【一橋ビジネスレビュー】 2022年度 Vol.70-No.4

2023年春号<VOL.70 NO.4>特集:韓国産業の今を知る
鉄鋼、自動車からゲーム、K-POPまで

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:ここ数年、韓国の話題が日本の新聞のヘッドラインを飾ることが増えた。なかでも韓国経済に関しては日頃から情報に触れる機会が多く、よくわかっているようで実は深く知らなかったり、時には誤認されていたりすることが多々ある。次号では、そんな韓国経済を知るために、主軸となる産業を各分野の専門家に紹介してもらう。具体的には、日本でもよく話題になる半導体産業、鉄鋼産業、自動車・造船産業から、近年特に注目を浴びるようになったIT・ゲーム産業、エンターテインメント産業、エネルギー産業までを対象とする。


特集論文Ⅰ 韓国半導体産業の発展と産業政策の役割

吉岡英美
(熊本大学大学院人文社会科学研究部教授)
主要国・地域では現在、自国の経済安全保障の礎として半導体の重要性を再認識するとともに、政府が大規模な産業政策を通じて国内の半導体製造基盤の強化に乗り出している。こうしたなかで、先端半導体の世界的な生産の担い手である韓国半導体産業に注目が集まっている。韓国企業は1980年代~90年代に日本企業の独壇場であったメモリ市場でキャッチアップを果たし、現在に至るまで揺るぎない優位を保っている。韓国企業はメモリ市場での優位をどのように維持したか。また、韓国企業の成長過程で韓国政府は何を行ったのか。本稿では、これらの問題を明らかにするとともに、現在の政策的課題について考察する。

特集論文Ⅱ 韓国鉄鋼業のキャッチアップと日韓競争の行方
安倍誠
(独立行政法人日本貿易振興機構 アジア経済研究所 新領域研究センター 上席主任調査研究員)
戦後、世界の鉄鋼業では日本の鉄鋼メーカーがイノベーションを主導していた。第1のイノベーションは臨海型銑鋼一貫製鉄所での大量生産システムの構築であり、第2のイノベーションは第1のイノベーションを土台にした高級鋼の開発・生産である。韓国の鉄鋼メーカーは日本の鉄鋼メーカーから学習しつつ、イノベーションが収束して技術が成熟化した機会を捉えて急速なキャッチアップに成功した。現在、自動車鋼板など高級鋼の分野でも日韓の鉄鋼メーカーは東南アジア市場などで激しい競争を展開している。カーボンニュートラルに向けた技術開発において日韓メーカーは異なったアプローチをとっており、その帰趨が注目される。

特集論文Ⅲ 現代自動車グループの事業システム構築プロセス
具承桓
(京都産業大学経営学部教授
アジア通貨危機から脱却し、世界トップグループの仲間入りを果たした現代(ヒョンデ)自動車。その地位を固め、未来に向けてイノベーターとして新しい挑戦を宣言している。どのようにして現代自動車は、今のポジションになったのか。企業の組織能力や競争力形成は短期間で向上されるものではなく、一部の機能部門が卓越しているだけで可能なものでもない。本論文では、現代自動車および現代自動車グループを、製品競争力の断片的な側面から見るのではなく、その成長要因が垂直統合、生産、購買・調達、R&D、市場開拓、マーケティングなど、機能部門間の有機的な事業システムの構築プロセスにあることを明らかにする。

特集論文Ⅳ 韓国エネルギー産業の戦略的転換
                     「伝統的エネルギー」から「新・再生可能エネルギー 」へ

当間正明
(独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)ソウル事務所副所長/経済産業省大臣官房参事
韓国は、化石燃料の海外依存度が高く、世界的な需給の変動により安定供給や価格への影響を受けやすい構造である。韓国のエネルギー政策は、安定供給や経済効率性を基本としながら、国際社会の一員としての温室効果ガス削減、将来的なカーボンニュートラルの達成、いわゆる環境適合性のためのクリーンエネルギーの導入も進め、さらに、クリーンエネルギーを新たな輸出産業に成長させるための取り組みも行われている。本稿では、化石燃料を中心とした「伝統的エネルギー」産業から、太陽光、風力、水素など「新・再生可能エネルギー」へのエネルギー産業の変遷や水素産業の現状を概説する。

特集論文Ⅴ イノベーターとして生まれる:世界に衝撃を与えた韓国ゲーム産業
魏晶玄
(韓国・中央大学校ダヴィンチ・バーチャル大学長兼経営学部教授
韓国のゲームは1990年代半ばにいきなり現れて、世界のゲーム産業に大きな衝撃を与えた。韓国のゲームは他の産業とは違ってイノベーターとしてスタートした。造船、鉄鋼、自動車などの製造業は、資本と技術を海外から持ち込んでフォロワーとしてスタートし、イノベーターに成長したが、ゲームは産業初期からイノベーターとして登場した。本稿では、ゲーム産業で無名だった韓国がグローバル強国に成長した理由として、コンソールゲーム市場の不在と違法コピーという産業発展を促進した初期条件と補完的なインフラであるネットカフェとADSL、携帯電話の少額決済を取り上げて分析した。

