2003年度 Vol.51-No.2

2003年度<VOL.51 NO.2> 特集:日本企業再生のイノベーション 

12・3・6・9月(年4回)刊
編集 一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

2003年度<VOL.51 NO.2>
特集:日本企業再生のイノベーション銀行の不良債権を処理しても、それだけで日本経済が再生されるわけではない。低迷する経済から脱却するためには、煙い在成長のエンジンとしてのイノベーションが不可欠である。それは、技術革新という意味にとどまらず、経営、社会、行政のあり方までを含めた広範なイノベーションである。本特集では、イノベーションを機軸とした日本企業、日本経済の再生の可能性について多面的に議論する。
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畠山直子
(税理士法人トーマツ東京事務所企業戦略・再生グループ代表参与)
企業再生のための効率と創造の新経営モデル--企業の「成長」は長打にあり。手元のみ見ず、しっかり長打を狙え
  企業再生の鍵は、成長期の他社追従型経営の延長線上にはない。既存ビジネスの「効率化の経営」と、新しいビジネスに発展する「創造的経営」の両面を緩急に実現することによってのみ可能となる。企業再生のプレッシヤーのなか、不安感で手前ばかりを見ずに、長期的視点を持った姿勢こそが経営者に求められる。本稿では、英国で時代の変化に対応して見事に緩急の経営を実行している大手流通企業テスコの事例を交えながら、日本企業の再生経営のため、重要な7つの視点と具体的なアクションプランを示す。
小笠原敦
(文部科学省科学技術政策研究所客員研究官・ソニー(株)本社R&D戦略グループシニアR&Dマネジャー)
日本のR&Dの再生に向けて
  研究開発(R&D)投資額では米国に次ぐ規模を誇る日本だが、 1990年代以降、その効率性の面でも、新技術、知的財産の創出においても国際的な競争力の低下が目につく。日本のR&Dの再生のためには、これまでの日本に欠けていたシステマティックなプロジェクト・マネジメント、定量的な技術価値・人材評価などのマネジメント手法の再検討とともに、創造的なR&D活動のを促進するための新しい仕組みづくりが必要である。欧米の産官学連携を含めた先進的事例も紹介しながら、日本のR&Dの再興のために今何をなすべきかを考える。
三輪晴治
(アマコア・テクノロジー・ジャパン社長兼アマコア米国本社副社長)
リーディング産業による日本再生
  イノベーションは、「リーディング産業」として具体的な形になり経済全体の活動を牽引する役割を果たす。過去100年、米国は国の意志としてイノベーションを推進し数々の「リーディング産業」を生み出し、世界経済に大きな影響を与えてきた。その間、日本でも後追い型の経済から脱するために企業、国ぐるみで巨額の研究開発投資が行われたものの、十分な成果は得られていない。新製品、産業のコンセプトを事業化させるための「仕組み」のまずさがその最大の原因である。音声認識、翻訳・通訳プロジェクトを例として、リーディング商品開発プロジェクトの望ましいかたちについて提言する。
榊原清則
(慶應義塾大学総合政策学部教授)
日本経済のパフォーマンスの低下に企業はどう関わったか
  過去10年以上にわたる日本経済の成長パフォーマンスの貧困さは、金融財政などのマクロ要因だけによるものではない。経済成長のエンジンであるイノベーションの欠如こそが、日本にとっては深刻な問題である。イノベーションの主な担い手としての日本企業の研究開発効率は技術戦略や研究開発マネジメントの不十分さゆえに下がっており、企業間、あるいは官学との連携にも消極的な「内向き」な姿勢が目につく。イノベーションを妨げてきた企業の研究開発体制・戦略上の問題点を明らかにするとともに、世界水準に照らしてベストプラクティスと呼べる事例を紹介する。
深川由起子
(東京大学大学院総合文化研究科教授)
韓国の構造調整とベンチャー起業--盛衰の背景と日本への含意
  韓国は、1997年のアジア通貨金融危機に巻き込まれながら、市場信頼の回復・機能強化のための調整を急ぎ劇的な経済再生を果たした。その一翼を担ったのが、かねて「財閥」系大企業による経済支配の是正を図っていた政府の主導による積極的な起業支援であった。韓国のベンチャー・ブームは世界的なITブームも手伝って世界トップクラスのインターネット社会になるなど、一定の成果をもたらしたものの、バブル化し2000年には終焉を迎えた。韓国にとっては苦い経験となったブームの顛末だが、未だに長期的な経済停滞から抜けきれていない日本にとっては、市場の反応を意識した機動的かつ包括的な産業政策を打ち出したという点では学ぶ点が多い。韓国の起業支援への取り組みとその挫折を振り返り、日本への示唆を探る。
