2026年秋号<VOL.74 NO.2>特集:「選ばれる日本企業」に向けて:外国人材マネジメントの転換点
特集:深刻度を増す少子高齢化と労働力不足を背景に、日本企業にとって外国人材の活用は、もはや生存戦略となっている。本特集では、外国人材の採用がもたらす組織のダイナミズム、そして、圧倒的な競争力強化の可能性を、事例から深掘りする。言語や文化の障壁をいかにしてイノベーションの源泉へと転換させたのか。制度上の制約を乗り越え、多文化共生を実現するマネジメントの要諦とは何か。第一線で成果を出す企業の成功/失敗事例を軸に、現場の苦悩と克服のプロセスを克明に描き出す。グローバル化が加速する経営環境下で、日本企業が進むべき新たな道標と、外国人材と共に描く「日本経済の未来像」を提示する。
特集論文Ⅰ 拡大する外国人雇用:高度外国人材が拓く企業経営の新局面
宮島菫
(独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) 調査部 国際経済課)
外国人雇用は労働力不足の補完にとどまらず、海外市場の開拓や技術革新、組織変革を担う戦略的な人的資本の確保へと位置づけが変化している。とりわけ高度外国人材は、専門性や多言語能力を生かし、海外営業や市場開拓、イノベーション創出といった分野で価値創出の中核人材として活躍している。さらに、異なる価値観や発想を組織にもたらし、多様性の推進や業務プロセスの見直しを通じて企業変革を促す役割も担う。一方で、その力を十分に引き出すためには、コア業務への配置、国籍などに左右されない能力本位の評価制度、明確なキャリアパスの提示、長期的な育成を前提とした人材マネジメントが不可欠である。また、大学など教育機関との連携による人材供給基盤の構築も重要性を増している。高度外国人材の雇用と活躍促進は、企業の競争力強化と持続的な組織変革を同時に実現する重要な経営課題となりつつある。
特集論文Ⅱ 大企業の外国人雇用における理想と現実
園田薫
(慶應義塾大学商学部専任講師)
本稿では、日本の大企業における外国人雇用の実態と課題を、著者が行ってきた統計分析や、企業の人事部へのインタビュー調査の結果などから提示する。実際に日本の大企業では、外国人に対してダイバーシティ人材とコア人材であることの二重の期待の下に採用が行われる。その結果、日本で採用された外国人従業員は同化と差異化の間でジレンマを抱え、離職やキャリアの停滞につながる場合も多い。また企業側も、外国人雇用を進めながら、その意味づけや実践方針に揺れを抱えている。外国人雇用には万能な解決策が存在せず、各企業が自社の制度や経営戦略との整合性を踏まえながら、主体的に雇用のあり方を模索する必要がある。
特集論文Ⅲ 中小企業の外国人材活用:技能実習から育成就労への制度転換と「選ばれる企業」への課題
堀潔/中原寛子
(桜美林大学リベラルアーツ学群教授/明海大学経済学部専任講師)
少子高齢化と人手不足が進行するなかで、中小企業にとって外国人材活用は一時的な労働力の補填ではなく、中長期的な経営課題となっている。本稿は、中小企業における外国人社員雇用の理想と現実を整理し、外国人技能実習制度から育成就労制度への制度転換が経営に与える影響を検討する。分析の結果、外国人材の活躍と定着は、外国人向け特別施策の有無よりも、多様な人材が活躍できる包摂的な職場環境と密接に関係すること、また育成就労制度の下では、本人意向転籍の拡大により、地方圏・中小企業ほど育成投資と人材流出のジレンマに直面しやすいことが示された。制度転換は、中小企業に対し、「管理する企業」から「選ばれる企業」への転換を迫っている。
特集論文Ⅳ 日本における外国人経営者の実態
山田佳美/深沼光
(駿河台大学経済経営学部講師/大阪商業大学総合経営学部教授)
日本市場に魅力を感じて、日本国内で起業する外国人が増えている。彼ら独自の視点やネットワークを活かすことは、日本経済や地域社会の持続的な発展にとって重要である。従来の外国人経営者に関する調査や研究では、主に大企業や比較的規模の大きい組織に光を当ててきた。それに対して、数の上で大部分を占める中小企業を経営する人々の実態や、彼らが直面する特有の課題にまで踏み込んだ議論は非常に少ない。本論文では、このギャップを埋めるべく、アンケート調査や既存の実証研究をもとに、外国人経営者の姿を多角的に描き出す。さらに、彼ら自身の日本語能力や周囲のサポートが、企業の成長や資金調達にどのような影響をもたらすのかを確認する。その上で、福岡市での先駆的な支援事例も紹介しながら、今後の支援方法について検討する。
特集論文Ⅴ 「外国人と働く」ということ:日本人社員の意識、職場の実態・制度対応
ウ・ユジン
(一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科准教授)
