【一橋ビジネスレビュー】 2019年度 Vol.67-No.2

2019年度<VOL.67 NO.2> 特集:未来洞察と経営–不確実性を味方につける手法









12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社






特集:かつて7大石油メジャーのなかで最弱といわれたロイヤルダッチシェルは、シナリオプランニングの技法を用いて、オイルショックを機にトップ企業への転身に成功した。それ以降、未来のシナリオを複数描き、未来への備えを講じるシナリオプランニングの考え方が企業経営に導入されてきた。現代は、ブーカ(VUCA)の時代と称される。VUCAとは、「Volatility(激動)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」の頭文字をつなげた造語であり、ブレグジット(イギリスのEUからの離脱)やトランプ大統領の誕生などは、その象徴的な出来事といわれる。予測困難な時代において、企業は、未来とどのように向き合い、備え、味方につければよいのか。各種の未来洞察(フォーサイト)手法を概説し、それらを企業経営の現場に落とし込む取り組みを、幅広い角度から論じたい。


特集論文Ⅰ 世界各国におけるフォーサイト
七丈直弘
(東京工科大学コンピュータサイエンス学部教授)
日本において、近年「フォーサイト(未来洞察)」への関心が急速に高まりつつある。しかし海外では、フォーサイトは単なる関心にとどまらず、広く行われている標準的な組織活動の1つとなっている。また、フォーサイトの実施方法も、国ごとに大きく異なっている。本論文では、特に政府(一部の国際機関を含む)によって行われているフォーサイトの状況を報告し、その多様性や成功例を明らかにする。戦後の世界的な経済発展の過程において、特に1960年代、欧米で頻繁に活用されるようになっていった予測活動の流れを受け、日本では1971年に科学技術庁(当時)によって日本発の大規模な予測活動が行われるに至った。経済発展を背景とした日本の予測活動は欧米から大きな注目を集めた。日本の予測活動に触発される形で、欧米のフォーサイトが現在の形に発展していった。その後、アジアやオセアニアでも活動が行われ、現在では、多くの国で政府がフォーサイトを行っている。

特集論文Ⅱ ホライゾン・スキャニング手法で作られたシナリオの的中度研究
八幡晃久/鷲田祐一
 (株式会社日本総合研究所 未来デザイン・ラボ シニアマネジャー/
  一橋大学大学院経営管理研究科教授)
これまで日本政府が主導して作成された未来シナリオは的中度が低く、たびたび産業育成に失敗したり社会的損失を発生させたりしてきた。技術革新ありきの従来的予測手法に代わって、未来洞察活動の主要な方法であるホライゾン・スキャニング手法は、ナショナル・イノベーション・システムの一環として各国で利用され始めている。ホライゾン・スキャニング手法で作成される未来シナリオの的中度を実際に測る調査を実施したところ、従来的手法よりも有意に高い的中度が実現されることが検証された。

特集論文Ⅲ 未来洞察の長期経営ビジョン策定への応用
時吉康範/粟田恵吾
 (株式会社日本総合研究所 未来デザイン・ラボ プリンシパル/
  株式会社日本総合研究所 未来デザイン・ラボ ディレクタ)
VUCAの時代に突入したことによって、10年前には想像しえなかったような顧客や競合企業の変化が起こりつつあり、従来の事業・経営の「前提」が壊れようとしている。このため、従来の中長期経営戦略手法、たとえば、これまでの事業・経営環境を所与のものとして更新を図る中期経営計画の策定や、未来の事業・経営環境が現在の延長線上にある考えに基づいた長期経営ビジョンの策定では、非連続な変化に対するプロアクティブな対応を先導できないことが報告されている。本論文では、実効的な長期経営ビジョンを策定するために未来洞察をどのように応用するか、最新の活用事例を交えて考察する。

特集論文Ⅳ グローバル企業の未来洞察活動の歴史考察と今後の展望
橘田尚明/粟田恵吾
株式会社日本総合研究所 未来デザイン・ラボ コンサルタント/
   株式会社日本総合研究所 未来デザイン・ラボ ディレクタ
本論文では、グローバル企業における未来洞察の歴史的発展に焦点をあわせて、今後の日本企業を含むグローバル企業における未来洞察の取り組みについての方向や力点を考察する。グローバル企業における未来洞察は、外部環境の不確実性増大に対応するための「新たな経営システム」として導入され、半世紀にわたって各時代の経営課題に対応すべく進化してきた。企業における未来洞察はもはや特定部署による一過性の取り組みではなく、日々変化する“weak signal” を捉えて次にめざすべき未来を見いだし続ける、全社的な「ビジョニング」機能になり始めている。これらのことから、未来洞察は今後の経営環境変化を乗り切るための経営システムの高度化として、未来に対する企業の行動変容をもたらすと考えられる。

