【一橋ビジネスレビュー】 2020年度 Vol.68-No.2

2020年秋号<VOL.68 NO.2>特集:デジタル・トランスフォーメーションと日本企業の命運
――周回遅れの本質

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:日本の社会経済がその生産性・効率性において大きく後れを取っている。2019年の労働生産性の国際比較ランキングで、日本は先進36カ国中21位である。G7諸国(米・独・英・仏・伊・加)で最下位、さらにはスペインやオーストラリア、北欧の国々よりも低い結果となっている。日本人がまじめに働いていないのだろうか。いや、おそらく最も勤勉に働いている国の1つだろうが、デジタル化において決定的な後れを取っているのである。今回のコロナ禍は、ビジネスはもちろん教育・行政にもさらなる生産性向上とデジタル化を強制するだろう。今、この時期に、デジタルによる社会変革(トランスフォーメーション)を真摯に考えてみたい。


特集論文Ⅰ DXの過去、現在、未来
立本博文/生稲史彦
(筑波大学ビジネスサイエンス系教授/中央大学大学院戦略経営研究科教授)
DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、いかに始まって現在に至り、将来どのような展開を見せるのだろうか。本論文では、過去から現在までのDXの進行を概観し、将来を展望する。DXの「デジタル」という言葉を聞いて、自社とは縁遠い何かと思ってはいないだろうか。しかし現実には、DXはすでに社会に広く浸透しており、広範な影響を及ぼしつつある。とはいえ、DXやデジタル化に対して身構え、抵抗する必要はない。デジタル技術を道具として使いこなし、自社が今保有する強みをより強いものにしていくことは十分可能である。ただし、そのためには現場のデジタル化という狭い範囲で考えることなく、戦略的な構想が求められる。

特集論文Ⅱ ヒトではなく、電子を走らせろ。電子は疲れない
村田聡一郎
(SAPジャパン株式会社 インダストリーバリューエンジニアリング事業統括本部 IoT/IR4ディレクター)
かつて日本企業の最大の強みであった「現場力」「ヒトの力」だが、それだけでは戦えなくなってから、実にもう20年が経っている。その間、海外企業は「ヒトとデジタルの分業」を進めることによって生産性を伸ばし続けている。しかし、そもそもデジタルの特徴とは何なのか。フィジカルとは何が違うのか。本稿では、外資系IT企業に勤務し国内外のデジタル・トランスフォーメーション(DX)事例を多く見てきた著者が、国内2社の実践事例も交え、日本企業と日本社会がただちに取り組むべきDXの基本を提示する。従来の強みを活かしつつ、デジタルを筋よく取り入れて、「ヒト×デジタル」の合わせ技で競争力を強化する取り組みが求められている。

特集論文Ⅲ DX戦略に不可欠な3つの問い
ユー・ヨンジン
 (ケース・ウェスタン・リザーブ大学ウェザーヘッド・スクール・オブ・マネジメント教授
新型コロナウイルス感染症は、組織が抱えてきた慢性的な問題を生死にかかわる状況にまで悪化させるだけでなく、実行されるべき戦略的変革に向けた時間軸を一気に短縮化した。デジタル・トランスフォーメーション(DX)は長期的な戦略問題ではなく、明白で差し迫った課題へと変貌した。しかし、DXが自社にとって何を意味し、どのようにすれば導入できるかを必死に理解したり、従来のビジネスモデルを強化する技術的試みの1つと捉えるような組織が依然として多い。それでは真の改革は成し遂げられない。効果的なDX施策を打つためには、何が必要なのか。本稿では、デジタルイノベーションと経営組織の研究で国際的に活躍する著者が、「なぜ」「何を」「どのように」という3つの戦略的な本質を問うことで、企業のDNAを再構築する必要性を説く。

特集論文Ⅳ DXの目的は「新たなUXの提供」である
――中国平安保険グループに見るサービサー・メーカー融合型のDX

藤井保文
(株式会社ビービット 東アジア営業責任者/エクスペリエンスデザイナー
デジタルテクノロジーによって、あらゆる日常の活動がオンラインデータ化される。リアルにもオンラインが浸透して包み込まれ、リアルとデジタルの境界が曖昧になる。こうした社会変化を著者は「アフターデジタル」と呼ぶ。従来の属性データによる商品販売型から、行動データによる体験提供型へとビジネスのロジックが大きく移行する。ここでの競争原理はUX(ユーザーエクスペリエンス)となるため、メーカーはサービス化をはじめとする変化の対応に追われる。本稿は、その先進地域である上海に拠点を置いて活躍する著者が、金融ビジネスを幅広く展開する中国平安保険グループを例に、サービサー・メーカー融合型のビジネスモデルを紹介し、テクノロジーとUXによる日本企業のDXの途を提案するものである。