特集論文Ⅵ K-POPの成功要因:ポスト植民地企業のグローカル戦略
呉寅圭
(関西外国語大学国際共生学部教授
韓国では、1990年代にハリウッド映画や日本のポップカルチャーが流入した。その後、KーPOPや韓国ドラマは発展を遂げ、韓国国内に限らず、アジア、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、北米にも商域を広げてきた。このように、韓流にローカライズした後でグローバル化するプロセスは「グローカリゼーション戦略」と呼ばれることが多い。グローカリゼーションとは、本家本元の市場に逆輸出するために既存の製品やサービスを改善することを表す。したがって、グローカリゼーションはグローバリゼーションに対抗する積極的なビジネス戦略である。KーPOPのグローカリゼーション戦略の成功は、文化産業がグローバル供給業者、ローカル制作会社、グローバル配給業者に依存していることを示している。

[特別寄稿]
「二項動態経営」実践論 
野中郁次郎/野間幹晴/川田弓子
(一橋大学名誉教授/一橋大学大学院経営管理研究科教授/一橋ビジネススクール研究員)

本稿では、われわれが近年「二項動態経営」として練り上げてきた理論をその基盤となっている哲学、特に現象学の観点から深めるとともに、会計学の観点からも考察する。ダイナミックな創造理論としての「二項動態経営」実践論は、量的アプローチに偏重しがちな現代日本の経営学や巷にあふれる方法論に問題提起し、挑戦するものである。あわせて、二項動態経を実践する企業事例を取り上げ、実効性ある提言をしたい。

[私のこの一冊]
■科学研究による社会問題の解決
――加藤諦三『自分の構造─逃げの心理と言いわけの論理』
鈴木智之
(名古屋大学大学院経済学研究科准教授

[連載]産業変革の起業家たち
  [第14回] 成功へのショートカットは素直な学びから
飯田悠司
(株式会社リーディングマーク 代表取締役社長)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊
仕事にやりがいを感じる人を増やして、自己実現を支援したい。そんな学生時代の志はそのままに、就活イベント、動画選考サービス、適性検査クラウド、社員のメンタル状態を可視化して休職・離職を防ぐウェルビーイングサービスなど、ピボットを繰り返してきたリーディングマークの飯田悠司氏。自身の歩みを振り返りながら、失敗を経験に変える積み重ねと、信頼できる人物のアドバイスを素直に受け止める姿勢が、より早く、より確かな成功を手にするカギだと説く。

[連載]エフェクチュエーションによる新市場創造
[第4回]「対象に価値を見いだす人々」の創出による市場機会の創造
吉田満梨
(神戸大学大学院経営学研究科准教授)

[連載]イノベーションマネジメントの定石
[第9回]産学連携のマネジメント
吉岡(小林)徹
(一橋大学イノベーション研究センター専任講師)

[ビジネス・ケース]
セイコーエプソン――革新的腕時計「スプリングドライブ」はいかに
           開発・事業化されたか
軽部大/橘樹/宮澤優輝/アヴィマニュ・ダッタ
(一橋大学イノベーション研究センター教授/一橋大学大学院経営管理研究科博士課程/一橋大学商学部学士課程/イリノイ州立大学教授・一橋大学イノベーション研究センター客員教授
年に世界初のクオーツ式腕時計開発に先行したセイコーエプソンは、その後のクオーツ全盛期においても、継続的に新しい腕時計の開発に取り組んでいた。そのなかで誕生したのが、機械式腕時計と同じように「ぜんまい」を動力としながらクオーツ式腕時計と同程度の高精度を実現する、時計業界の既成概念を覆す革新的機構「スプリングドライブ」である。多くの革新事例が多様な困難に直面し、紆余曲折を経て実現されるのと同様に、本事例もまた1人の夢見る技術者の構想から2度の開発中止を経て、約20年の歳月をかけて実現された。本ケースでは、世界の腕時計愛好家の心を捉えてやまない「夢の機械式水晶腕時計」が、いかに構想・開発・事業化されてきたかについて議論する。

味の素ファンデーション――ソーシャルビジネスで挑む子どもの栄養改善
内田大輔/孫康勇/上杉高志/高橋裕典
(九州大学大学院経済学研究院准教授/一橋大学大学院経営管理研究科准教授/公益財団法人味の素ファンデーション 事務局長/公益財団法人味の素ファンデーション ガーナ駐在・KOKO Plus Foundation Country Director
世界の子どもの少なくとも3人に1人は、十分に発育ができていない。これは、健康に育つために必要な栄養を摂ることができていないからである。特に、胎内にいるときから2歳の誕生日までの最初の重要な1000日に、十分な栄養を摂取できずに発育が妨げられてしまった子どもは、大人になってもその後遺症に苦しむことが多い。こうした子どもの栄養課題にガーナで取り組むのが、味の素ファンデーションである。栄養サプリメント「KOKO Plus」の生産・販売を通じて、離乳期の子どもの栄養改善をソーシャルビジネスで実現することをめざしている。本ケースでは、その過程を追うことで、味の素ファンデーションが直面している課題やその克服策を考える。

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー:米倉誠一郎/カン・ビョンウ
日韓を掛け算してシナジーを発揮し、グローバルをめざす
玉塚元一
(株式会社ロッテホールディングス 代表取締役社長)

[ポーター賞]
第22回 ポーター賞受賞企業に学ぶ
大薗恵美
(一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻教授)

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