズ

 本シリーズは、以下の4作品(60分ビデオテープ4本分)から構成される。

第10巻 電気の時代の到来 ~エジソンの天才と苦悩(57分)(”Edison’s Miracle
of Light” 米国PBS/WGBH, 1995年制作)

第11巻 ピル ~経口避妊薬誕生への闘い(53分)(”The Pill” 米国PBS/WGBH,
2002年制作)

第12巻 遺伝子組み換え食品 ~技術革新の光と影(79分)(”The Rise and Fall
of GM” 英国Channel Four Television Corporation, 2000年制作)

第13巻 国際メディア帝国 ~マードック一族の野望(57分)(”The Murdochs:
Building an Empire” オーストラリアABC, 2002年制作)

 このシリーズでは技術革新と社会の関係についてとりあげた作品を集めた。電力ネットワーク、経口避妊薬、遺伝子組み換え食品、国際メディアなど、社会に大きなインパクトをもたらすイノベーションが巻き起こす様々な社会的な問題がとりあげられ、それぞれのイノベーションが実現(あるいは挫折)していく過程が、貴重な映像を駆使してわかりやすく描かれている。アメリカ(第10、11巻)、イギリス(第12巻)、オーストラリア(第13巻)のテレビ局が制作した作品である。

■MOTVのねらいと特徴

 MOTVは、技術経営教育用の教材として開発されているが、とくに重要な狙いが二つある。
ひとつは、イノベーションが社会的なプロセスであることを理解してもらうことにある。狭義の技術革新はたしかにイノベーションの必要条件にはなるが、イノベーションが社会で受容され、普及するためには技術革新だけでははなしはすまない。とりわけ、MOTVでとり上げるような大がかりなイノベーションでは、社会に対する主体的な働きかけが重要であり、時には強大な抵抗にあってせっかくの技術革新が花開かぬまま頓挫する場合もある。社会的な営みとしてのイノベーションの特質を理解すること、これが第一の狙いである。

 もうひとつ、イノベーションとそれを担う企業の命運の関係を理解することもMOTVの狙いである。イノベーションで先行して大きな成功を手に入れるのも、またその結果主役の座を奪われるのも企業である。あるいはイノベーションに成功した企業が最終的な経営の果実をえるとは限らない。イノベーションと企業の盛衰の関係は複雑である。この複雑な関係を、欧米の企業が取り組んだ様々なイノベーションを題材に解き明かし、技術経営の手がかりを提
供すること、これが第二の狙いである。

 類似の映像作品としてNHKが放映している「プロジェクトX」を思い浮かべる人もいるだろう。社会に重要なインパクトを残した技術革新を扱っているという点でたしかに共通する部分がある。ただ、プロジェクトXは、多くの場合、特定の組織、チーム、リーダーによる特定のプロジェクトの成功に至るまでの苦闘を扱っている。

まさに「プロジェクト」の話しである。これに対して、MOTVでは、様々な人々、組織、さらには政策や制度などがからみ、時にはみにくい争いや政治的かけひき、さらには宗教的葛藤、イデオロギーの対立なども繰り広げながら、電話、電力ネットワーク、ラジオ放送、カメラ、半導体、クレジットカード、経口避妊薬、ATM、パソコン、国際的メディア、インターネットなどそれまで存在しなかった新しい産業、ビジネス、仕組みが生まれ、そして発展していった過程を追う作品が集まっている。より「構え」の大きな内容となっており、社会的プロセスとしてのイノベーションという現象を理解する上
で、格好の内容となっている。

 われわれの知りうる限り、これらの一連の作品をひとまとめにしてとりそろえたシリーズは、多くの優れた作品を生み出しているアメリカにもない。個々の作品が必ずしも意図していたわけではないが、一連の作品群を通してみることによって、結果として19世紀後半から20世紀末にかけてのアメリカにおける様々なイノベーションのつながりや共通点を見つけたり、それとは逆に時代にともなう変化を見いだしたりすることができる。宗教・社会の抵抗を乗り越えて社会に普及・定着していった
経口避妊薬の話しと、イデオロギーの抵抗を乗り越えることができぬまま消滅の危機にある遺伝子組み換え食品の話しを対比してみることも可能である。「個々の作品の利用」もさることながら、こうした「作品集としての利用」が可能になっているのもMOTVの大きな魅力である。

 いまや技術水準で世界の先頭に立った日本は、新たな産業、事業分野を生み出すようなイノベーションをみずから創造することが求められている。そんな日本にとって、これまで大がかりなイノベーションにおいて数多くの実績をあげてきた欧米の歴史から学ぶことができるMOTVは、貴重な教材となるはずだ。いろいろな機会、場面で使っていただければ幸いである。