外国人材の受け入れは、もはや一部企業だけの例外的な取り組みではない。人手不足が深刻化するなか、外国人材はすでに日本の職場を支える欠かせない存在になっている。しかし、外国人材活用の課題は、採用人数や在留資格制度だけでは捉えきれない。現場では、日本人社員の戸惑い、職場の暗黙知、支援体制の不足など、さまざまな摩擦が生じている。本稿は、日本における外国人材活用の拡大を背景に、日本人社員が外国人と働くことをどのように受け止めているのか(日本人の受け止め方)、外国人材が日本の職場の何に魅力と難しさを感じているのか(外国人材の多様性)、そして、その背後にどのような制度的・社会的要因があるのか(日本企業の働き方や制度)を整理しながら、外国人材活用を一時的な人手不足対策ではなく、協働と定着を見据えた恒久的な人材投資として捉え直す必要性を論じる。
特集論文Ⅵ 日本らしさはグローバル化の障害なのか:CQIデータから考える「選択的統合」
稲垣隆司
(株式会社エイムソウル代表取締役社長)
同質性の高い日本において、企業はいかに変革すべきなのか。外国人労働者が急増するなか、日本固有の強みである高い規律性や現場力を活かしつつ、多様な人材と協働することは、今後の持続的な成長に不可欠だ。これまでの外国人労働者受け入れの議論は、主に制度などのハード面や、同化か排除かといった極端な二項対立に偏りがちだった。その一方で、自社らしさを堅持しながら異なる価値観を組織にどう組み込むかという、境界線設計に踏み込んだ議論は非常に少ない。本稿では、このギャップを埋めるべく、単に相手にあわせるのでも日本流を強いるのでもない「選択的統合」という設計思想を提唱する。著者が率いる人材コンサルティング会社・エイムソウルが開発した異文化適応力検査「CQI」による5万人に及ぶデータなどから日本人の特徴を分析。暗黙知の形式知化により規律と多様性を両立させた実例をもとに、次世代の日本型組織のあり方を明らかにする。
[連載]ビジネス・ケースの美味しい読み方
[第6回]シーンからストーリーへ
積田淳史
(成城大学社会イノベーション学部准教授)
[連載]産業変革の起業家たち
[第28回] 高校時代の起業経験を糧に医療ヘルスケア業界を粘り強く変革する
瀧口浩平
(株式会社メドレー代表取締役社長)
インタビュアー:藤原雅俊/カン・ビョンウ
[ビジネス・ケース]
ニッスイ ――サステナビリティ経営の実践と開示
伊藤健顕/大沼雅也/渡邉光
(甲南大学マネジメント創造学部教授/横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授/SXカタパルト株式会社代表取締役)
海の恵みを事業の基盤とするニッスイにとって、水産資源の持続可能性は、事業の存続と成長を左右する経営課題である。同社はサステナビリティを中期経営計画に組み込み、マテリアリティ(重要課題)を軸とした部門横断の推進体制を段階的に構築してきた。水産資源の調査、フードロス削減、人権・ダイバーシティなど、課題に応じて取り組みの領域も広げている。従業員との対話や社内表彰、役員評価への反映を通じて理念を組織の隅々まで浸透させる一方、環境報告書からサステナビリティレポート、統合報告書、TNFD対応へと情報開示も進化させている。本ケースでは、外部の要請を受け止めつつ、実践から得た知見を次の経営判断と情報開示に生かす循環に着目し、サステナビリティを企業価値向上につなげる組織づくりを考える。
文京区こども宅食 ―― コレクティブ・インパクトの理想形
横山恵子/涌田幸宏
(関西大学商学部教授/名古屋大学大学院環境学研究科准教授)
本ケースでは、子どもの貧困という複雑な社会課題に対して、先駆的解決アプローチとして注目される「文京区こども宅食事業」の事例を取り上げる。経済的に困窮し社会から孤立しがちな家庭へ食品を届けるアウトリーチ型支援を、行政、NPO、企業がセクターを超えて協働する「コレクティブ・インパクト(CI)」によって日本で初めて実現した同事業が、CIの5つの成功条件をいかに満たし、事業を創造・発展させてきたかを見ていく。さらに、全国展開のために設立された一般社団法人こども宅食応援団の活動にも焦点を当て、地域の自律性を尊重した伴走支援によって47都道府県すべてに「こども宅食」を広げたスケーリング戦略の有効性を示す。文京区こども宅食事業の挑戦と発展の軌跡はCIの理想的な実践例であり、その事業創造・運営のマネジメント手法は、複雑な社会課題の解決をめざす多様なアクターに豊富な示唆を与えるものである。
[マネジメント・フォーラム]
世界に通用するグローバル・フード・カンパニーになる
粟田貴也
(株式会社トリドールホールディングス 代表取締役社長兼CEO)
インタビュアー:米倉誠一郎/カン・ビョンウ
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