特集論文Ⅴ 労働市場におけるDX
――時間と場所にとらわれない、契約ベースのオンラインワークの台頭

ヴィリ・レードンヴィルタ
(オックスフォード大学インターネット研究所准教授
本論文では、労働市場におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)を紹介する。オックスフォード大学インターネット研究所に所属する著者は、長年にわたってオンライン労働市場の定量分析を行い、欧州圏内での関連政策立案に携わってきた経験を持つ。オンライン労働市場は労働市場全体に比べると、まだ規模は小さいが、世界ではオンライン労働市場が先行して拡大している。今回のパンデミックでは、いっそうその動きが加速化するだろう。本論文では、オンラインワークの基本的な考え方から、日本を含む各国のオンライン労働市場の先行事例と現状について、5年間に及ぶ調査による各種データを駆使して分析し、マネジメントと政策に関する提言を導き出す。

特集論文Ⅵ 教育産業でのDX
カン・ビョンウ
(一橋大学イノベーション研究センター准教授
2020年3月の国連教育科学文化機関における教育担当閣僚級会合で、参加11カ国中、日本以外のすべての国が新型コロナウイルスによる外出制限・休校期間中にオンラインで指導をしていたことが判明した。日本の決定的な遅れという現実を前に、ようやく日本でも教育分野でのDXの議論に勢いがついたといえる。本論文ではまず、現在進んでいる教育制度・現場でのDXの事例をいくつか紹介する。教育コンテンツはオンライン形式によりオープンに提供され、教育方法はエドテックの開発に伴って、より個別化され効率化されるようになる。それらの流れは、教室で行われた教育をオンライン化するだけにとどまらず、これまで曖昧だった教育効果全体の向上をめざす方向に進んでいる。そのうえで、こうした改革の効果と限界点について論じながら、今後の教育制度・現場の意義やあり方について考える。

[特別寄稿]不況を勝ち抜くためのイノベーションマネジメント
――経営学から見る不況下の研究開発と、イノベーション活動の定跡

吉岡(小林) 徹/袁 賓師
(一橋大学イノベーション研究センター講師/
 一橋大学大学院経営管理研究科博士課程

不況は危機か好機か。不況によって今ある製品・サービスの需要が大きく落ち込み、多くの企業が危機に陥ることは事実であるが、それと同時に新しい製品・サービスの機会が生まれていることも少なくない。不況下にどのような企業が生き延びる傾向があるのか、不況時に研究開発活動やイノベーション活動に投資することは有効なのか、それぞれについて、経営学では少数ながらデータに基づく研究がなされている。これらの成果から、不況時のイノベーション活動についての手がかりが得られるのではないだろうか。実際、著者らの行った既存研究のレビューでは興味深い示唆が得られた。不況は特定の条件を満たす企業には好機なのである。本論文では、その詳細を紹介する。

[連載]企業と社会を架橋するビジネスの新たなカタチ
[第1回]企業はいかに社会的課題に取り組むべきか
軽部 大
(一橋大学イノベーション研究センター教授)

[連載]産業変革の起業家たち
[第4回]デジタルネイティブな経営者が切望する「誰にでも最先端のテクノロジーを」
小椋一宏
(HENNGE株式会社 代表取締役社長 兼 CTO)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊

[ビジネス・ケース]
サイバーエージェント ――新事業を生み出す「競争と協調」の企業文化
遠藤貴宏/小阪玄次郎
(一橋大学大学院経営管理研究科准教授/上智大学経済学部准教授
インターネット広告事業の代理店として1998年に設立されたサイバーエージェントは、設立20年を経て、社員5000人を擁する大企業に成長した。現在は広告事業に加え、携帯電話やパソコン向けのゲームやアプリの制作・販売、インターネットテレビ局など、次々と新事業を創出し、幅広いビジネスを展開している。これらを支えたのが、「新事業の創出」と「帰属意識」をともに追求した企業文化である。同社では、社員間の公式・非公式の交流やイベントなどを通じて濃密な人間関係を築く一方で、変わりゆく事業環境のなかでのビジネスプランの提案や、子会社を通じた人材抜擢を通じての社内競争を促進するなど、次々にユニークな施策が繰り出されていく。本ケースは、創業から現在までの20年に及ぶ、広告業界や同社の歩みをたどりながら、同社の特徴的な企業文化の巧みなマネジメントを描き出す。

アトラエ ――ホラクラシー経営におけるインターナルブランディングの役割
鈴木智子
(一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻准教授
ティール組織やホラクラシー経営などといった、個人の裁量や自由を重視し、上下関係のない、自律型組織(セルフオーガニゼーション)に注目が集まっている。上司や部下も、命令も階層もない。1人1人が自分で考え、自分で動く。そのような自律型の経営で、本当に組織がまとまるのだろうか。本ケースでは、ホラクラシー経営を行っているアトラエの事例を通じて、ホラクラシー経営が機能する上でインターナルブランディングが果たす役割について考察する。

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー:米倉誠一郎
デジタルラッピングで新しい価値を創出する
香山 誠
(アリババ株式会社 代表取締役社長CEO)

[エッセイ]コロナ禍で徒然に考えたこと
野中郁次郎
(一橋大学名誉教授)


ご購入はこちらから

東洋経済新報社
URL:http://www.toyokeizai.net/shop/magazine/hitotsubashi/
〒103-8345 中央区日本橋本石町1-2-1 TEL.03-3246-5467

47巻までの「ビジネスレビュー」についての問い合わせ・ご注文は
千倉書房 〒104-0031 中央区京橋2-4-12
TEL 03-3273-3931 FAX 03-3273-7668