【一橋ビジネスレビュー】 2020年度 Vol.68-No.3

2020年冬号<VOL.68 NO.3>特集:新しい会社の形とガバナンス
――環境・社会の持続可能性と新たな協働のあり方へ

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:経済格差の拡大、ポピュリズムの台頭など資本主義の矛盾があらわになる一方、ESG投資の拡大、アメリカのビジネス・ラウンドテーブルによる「株主第一主義」の見直し、「使命を果たす会社」に関するフランスの法改正など、株式会社のあり方を問い直す動きが出てきている。また、20世紀初頭に確立した株式会社は、ヒエラルキーと大きな資産が特徴だが、近年、フラットな組織、フリーランスなど外部資源の積極的活用、ユニークな評価・報酬制度など、会社の新しい形態を模索する動きも見られる。21世紀の新しい会社のかたちとそのガバナンスはどうあるべきか、本特集に置いてさまざまな角度から考察する。


特集論文Ⅰ 会社の新しい形を求めて
――なぜミルトン・フリードマンは会社についてすべて間違えたのか

岩井克人
(国際基督教大学特別招聘教授)
「ビジネスの社会的責任は利潤を増大させることである」─これは、ミルトン・フリードマンが1970年に発した宣言である。この宣言は、以下の3つの命題に基づいている。①会社はすべて株主のモノでしかないと主張する株主主権論、②会社の経営者は株主の代理人であると主張する経営者代理人論、③会社の唯一の目的は利潤の最大化であると主張する利潤最大化論。本稿では、この3つの命題がいずれも法人企業としての会社と個人事業のような非法人企業とを混同した理論的誤謬であることを示し、さらに会社の社会的目的の追求を否定するフリードマンの立場は、これからの会社の新しい形を考えていく上での最大の障害であることを明らかにする。

特集論文Ⅱ 多元主義に向けた新しいガバナンスモデル
――繁栄 、金融と所有構造

コリン・メイヤー
(オックスフォード大学サイード・ビジネススクール教授)
企業は株主が所有するものであり、取締役の義務は株主の利益のために会社の価値を最大化することであるという「株主第一主義」は、過去のものとなりつつある。いまや投資家の関心は、金銭的な利益にのみあるわけではない。企業は、従業員はもちろん、顧客、取引先、地域社会、環境などにも配慮する必要がある。その潮流のなかで、日本企業はどのようなガバナンスモデルをとればよいのだろうか。コーポレートガバナンス研究の第一人者であり、イギリス学士院の「企業の未来」研究プロジェクトのリーダーを務める著者は、本稿において、株主第一主義に代わる新しいガバナンスモデルを提案する。経営者や機関投資家の「受託者管理(trusteeship)」機能と、その前提となる会社の目的の重要性を指摘し、さまざまな種類の目的の会社が共存する多元主義が望ましいとする。

特集論文Ⅲ 直近のESG投資動向から見る「求められる会社」
――機関投資家としての考察

銭谷美幸
 (第一生命保険株式会社 運用企画部フェロー
本稿では、近年、関心が高まり、投資残額も急増しているESG投資の最新動向、SDGsやサステナブル経営を考える上で何が求められるのか、実際に企業経営者との対話を通じて得られた機関投資家の基本的な見方を紹介する。また、新型コロナの蔓延後、企業経営を考える上で、新たにどのような変化が起こり、どのような対応が求められているのか、世界の大きな変化において見逃してはならない点として、長期機関投資家がどのように捉えているのか考察する。最後に、新たに求められるマルチステークホルダー資本主義、パーパスドリブン経営なども踏まえ、未来の日本を構築する日本企業の経営者への期待を述べる。

特集論文Ⅳ 経済社会構造の変化とコーポレートガバナンスの新潮流
――企業価値向上とサステイナビリティーとの調和

上田亮子
(SBI大学院大学准教授
新型コロナウイルス感染症の影響により、接触型から非接触型(コンタクトレス)経済社会活動へと経済社会の構造の骨組みが大きく変化している。新しい経済社会構造においては、企業価値向上とサステイナビリティーとの調和について、実効的な取り組みが求められている。企業活動においては、株主利益の追求とともに、ステークホルダーへの配慮も期待され、そのための企業文化の定着も課題となる。このように、企業においてサステイナビリティーへの取り組みやコーポレートガバナンスの改善が行われるなか、投資活動におけるサステイナビリティーの考慮も重要となる。本論文では、このような観点から、コーポレートガバナンスの新潮流について考察を加える。

