【一橋ビジネスレビュー】 2020年度 Vol.68-No.1

2020年夏号<VOL.68 NO.1>特集:コーポレート・ベンチャリング
――既存企業とスタートアップスの新結合

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:日本企業の内部留保が500兆円を超える規模になり、企業には多くの優秀な人材も存在している。これらの経営資源を活用して、いかに新しいビジネスを創出できるかが、今後の日本経済の成長のカギとなる。本特集では、企業に蓄積された資源をいかにイノベーションや新規事業につなげることができるのかをテーマに、ICV(社内ベンチャー)、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)、カーブアウトなど、さまざまな手段を通じた事業創造を成功させるための要諦を、海外の著名研究者からの寄稿も交えて、多角的に議論する。


特集論文Ⅰ 日本が直面するイノベーションとアントレプレナーシップの課題
マイケル・A・クスマノ
(マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院教授)
新しいイノベーションやアントレプレナーシップにおいて日本が後れを取ってしまったのはなぜだろうか。人口減少に直面するなかで日本が今後も発展するためには、この問いを解かなければならない。本論文は、アントレプレナーシップに関する調査やベンチャーキャピタルのデータを参照し、歴史的な事実も紐解きつつ、30年にわたる日本の低迷の原因を企業家活動の低迷に見る。そこでは、人口動態から、大企業中心の雇用慣行が生む社会的期待、企業を支援する制度発展の遅れ、教育システムの問題に至るまで、企業家活動の妨げてきた要因を多面的に分析する。最後に、既存企業とスタートアップ企業のパートナーシップが日本の企業家活動を活性化させるカギとなる可能性を指摘する。

特集論文Ⅱ 既存企業からの資源循環による新事業創出
青島矢一/一之瀬裕城/田浦英明
 (一橋大学イノベーション研究センター長・教授/
 EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 ディレクター/
 EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 シニアコンサルタント
)

従来の日本企業の強みは、特定の製品カテゴリーを前提に、企業内で余剰資源を革新活動に振り向け、高度な擦り合わせを武器に次々と効率的に新製品を生み出していくことにあった。しかし、こうした日本型のイノベーションシステムは有効性を失い、先端領域における日本企業のプレゼンスは大きく低下している。デジタル時代に入った今日、モノの境界が取り払われ、企業内では不確実性の高い活動への資源配分が難しくなる状況下では、大手企業内部に蓄積された余剰資源をいかに組織外部の革新活動と結合するのかが重要となる。その方策の1つであるCVC活動に注目しつつ、著者らは、大規模データベースをもとに、日本、米国、中国における20年間のスタートアップ投資の推移と最近の傾向を比較した。本論文は、日本のイノベーションの既存研究をたどりながら、データ分析の初期の成果を活用し、日本型のイノベーション創出のメカニズムを探るものである。

特集論文Ⅲ コーポレート・ベンチャリングと脱成熟――日米企業のライフサイクルと利益率
野間幹晴
 ( 一橋大学大学院経営管理研究科教授)
日本と米国でアントレプレナーシップに違いが出るのはなぜだろうか。成熟段階にある日本企業がイノベーションを起こすためには、何が必要なのか。本論文では、ライフサイクルと利益率に関する日米比較を行い、日本企業の課題を明らかにする。約20年間の日米の上場企業のキャッシュフロー情報に基づいて、それぞれのライフサイクルのステージ(参入・成長・成熟・再編・衰退)を特定する。その結果、米国では参入・成長ステージの企業が多いのに対して、日本には成熟ステージの企業が多く、また成熟ステージに移行する傾向が強いことが明らかになった。企業成長を支える市場の制度的要因も比較しながら、日本企業が脱成熟化し、成長志向を強める手段として、コーポレート・ベンチャリングが不可欠であり、本腰を入れて取り組むべき論理を解き明かす。

特集論文Ⅳ CVCはベンチャー企業を成功に導くか
ジェフリー・ベーレンス/クリストファー・L・トゥッチ
(ラボシェアーズCEO・共同設立者/
 インペリアル・カレッジ・ビジネススクール教授

コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)は、大企業が研究開発を社外で行う際の主要なツールとなっている。一般にCVC投資は、専業のベンチャーキャピタル(IVC)による投資と交ざるため、CVCが投資先企業に対して与える影響部分を切り出して検証することは決して容易ではない。しかし本論文では、ベンチャー企業に関する世界最大級のデータベース「クランチベース」を活用することによって、CVCが投資先企業の成功確率にどのような影響を与えるのか、CVCの親会社は投資先企業へのM&Aを通じてイノベーションを取り込んでいるのか、という2点を検証した。その結果、①CVC投資を受けたベンチャー企業では、バイオテクノロジー企業を除き、ごくわずかしか成果が向上していないこと、②CVCからの資金調達タイミングはベンチャー企業の成果やM&A比率に影響を与えていないこと、そして、③成功したベンチャー企業のM&A比率に影響は生じておらず、CVCの親会社がイノベーションを取り込んでいるのか疑わしいことが明らかになった。

