2010年度 Vol.58-No.3

2010年度<VOL.58 NO.3> 特集:検証・Cool Japan
        ──北米における日本のポップカルチャー

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2010年度<VOL.58 NO.3>
特集:検証・Cool Japan──北米における日本のポップカルチャー2000年代に入ってから、「Cool Japan」という表現の下、アニメやマンガといった日本のポップカルチャーが世界を「席巻」していることが喧伝されるようになった。しかし海外における日本のポップカルチャーの展開・受容のあり方について、実態を踏まえた研究はあまりないのが現状だ。そこで本特集では、日本のアニメやマンガにとって最も重要な市場の1つである北米市場における日本のポップカルチャーの展開・受容について多面的に分析する。
海部正樹(ワウマックス・メディア 業務執行社員・CEO) アメリカにおける日本のコンテンツ市場
 
  かつてアメリカにおける日本製アニメは、アメリカのエンターテインメント産業全体から見れば、一部のマニアが熱狂するニッチプロパティというポジショニングだった。それが、1999年の「ポケモン」の大ヒットを契機として、アメリカ市場では、日本製アニメ全体が、マスプロパティというポジションに移動した。しかし、ポケモン以降日本製アニメからはマス市場におけるヒットプロパティがなかなか生まれなかったため、再びニッチプロパティというポジションに移動していった。北米市場における日本製アニメや日本のコンテンツのポジショニングは、今後も変化し続けるだろう。しかし日本のアイディアやコンセプトは、さまざまな形で世界市場に受け入れられるだろう。
フレデリック・L・ショット(著述家) 北米における「クール・ジャパン」
  日本のマンガとアニメは、アメリカにどのように受け入れられ、どのように広がっていったのか。クール・ジャパンの代表として世界での人気が日本国内で喧伝されるマンガとアニメ。1970年代から日本のマンガをアメリカに紹介し、その普及に重要な役割を担ってきたフレデリック・L・ショットが、北米における日本のマンガとアニメの普及を概観したのが、本稿である。1970年代のショット自身によるマンガ紹介の著作の話題から、1980年代から増え始めたファンとその活動、2000年前後から起こった北米での日本のポップ・カルチャー・ブーム、その終焉に至る2010年までの歴史を論じ、クール・ジャパンの実態の一端を明らかにする。
豊永真美(日本貿易振興機構 海外調査部主査) パワーレンジャーをヒットさせた男ハイム・サバンと日本のコンテンツ
  北米で最もヒットした日本製コンテンツ「パワーレンジャー」シリーズを手掛けたのは、ハイム・サバンという、アメリカとイスラエルの二重国籍を持つビジネスパーソンである。サバンは、音楽プロデューサーを経て、日本のスーパー戦隊シリーズをアメリカ向けにリメイクして全米で展開して大きな成功を収めた。一時はフランスやドイツの放送局の経営権も取得し、現在は政界、メディア界に大きな影響力を持つに至っている。サバンの成功が意味することは何か。日本のコンテンツが欧米で受け入れられるには、何が必要なのか。日本ではあまり知られず、それでいて日本に非常に縁のあるサバンの経歴を見ることは、日本企業にとっての海外展開の示唆となるであろう。
イアン・コンドリー(マサチューセッツ工科大学外国語・文学部日本文化研究科准教授) 暗黒エネルギーコピーライト・ウォーズについてファンサブが明らかにするもの
  デジタル時代の到来以降、インターネット上には、権利保有者に無許可でアップロードされたコンテンツが無数に存在する。アニメもその1つだ。字幕をつけてアップロードされた無許可のアニメ、通称「ファンサブ」は「商品化と私有財産の尊重に依存」する市場の論理に反するが、同時にアニメ普及への貢献の有無が長く議論の的となってきた。マサチューセッツ工科大学で日本文化を研究する文化人類学者、イアン・コンドリーは、市場志向と反市場志向をあわせ持つという矛盾を抱えたファンサブ制作をめぐる状況を調査し、ファンをファンサブ制作に駆り立てるものを「暗黒エネルギー」と呼ぶことを提唱する。
