2007年度 Vol.55-No.4

2007年度<VOL.55 NO.4> 特集:日本経営学の最前線Ⅰ
       ――知識・企業・イノベーションのダイナミクス  

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2007年度<VOL.55 NO.4>
特集:日本経営学の最前線Ⅰ――知識・企業・イノベーションのダイナミクス文部科学省21世紀COE(Center of Excellence)プログラムとして、一橋大学、神戸大学、東京大学が経営学分野における研究重要拠点として選ばれ、2003年度から5年間の研究プログラムがスタートした。本誌では、この研究成果を「日本経営学の最先端」シリーズとして、全3回にわたって取り上げる。今号は、シリーズ第1弾として、一橋大学を特集する。社会的現象であるイノベーションと、組織・企業システムとのダイナミクスを多面的に分析する。
伊丹敬之(一橋大学大学院商学研究科教授) 組織が知識を蓄積し、市場が利用する
 
  知識をベースに企業システムがイノベーションをどのように生むか。そして、知識が企業システムなどによってどのように蓄積されるか。本稿では、こうした知識と企業システムとイノベーションの関係の全体像を情報と製品の流れから描くことで、基本的概念枠組みを提示するものである。そして、企業システムを構成する企業組織と市場という二大要素のそれぞれの得意技が「知識の蓄積」と「知識の利用」であることを指摘する。そのうえで、日米の企業システムの特徴を描き出し、日本企業が今後のイノベーションにおいて取るべきスタンスを考える。本稿はまた、このCOEプログラム特集の主題であるイノベーションのダイナミクス全体の概念を真正面から捉える試みでもある。
武石彰/青島矢一/軽部大(一橋大学イノベーション研究センター教授/一橋大学イノベーション研究センター准教授/一橋大学イノベーション研究センター准教授) イノベーションの理由―大河内賞受賞事例に見る革新への資源動員の正当化プロセス
  イノベーションを実現するには、革新的なアイディアを作り出す「知識創造」と、関連主体を「資源動員」しながら経済成果に結びつけていく、という2つの側面がある。しかし、革新的なアイディアはイノベーションの実現過程において周囲の逡巡や抵抗に遭いやすく、さまざまな主体の資源を動員しにくいという側面がある。イノベーションを目指す企業は、どのような「理由」によって資源の動員を可能にしていくのか。本稿では、優れた技術革新に対して与えられる大河内賞を受賞した18件の日本企業の事例を比較分析することで、壁を乗り越え、資源動員の正当化というプロセスを経て、企業がイノベーションを実現していく過程を明らかにする。
加藤俊彦/沼上幹/軽部大(一橋大学大学院商学研究科准教授/一橋大学大学院商学研究科教授/一橋大学イノベーション研究センター准教授) 組織の〈重さ〉と組織構造―第2回調査の分析から
  今日の日本企業の組織はどのような問題を抱えているのだろうか。とりわけ日本企業の優れた特性といわれてきた創発戦略を生み出す能力は、どのような状況にあるのだろうか。本稿では、このような問題意識のもとで、複数の日本企業において継続的に実施されている質問票調査のうち、2006年度に実施された第2回調査の分析結果を紹介する。戦略の創発過程に影響を与える組織的要因として新たに提起される「組織の〈重さ〉」を基礎に置いた分析から明らかになるのは、〈重い〉組織では官僚制的な側面を中心とする「機械的特性」が相対的に低い点である。そのような結果からは、規模の大小を問わず属人的調整に過剰に依存し、必要な官僚制化が欠如しがちという日本企業固有の組織的問題が示唆される。
青島矢一/楠木建(一橋大学イノベーション研究センター准教授/一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授) システム再定義としてのイノベーション