前田 昇
(大阪市立大学大学院創造都市研究科アントレプレナーシップ分野教授)
キャッチアップ・モデルからの解放--イノベーションシステム活性化のための研究開発型ベンチャーの重要性
  戦後の日本経済の復興を支えたキャッチアップ型ビジネスモデルからの脱皮が求められている。キャッチアップ・モデルにより失われた起業家精神をミクロの大企業変革、マクロの産業構造変革によって取り戻し、新たなイノベーション・システムを構築することが最大の課題である。その変革の原動力として注目されるのが、「失われた10年」の間に着実に存在感を増してきた大企業スピンオフのエンジニアによる研究開発型ベンチャーの役割である。研究開発型ベンチャーを軸に、大企業との連携によるコーポレート・ベンチャリングの動きに注目するとともに、日本の強みを活かした次世代のナショナル・ビジネスモデルのあり方を考える。
●特別寄稿
冨山和彦
(産業再生機構最高執行責任者[COO])
企業再生の論理--「産業再生機構」に求められる役割
  「失われた10年」の間に日本企業が本当に見失ったものは何なのか。不良債権問題の陰に隠れるように本格的な改革を怠ってきた責任は重大である。今の日本企業に必要なのは、待つだけでは「春」は来ないという現実を直視し、業界横並びではない独自の戦略を見定め、変化の担い手としての若手マネジメント人材が力を発揮できる環境を作ることである。 2003年4月に発足した産業再生機構の最大の使命もまた、不良債権の処理加速ではない。弱体化した日本企業再生への具体的な方法論を確立し、それを実践することである。本稿では、企業再生コンサルタントから同機構の最高執行責任者に転じた筆者が日本企業の現状を批判的に分析するとともに、その再生へ向けた具体的方策を示す。
●ビジネス・ケース
石倉洋子
(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)
しまむら:ローコストオペレーションの確立と新業態の開発
  1970年代以降、しまむらは低価格の実用衣料品の専門小売として、郊外の住宅地近くへの標準店舗の多店舗出店により高成長を続けてきた。ユニクロの製造小売(SPA)モデルとは対照的に、小売専業の道を選んだ同社は、チェーン店の標準化、単純化、専門化に加え徹底的なシステム化により圧倒的なローコストオペレーションを確立。資本関係のない仕入先との関係のマネージなど、固有のノウハウも蓄積してきた。ただ、既存店の商品単価の低下や買上げ客数の減少が避けられず、従来型店舗の新規出店余地が限られるなか。新たな業態や海外進出などの新機軸が求められている。しまむらの高収益・高成長モデルは今後も持続できるのだろうか。
高 永才
(一橋大学大学院商学研究科博士課程)
京セラ:温度補償型水晶発振器市場における競争逆転
  温度補償方水晶発振器(TCXO)とは、携帯電話に搭載され周波数制御機能を担う電子部品である。京セラは1994年、携帯電話端末の普及とともにTCXO市場へ参入したが、その技術的未熟さから国内市場における存続が危ぶまれていた。しかし、TCXOの小型化を進めるにつれ、国内の市場シェアを二分するような代表的な企業へと成長する。最後発での市場参入、水晶技術を持ち合わせていないことによる製品品質の低さ、歴史の浅さという悪条件を抱えながらもシェアトップにのぼりつめることができたのはなぜか。京セラにおけるTCXO開発の過程をたどり、その製品開発の特徴を探るとともに、 TCXO小型化競争における同社の優位性の鍵を考える。
●連載:経営学のイノベーション
 金井壽宏/高橋 潔 「元気の出る経営行動科学(8):現実を変えることから生まれる知識創造のパワー」
 中野 誠/蜂谷豊彦 「戦略ファイナンスへの招待(3):事業の再構築と企業価値」
●コラム連載:経営学のフロンティア
 加護野忠男 「事業部制組織を考え直す」
●マネジメント・フォーラム
 坂本幸雄(エルピーダメモリ㈱代表取締役社長):インタビュアー・米倉誠一郎・藤村修三
 「日本の半導体をもう一度甦らせてみせます」
●投稿論文
 「クラスター分業ネットワーク」と敏速な部品調達--台湾ノートパソコンメーカー最大手の事例から」 
 楊 英賢
●用語解説
 金子篤志 「MOT(技術経営)」

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