三原龍太郎(経済産業省 課長補佐) ウロボロスの環、あるいはアニメオリエンタリズム試論
  北米における日本アニメの語られ方、研究のされ方、受容のされ方は、かつてエドワード・サイードが「オリエンタリズム」というセオリーで批判した、西洋におけるオリエントに関する言説のあり方と驚愕すべき類似が見られる。北米現地で日本アニメのあり方を実地に観察した結果、とりわけ顕著だったのは、「自己充足的・自己補強的な性格を持つ閉じられたシステムとしてのオリエンタリズム」の日本アニメ版とでもいうべき事態である。北米における日本アニメについての研究や言説等は、彼らのなかだけでの閉じたフィードバック・ループ(「ウロボロスの環」)を形成している側面があるのではないか。
松井 剛(一橋大学大学院商学研究科准教授) ブームとしての「クール・ジャパン」ポップカルチャーをめぐる中央官庁の政策競争
  アメリカ人ジャーナリストが2002年に書いた記事がきっかけとなって、現在に至るまで、中央官界では「クール・ジャパン」というコトバが頻繁に語られている。各省庁が関連する政策を打ち出すなか、2010年には経済産業省が「クール・ジャパン室」を新設するに至っている。なぜ中央官庁が競って、マンガやアニメ、ゲーム、ファッションなど日本のポップカルチャーの輸出を促す政策を打ち出したり、これらを通じた日本の「ソフトパワー」の形成を進めたりするようになったのか。官庁文書と官僚へのインタビューに基づいて、2000年代に生じたこの集合現象を分析する。
●ビジネス・ケース
松井 剛(一橋大学大学院商学研究科准教授)
ビズメディア:北米マンガ市場の開拓者
  アメリカの大型書店チェーンには「Manga」という棚があり、英訳された日本のマンガが売られている。北米においてマンガの市場が2000年代に形成され、日本という独特な文化的土壌で育まれたマンガが、アメリカの人々を魅了しているのである。この市場を開拓したのが、サンフランシスコに拠点を置くビズメディアである。本ケースでは、同社のマンガ市場開拓の歴史、そして出版、映像、ライセンシングを総合的に取り扱うマルチメディア企業としてのマーケティング戦略の展開について見ていく。
●ビジネス・ケース
三原龍太郎/山崎繭加(経済産業省 課長補佐/
ハーバード・ビジネス・スクール 日本リサーチ・センター シニア・リサーチ・アソシエイト)
バンダイエンタテインメント:北米アニメ市場における新たなビジネスモデルの模索
  1996年にバンダイ(現バンダイナムコホールディングス)の北米子会社として設立されたバンダイエンタテインメントは、日本アニメDVDの販売を手掛けてきた。インターネット、特に「ファンサブ」の隆盛により、従来のアニメ販売会社のビジネスモデルは根底から覆され、多くのアニメ販売会社が北米事業の撤退を余儀なくされるなか、業界2番手グループの一角を形成してきた同社も、苦しい状況に置かれている。変化の激しい北米市場で同社は新しいビジネスモデルを打ち立てることができるか。
●技術経営のリーダーたち(9)
 島田太郎(シーメンス プロダクトライフサイクルマネジメントソフトウェアJP 株式会社 代表取締役社長)
       インタビュアー・延岡健太郎/青島矢一
 「『火中の金の栗を拾え』をモットーに」
●連載:経営学のイノベーション:サービス・マネジメントのフロンティア(3)
 藤川佳則 「価値共創者としての顧客:資源ベースの顧客観に向けて」
●コラム連載:「人勢」議論(4)
 金井壽宏 「集合レベルの自己効力感:できるという気持ち・覇気が持てる人びとの輪を広げる」
●私のこの一冊
 菅野 寛 「ビジネスの本質である「愛」の修練法:エーリッヒ・フロム『愛するということ』」
 武石 彰 「社会科学の意義を問う歴史的講演:マックス・ウェーバー『職業としての学問』」
●マネジメント・フォーラム
 堀淵清治(ビズピクチャーズ 社長兼CEO):
       
インタビュアー・米倉誠一郎/松井 剛
 「マンガやアニメ、映画などのポップカルチャーを通じて日本的な価値をアメリカに広めていきます」
●用語解説
 数土直志 「サイマルキャスト」

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