2012年度 Vol.60-No.1

2012年度<VOL.60 NO.1> 特集:日本の企業会計のゆくえ

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2012年度<VOL.60 NO.1>
特集:日本の企業会計のゆくえ 日本の企業会計が揺れている。IFRSなど会計基準の国際的統合化・収斂化をめぐる動きが目まぐるしく変化していることに加えて、オリンパスや大王製紙などの事件を契機とした日本の企業会計に対する不信感が増幅しているためである。さらに、さまざまなリスク事象の発生に伴い、環境や社会に対する企業の役割が見直され、それに比例して企業会計が果たすべき役割も変化し始めている。本特集は、こうした日本の企業会計がどのような進化・発展をめざすべきかについて改めて検討することをねらいとしている。
伊藤邦雄加賀谷哲之/鈴木智大(一橋大学大学院商学研究科教授一橋大学大学院商学研究科准教授/亜細亜大学経営学部専任講師 会計はどこに向かっているのか──有用性喪失を超えて、価値創造に貢献できるか
 
  会計情報の有用性が低下している。この背景には、貸借対照表に計上されない無形資産・負債の比重が増大していること、会計処理に見積もりや予測が数多く含められるようになっていること、コーポレートガバナンスや監査法人など、会計情報の信頼性を支える仕組みやプレーヤーに対する不信感が増大していることなどがある。会計の有用性低下に歯止めをかけるために、将来に向けて何が必要なのか。そのために会計はどこに向かおうとしているのか。会計が持続的な企業価値の創造に寄与するためには、「開示は開示、経営は経営」という二枚舌経営と決別し、情報開示力と経営実行力の同期化を図る必要がある。今、会計の新たな機能が明らかになりつつある。
冨山和彦(株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO) コーポレートガバナンス危機をめぐる課題と展望──実証主義・実践主義の視点から
  大王製紙とオリンパスにおいて発覚した不祥事には、オーナー経営者の暴走と、ムラ社会型のもたれ合いおよび問題隠蔽体質という、日本企業のガバナンスの不全にかかわる2つの典型的類型が見てとれる。ガバナンス構造に完成形、理想形はないが、その機能的意義は、いざというときに経営者を退陣させられることにある。そのためには、しかるべき識見と胆力で経営トップに退任を迫ることのできる複数の独立取締役の設置を、証券取引所規則などのソフトロー(自主規制)で促進することが、現時点では最も効果的なガバナンス強化手段である。本稿では、今あらためて、コーポレートガバナンスはなぜ重要なのか、実効的に機能するガバナンスとはいかなるものなのかについて考えてみたい。
加賀谷哲之(一橋大学大学院商学研究科准教授) 会計基準の国際的統合化・収斂化が投資行動に与える影響
  会計基準の国際的統合化・収斂化の潮流が「曲がり角」にさしかかりつつある。IFRSを基軸にした会計基準の国際的統合化・収斂化をめぐる議論を契機に、企業会計が経済活動において果たしている役割が見直され、各国が自国に対する経済的影響を慎重に見極める必要があるという認識が広がっていることが背景にある。本稿では、そうした会計情報の役割のなかで、必ずしも先行研究が十分に取り扱っていない投資行動に与える影響を検討した。会計情報の国際的統合化・収斂化が、利益とキャッシュフローの乖離を増大させ、それが特に日本や中国、韓国、フランスなどの国々では、投資行動にネガティブな影響を与えていることを明らかにしている。
安井 肇/久禮由敬(あらた監査法人 あらた基礎研究所 所長/あらた監査法人 リスク・コントロール・ソリューション部 シニアマネジャー) 持続的な価値創造に資する統合報告への挑戦とその意義
  企業の真の価値を簡潔に伝える統合報告をめぐる議論が、国内外で加速しつつある。この根底には、「より多くの情報を一方向的に開示する」という “More Reporting” から、「より整合性のある的確な情報を簡潔に開示し双方向で対話する」という“Better Reporting” への根本的な考え方へのシフトがある。本稿では、統合報告をめぐる議論の背景・動向と企業価値創造との関係を俯瞰した上で、持続的な企業価値創造の基盤として、日本企業がどのような効果・実利をめざし、また、どのように統合報告に挑戦しうるのか、さらには、統合報告をより有意義なものとするために産官学連携で取り組むべき課題とは何かについて、実務の視点から具体的なアクションを考察・提言する。
上妻義直(上智大学経済学部教授) 現実味を帯びてきたCSR報告の制度化
  2012年6月に開催されるリオ+20で、CSR報告は歴史的な転換点を迎える可能性がある。この会議でCSR報告の制度化が話し合われる予定だからである。しかし、CSR報告の制度化はこれまでも少しずつ進められてきた。それは、CSR報告が企業の持続性パフォーマンスを伝達するだけでなく、持続可能な社会への移行に伴って価値創造プロセスを説明する重要な情報へと変質してきたからである。現在のところ、CSR報告の制度化プロセスは「CSR報告の組み込み」「マネジメント・コメンタリー」「統合報告」「スコープの拡張」の各モジュールで構成されると考えられるが、基本的には財務報告の非財務情報区分に組み込まれて、固有の課題を解決しながら統合報告の方向に向かうことになる。