特集論文Ⅴ 旭化成のコーポレート・ベンチャーキャピタル
――ベンチャー投資による新規事業の創出

青島矢一/村上隆介
(一橋大学イノベーション研究センター長・教授/
 一橋大学大学院経営管理研究科イノベーションマネジメント・政策プログラム

日本の総合化学メーカー旭化成が、2008年に戦略目的で設立した旭化成コーポレート・ベンチャーキャピタル(旭化成CVC)は、これまで2件の買収に成功し、社内的な支援を受けて着実に予算規模も増やしている。その成功要因は、キーパーソンの存在、漸進的な社内認知の向上、初期の成功事例の重要性、現地採用人材による投資実績の蓄積、CVCの独立性と全社的シナジーの同時追求、事業多角化を尊重する企業文化という6つの視点からまとめることができる。CVCで特に課題となるのは、活動の独立性を担保し、ベンチャーコミュニティーの内部者になることと、親会社との戦略的なシナジーを追求することとが、相互に矛盾しがちであるという点である。本論文では、当事者への取材を通し、旭化成CVCがこの矛盾を巧みに解きつつ発展してきたことを描き、CVC活動を活発化している日本企業にとっての示唆を考える。

[特別寄稿]数学イノベーション――モデル駆動型イノベーションの特徴と事例研究から見る日本企業の可能性
グレーヴァ香子/三橋 平
(慶應義塾大学経済学部教授/早稲田大学商学学術院教授
企業は常にイノベーションに取り組まなければならない。近年重視されてきた顧客のフィーリングを動かすデザイン性、製品や製造工程に埋もれている問題点の発見などには見えないものを把握することが必要となる。本論文では「暗黙の性質や問題点」を理解するツールとしての数学の役割を紹介する。事例としては、ダンスの動きが生み出すフィーリングを指標化する企業プロジェクトの事例を掘り下げ、大量のデータから推定するというデータ駆動型ではない、モデル駆動型イノベーションの方法と可能性を考える。日本企業はデータの蓄積やデータサイエンティストの育成で遅れているといわれている。しかし、世界的に見ても優秀な数学者と、現場主義の日本企業が蓄積してきた暗黙知の組み合わせは、新たな優位性をもたらす可能性がある。

[連載]産業変革の起業家たち
[第3回]安全な大型リチウムイオン電池の開発と普及で環境問題・エネルギー問題の解決に挑む
吉田博一
(エリーパワー株式会社 代表取締役会長 兼 CEO)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊

[連載]全員経営のブランドマネジメント
[第6回]全員経営のブランドマネジメントの原理原則
鈴木智子
(一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻准教授)
 
[連載]日本発の国際標準化 戦いの現場から
[第10回]高周波関連部材――「測る」力による国内産業の支援
江藤 学/鷲田祐一
(一橋大学イノベーション研究センター教授/
 一橋大学大学院経営管理研究科教授)
 
 
[ビジネス・ケース]
永和システムマネジメント――アジャイル開発と開発者コミュニティ
坪山雄樹/藤原雅俊/若色譲二/遠藤貴宏
(一橋大学大学院経営管理研究科准教授/
 一橋大学大学院経営管理研究科准教授/
 株式会社アドテックス/
 一橋大学大学院経営管理研究科准教授

ソフトウェア開発の手法として世界的に主流となっているアジャイル開発は、IT業界の産業構造と契約慣行の壁に阻まれて、日本ではなかなか普及してこなかった。そうしたなかにあって、福井県に本社を置く中堅の受託開発企業である永和システムマネジメントは、早くからアジャイル開発に取り組み、同社のアジャイル事業部はアジャイル開発に適した契約形態で開発案件を受注している。同社はどのようにして壁を乗り越えてきたのだろうか。本ケースは、同社の開発者たちが社外の開発者コミュニティで展開してきた活動と、その活動を通じた彼らの成長、そしてその成長を引き出した「仕掛け」に焦点をあわせて、同社のアジャイル開発への取り組みをたどっていく。

中村ブレイス――声なき声を拾い、形にする
軽部 大
(一橋大学イノベーション研究センター教授
人口400人にも満たない田舎町に、世界から感謝の手紙が届く義肢装具会社が存在する。中村ブレイスである。創業者である中村俊郎は1974年に創業し、従来の義肢装具製作の世界に新素材や新技術を取り入れ、新たな義肢装具や補正具を独自に開発し、国内有数の義肢装具会社に成長させた。同社に通底するのは、義肢装具や補正具を必要とする顧客の人生の大切な部分にかかわり、高い技術力を通じて日々の生活を支えるという考え方である。大きな夢を掲げつつも、義肢装具や補正具の製作を通じて愚直に顧客が抱える課題の解決に取り組む同社の姿勢は、短期的な合理性を追求する経営に異を唱える経営でもある。なぜ過疎の町で創業し、業界でも後発メーカーであった同社が、日本有数の義肢装具会社として成長できたのか。その理由を本ケースでは考える。

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー:米倉誠一郎/野間幹晴
ソニーのリソースを活かした探索機能を担う新しい事業戦略としてのCVC
土川 元
(Sony Innovation Fund チーフインベストメントマネジャー
 Innovation Growth Ventures株式会社 代表取締役社長/チーフインベストメントオフィサー)

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