特集論文Ⅴ 新しい協働のあり方を考える
軽部 大/江川雅子
(一橋大学イノベーション研究センター教授/一橋大学大学院経営管理研究科特任教授
新型コロナウイルス感染症の流行は、われわれが当たり前と疑わなかったこれまでの慣行に変更を迫る契機となった。その必要性が叫ばれつつも遅々として進まなかったテレワークは劇的に普及した。われわれは今、何のためにビジネスを行うのかを改めて振り返る必要に迫られている。個人の生活様式のみならず、雇用者と非雇用者ひいては個人と個人の「ニューノーマル」な協働のあり方を展望し、構想していくことが求められている。本論文では組織化の原理に立ち返り、階層組織の特徴と限界を振り返る。その上で、経営の常識に挑戦するいくつかの事例を紹介し、新たな協働のあり方を検討する。協働のあり方には唯一無二の理想形があるわけではなく、多様な組織化の原理を持った組織が互いに競争・学習し、時には対立や摩擦を克服するなかで磨かれ、進化していくものである、という結論を導く。

特集論文Ⅵ ステークホルダー資本主義と日本企業
――
共有価値の創造(CSV)ガバナンスの戦略的な実践
チャールズ・D・レイクⅡ
(アフラック生命保険株式会社 代表取締役会長
地政学的な覇権争いやパンデミックなど、世界規模で社会経済システムに抜本的な変化が起き、「ステークホルダー資本主義」が主流となりつつある。そうしたなか、本稿では、まず日本企業を取り巻く重大な外部環境要因を、①反グローバリズムと米中覇権争い、②デジタル社会の到来、③パンデミック、およびグローバル経済のアーキテクチャーという視点で整理する。そして、社会のニーズや課題を解決することで社会的価値を創造し、それが経済的価値を生み出すとするCSV(共有価値の創造)経営の実践を可能とするガバナンスが、ニューノーマルな時代の要請に応える上で効果的であることを説く。CSVガバナンスを戦略的に展開する上で、①実効性が高いコーポレートガバナンス態勢の確立、②デジタル社会における業務執行の機動性(アジリティー)の確保、③パフォーマンス志向の人財マネジメント制度の確立の3点が重要であると考える。アフラックでの事例も交えて、そのフレームワークを提示する。

 

[連載]企業と社会を架橋するビジネスの新たなカタチ
[第2回]企業の社会的責任とは何か
軽部 大
(一橋大学イノベーション研究センター教授)

[連載]産業変革の起業家たち
[第5回]ナスダック上場を果たした日本人起業家が勧める「あとちょっとだけやり続ける」ことの意味
小里文宏
(テックポイント・インク 社長兼CEO)
インタビュアー:藤原雅俊

[ビジネス・ケース]
KDDI ――au design projectがめざしたデザインケータイによるブランド刷新
積田淳史/久保田達也/矢崎智基/沖 賢太郎
(武蔵野大学経営学部准教授/成城大学社会イノベーション学部准教授/株式会社KDDI総合研究所/株式会社KDDI総合研究所
現在、日本のモバイル通信事業者としてNTTドコモに次ぐ2番手にあるKDDI。2000年にDDI、KDD、IDOの3社が合併して株式会社ディーディーアイ(のちにKDDI株式会社)としてスタートしたが、2000年代序盤のモバイル通信事業は決して順風満帆とはいえなかった。閉塞感のあった同社のauブランドで展開するモバイル通信事業は、2003年、独創的な意匠を備え、携帯電話端末としては類を見ない規模のプロモーションを行ったデザインケータイ「INFOBAR」によって、浮上のきっかけをつかむことになった。本ケースでは、「INFOBAR」をはじめとした数々のデザインケータイを発売し、それによってコーポレートブランド向上に貢献したau design projectに注目し、その20年あまりの軌跡と影響を追う。

クラレ ――日本発のエンプラ「ジェネスタ」とそのイノベーションのプロセス
六田充輝/青島矢一
(一橋大学イノベーションマネジメント政策プログラム(修了生)/一橋大学イノベーション研究センター長・教授
クラレが1994年に開発した「ジェネスタ(ナイロン9T)」は、低吸水性、高耐熱性、寸法精度などに優れた特徴を持ち、電気・電子部品や自動車部品に幅広く使用されているエンジニアリングプラスチック(エンプラ)である。その開発プロセスでは、原料合成のための触媒完成から商品の市場化まで18年、事業として収益の柱となるまでには30年にも及ぶ長い年月を要した。この間、事業環境や組織体制の変化によって、開発者たちは幾度も苦境に立たされたが、当初描いた開発コンセプトに沿って技術を連続的に蓄積することによって、直面した困難を克服し、事業化を成し遂げることに成功した。本ケースでは、こうしたジェネスタの開発プロセスをたどることで、イノベーションを実現する長期的なプロセスを描き出す。

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー:江川雅子/軽部 大
人を軸とした事業ドメインで新しいソニーをつくる
吉田憲一郎
(ソニー株式会社 取締役 代表執行役 会長兼社長CEO)

[投稿論文]
技術経営リーダーへの軌跡――経験蓄積と学習のプロセス
工藤秀雄/延岡健太郎
(西南学院大学商学部准教授/大阪大学大学院経済学研究科教授)


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