伊藤友則(一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任教授) 日本企業のクロスボーダーM&A──日本たばこ産業の事例に見る10の成功要因
  2011年、日本企業による海外企業の買収(イン・アウト型M&A)は、史上最高の件数と金額を記録した。日本でもM&Aという手法が定着しつつある一方、国内に成長を求められなくなっていることから、今後、海外企業の買収はさらに増えていくと見込まれる。ところが、現在までの日本企業によるイン・アウト型M&Aでは、成功している事例はまだ少ない。本稿では、今までの失敗の原因を探りながら、数少ない成功事例といえる日本たばこ産業(JT)による2件の海外企業買収(RJRIとギャラハー)の事例を参考に、日本企業の経営にとって最も重要な戦略的課題の1つになりつつある、海外企業M&Aを成功させる10の要因を考えてみる。
菊澤研宗/野中郁次郎(慶應義塾大学商学部教授/一橋大学名誉教授) 知識ベース企業の経済学──ミドル・アップダウン・マネジメントとハイパーテキスト型組織の効率性
  野中郁次郎によって展開された知識ベースの経営理論は、基本的にSECIモデル、ミドル・アップダウン・マネジメント、そしてハイパーテキスト型組織といった3つの要素から構成されている。つまり、それは知識創造のための原理論、管理論、組織論といった3つの分野から構成され、今日、これらの研究領域は広くナレッジマネジメントと呼ばれている。そして、このナレッジマネジメントに従う知識ベース企業の効率性は、これまでいくつかの日本企業の事例によって経験的に示されてきた。しかし、その効率性が理論的に証明されているわけではない。これらの事例が単なる偶然ではないことを証明するために、本稿でわれわれは、組織の経済学あるいは新制度派経済学に基づいて、ミドル・アップダウン・マネジメントおよびハイパーテキスト型組織の効率性について理論的に説明し、それゆえ野中のナレッジマネジメントに基づく知識ベース企業は経験的のみならず理論的にも効率的であることを論証する。
●ビジネス・ケース
加賀谷哲之/鈴木智大(一橋大学大学院商学研究科准教授/亜細亜大学経営学部専任講師)
オリンパス──会計不祥事の誘因とガバナンス不全のメカニズム
  2011年10月14日に発表されたオリンパスの社長のマイケル・ウッドフォードの解任は、その後、これまでに類例のない長期間にわたる大規模な会計不祥事が、世に明らかにされる契機となった。この事件以降、日本企業全般に対するコーポレートガバナンス不信が増幅しているとの指摘もある。重要なのは、こうした会計不祥事からわれわれは何を学び、何を改革すべきなのかを、きちんと検討することである。本ケースは、不祥事の誘因となったものは何か、不祥事の本質的な特性は何であるのかについて検討し、今後、そうした不祥事を防ぐために求められる要件は何かを考える上での、材料を提供することをねらいとしている。
●ビジネス・ケース
初見康行/Seo Jeong-min(一橋大学大学院商学研究科博士後期課程/一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程修了)
コマツインドネシア──日本企業の海外における人材活用
  世界第2位の建設機械メーカーであるコマツのグローバル化が勢いを増している。2012年3月現在、日本以外の国籍を持つ社員は半数を超え、売上高の80%以上が海外におけるものである。グローバル化に苦戦する日本企業も多いなか、なぜコマツの海外展開は近年堅調な歩みを続けているのだろうか。その背景には、進出国への適応を目的とした「マルチナショナル戦略」の存在や、コマツ独自の現地人材の活用がある。本ケースでは、コマツのなかでも特に現地国への適応が進み、重要な戦略拠点となりつつあるコマツインドネシア株式会社の事例を通して、コマツのグローバル展開と、それに伴う人的資源管理のあり方を分析する。
●経営を読み解くキーワード
 山本 晶(成蹊大学経済学部准教授)
 「ソーシャルメディア」
●連載::経営学のイノベーション:はじめてのビジネス・エコノミクス(2)
 柳川範之 「『 損して得とれ』の仕組みとは──動学的価格付けについて考える」
●コラム連載:偶然のイノベーション物語(4)
 榊原清則 「帆船から蒸気船へ(続)」
●私のこの一冊
 佐藤郁哉  「『本物』のエスノグラフィーのすごみ──バーニー・G・グレイザー/アンセルム・L・ストラウ『死のアウェアネス理論と看護』」
 網倉久永   「日本企業の求道的な能力蓄積の姿を描く──三戸祐子『定刻発車』」
●マネジメント・フォーラム
 佐藤行弘(三菱電機株式会社 常任顧問):
       
インタビュアー・加賀谷哲之

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