特集論文Ⅴ エンジニアリングデザインと未来洞察
齊藤滋規/田岡祐樹
東京工業大学環境・社会理工学院融合理工学系教授/
   東京工業大学環境・社会理工学院融合理工学系助教
東京工業大学の大学院課程(エンジニアリングデザインコース)では、工学(エンジニアリング)とデザインという現実の問題を解決する2つの体系を掛け合わせた、エンジニアリングデザインの体系を学ぶことができる。未来洞察の考え方や手法を身につけるカリキュラムも重要だと考え、講義として提供する方法を模索中だ。本論文では、筆者らがコースで提供する講義のデザイン思考を実践するエンジニアリングデザインプロジェクトについて述べながら、未来洞察との関係性、接続性について論じ、「未来を洞察し、現実をデザインできるエンジニア」を育成するには何が必要なのかについて述べる。

特集論文Ⅵ 産総研デザインスクールと未来洞察からの学び
――デザインスクールの実践と挑戦
小島一浩/大場光太郎
国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 
   共創場デザイン研究チーム チーム長/
   国立研究開発法人産業技術総合研究所 柏センター デザインスクール事業室 室長
現代はVUCAの時代といわれ、コト・モノとして何をつくるべきか、研究開発として何に取り組むべきかが不明瞭である。コトづくり・モノづくりの手法としてデザイン思考が注目されて久しいが、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は2018年より、デザインスクールの運営に取り組み始めた。本論文では、産総研がなぜデザインスクールを始めたのか、その経緯をナラティブに記述し、約1年間のフィジビリティースタディー(FS)を通して得られた学び(経験学習)をもとに、当初の課題を再整理・再解釈し、産総研デザインスクールの再定義を行う。

特集論文Ⅶ 政策立案の新機軸としての「未来年表」活用
梶川文博/根本かおり/鷲田祐一
経済産業省 産業技術環境局 環境経済室長/
   株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 ストラテジックプラニング
   ディレクター/一橋大学大学院経営管理研究科教授
戦後、日本の中央省庁の政策立案の手法は大きく変化がなかったが、昨今の情報化とグローバル化の影響で、従来の手法だけで効果的な立案ができるのかという「行き詰まり感」を持つ行政官が増えてきている。そこで経済産業省では、委員会型ではなくワークショップ型の会議を導入する試みを開始している。また組織外との協働を進めるための「場」として、2019年5月に経済産業省本館に「未来対話ルーム」を設置した。このような試みを通じて、産官学民のさらなる協働が進み、わが国における政策立案プロセスの変革が進むことが期待される。

[連載]全員経営のブランドマネジメント

[第3回]個の能力<組織の能力
鈴木智子
(一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻准教授)

 

[ビジネス・ケース]

ネスレ日本――マスブランド「キットカット」のプレミアム化戦略
鈴木智子/野ヶ本直子
一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻准教授/
   一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻修士課程
プレミアム商品の戦略の特徴は、高価格、高コスト、限定された流通にあり、マスマーケティングとは異なる戦略であると、一般的にはいわれる。また、消費者もプレミアム商品には高級感を求めるため、大衆向けというイメージがあるマスブランドがプレミアム化することは難しい。こうした定説があるなか、マス向けチョコレート菓子の代表的商品である「キットカット」がプレミアム化に成功している。本ケースでは、キットカットの事例を通じて、ネスレ日本によるマスブランドのプレミアム化戦略について考察する。

ママスクエア――子育てママを社会の主役に
軽部 大/小林信也/小野寺莉乃/高 睿佳
一橋大学イノベーション研究センター教授/
   一橋大学大学院商学研究科修士課程修了/
   一橋大学大学院経営管理研究科修士課程修了/
   一橋大学大学院商学研究科修士課程修了
出産や育児といったライフイベントゆえに、子育て中の母親は新たな就業機会に恵まれず、働きたくても働けない状況にあることが多い。それは、本人のやる気や能力の問題ではなく、社会として解決すべき課題である。キッズスペース付きワーキングルームの運営と展開を通じて、働きたくても働けなかった子育て中の母親に、社会での新たな活躍の場を提供するのがママスクエアである。育児や家事に追われ、毎日を秒単位で生活することで培われた子育て中の母親の仕事ぶりは、多くの企業や行政から高い評価を受けている。近年、ママスクエアはBPO事業で培ったノウハウを活かし、事業所内保育事業や行政連携事業、FC事業へと展開している。本ケースでは、子育て中の母親を社会の主役にする新しいビジネスモデルがいかに構想され、進化してきたかについて議論する。

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー 米倉誠一郎/鷲田祐一
20〜30年後の未来課題を描き、協創型アプローチと技術力でビジョンを実現させる
北川央樹/柴田吉隆
株式会社日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 
   センタ長/
   株式会社日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 
   ビジョンデザインプロジェクト 主任デザイナー

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