  1990年代中盤以降、急速にイノベーションの必要性が叫ばれるようになった。しかし、イノベーションという言葉の指し示す意味が曖昧であり続ける限り、その欠如がいくら問題であるとしても、何の処方箋も書くことができない。本稿では、イノベーションを生産要素の新結合によるシステムの再定義として捉え直し、新たな類型化の枠組みの提示を試みる。そこでは、イノベーションを、内部システムと外部システムの変化のレベルによって類型化し、それぞれの特徴を事例を紹介しつつ明らかにする。そして、技術進歩の追求やもの造り能力の増強はイノベーションを引き起こすうえで不十分であるだけでなく、それらが時としてシステム再定義としてのイノベーションを妨げることもあると指摘し、日本企業の抱える本質的な問題を浮き彫りにしたうえで打開策を説く。
中野誠(一橋大学大学大学院商学研究科准教授) 利益率格差構造の国際比較研究
  個人所得格差の研究に関しては活発な議論が展開されているが、企業間の利益率格差については、個別企業の競争力という側面のみに関心が向けられ、国別や産業別の構造を「社会的指標」として比較分析したものはほとんどない。本稿では、日米など経済主要先進10カ国の上場公開企業の利益率格差を2006年までの20年あまりの間にわたるデータを使って多様な角度から分析を加えて、実証的に論じたものである。企業間の利益率格差は世界的に見て拡大する傾向にあるが、国別の特徴や、日米の利益率格差比較から見える特徴、そして、そこから読み解くことのできる問題はどこにあるのか。分析結果から導かれるさまざまな事実とともに、今後の研究の展望を描く。
●ビジネス・ケース
青島矢一/鈴木修(一橋大学イノベーション研究センター准教授/一橋大学大学院商学研究科博士後期課程)
ソニー:非接触ICカード技術「FeliCa」のイノベーション
  Suica、PASMO、 ICOCA、Edyといった各種電子マネーのおかげで、切符を購入しなくても改札を通れたり、カードをかざすだけで買い物ができたりするようになった。これらのカードに使われている技術はすべて、ソニーが開発したFeliCaという非接触型ICカード技術である。もともとは、1980年代後半に運送業者の仕分け用タグとして開発された技術であるが、その後、鉄道の電子乗車券用に転用されるようになった。当初デバイス事業としてスタートしたFeliCa事業は、その後、携帯電話会社や金融機関などとの提携を進めることによって、さまざまなサービス事業を取り込んできた。本稿では、FeliCa技術の開発から、多岐にわたるサービス事業の展開に至るプロセスをたどる。
藤川佳則/楊佩綸/廣瀬文乃(一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授/一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了/一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士後期課程) リアル・フリート:美しいカデン「amadana」が目指すデザイン・イノベーション
  今日の日本の家電業界のなかで、21世紀の東京のライフスタイルに合う「美しいカデン」というブランド哲学を掲げるリアル・フリートの製品が、デザインを重視する消費者の注目を集めている。同社は、2002年に設立され、オリジナルブランド「amadana」を展開している。デジタル化とコモディティ化の流れのなか、特に大型量販店に大きく依存する家電業界の従来のやり方に対し、同社は製品開発から販売戦略までを包括した革新的なビジネスモデルを作り出そうとしている。本稿では、デザイン重視の製品を核に、新たなビジネスモデルの「デザイン」を目指し、独自の道を歩み出すリアル・フリートの軌跡をたどるとともに、今後の展望を探る。
●コラム連載:遺稿・21世紀への歴史的教訓(4)
 アルフレッド・D・チャンドラーJr. 「製薬企業の発展と知識の商業化」
●連載:経営学のイノベーションム
 西口敏宏 「ネットワーク思考のすすめ(8):人生を楽しく生きる秘訣」
●マネジメント・フォーラム
 島田亨(株式会社楽天野球団代表取締役社長兼オーナー):
       
インタビュアー・米倉誠一郎
 「数字を踏まえたマネジメントと地元に密着したファンサービスで、強く魅力的な野球チームを目指します」
●用語解説
 廣瀬文乃 「ビジネス哲学」
●ポーター賞
 大薗恵美 「第7回 ポーター賞受賞企業に学ぶ」

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