2026年春号<VOL.73 NO.4>特集:コツコツ儲ける企業の秘密 ー ビジネス実験の累乗が生み出す競争力
特集:グローバル企業では、MBAが経営者の共通の教養になり、経営学の常識を知るだけでは競争力は高まらない。データ分析の技術の発展により、よほどユニークなデータがなければ差別化はできなくなった。そうしたなかで、新しいマネジメントやマーケティングの手法、新しい製品・サービスを科学的に試し、有効な選択肢を選び抜くことで、他社より一歩有利な立場に立つことができる。ところが、実験には落とし穴もある。やり方を間違えるとかえって競争力を下げてしまう。本特集では、企業が競争力を実現するビジネス実験について、その可能性と実例を紹介する。
特集論文Ⅰ 実験に基づく予測分析とは何か:因果関係と、インパクトにつながる施策を正確に見極める
及川直彦
(早稲田大学大学院経営管理研究科客員教授)
あなたの会社のデータの分析は、本当に経営の役に立つ意思決定を支援できているだろうか。そのためには、因果関係に基づいて、何が起きるのかを予測し、最適な処方をすることが分析に求められる。しかしながら、従来の相関関係に基づく分析に頼っていると、因果関係を見誤り、間違った判断を下す危険性がある。では、どうすればよいのか。その答えは、19世紀の英国の医師ジョン・スノウがコレラ対策で示した科学的アプローチ─すなわち「実験」にある。本稿では、相関関係に基づく診断的な分析の限界を超え、A/Bテストやランダム化比較試験を用いて「もし介入しなかったら(反事実)」との差分を明らかにする分析を紹介する。
特集論文Ⅱ ビジネス実験ができる企業の基盤:ビッグデータの利活用をめぐる組織能力研究からの示唆
吉岡(小林)徹/平井祐理
(一橋大学イノベーション研究センター准教授/立命館大学スポーツ健康科学部准教授)
ビジネス実験とはいったい何なのか、そして、それをどのような場面、どのような組織でも有効に活用するためには何が必要なのか。既存研究からは、ビジネス実験をビジネスの質の向上に結びつけるには組織としての能力が求められる可能性が示唆されている。その能力がなければ、誤った実験によりビジネスの質が低下し、意図した効果が得られない。本論文では、既存論文のレビューを通じてビッグデータを利活用する際に組織として求められる能力について考察した。特に求められるものが、理論から仮説を導出する力、定量的・定性的なデータの分析力、そして、失敗を許容したり失敗から学んだりする組織文化であると考えられる。
特集論文Ⅲ 企業内RCTと施策評価:設計・分析手順と最新動向の整理
川太悠史
(早稲田大学政治経済学術院助手)
ある施策の効果を検証する上で、ランダム化比較試験(RCT)は強力な手段である。企業内でRCTを効果検証の実務ツールとして運用すれば、相関ではなく因果に基づく意思決定へ直結させられる。筆者らは2020〜21年に企業との共同で、従業員の「睡眠改善プログラム」(健康経営施策)のRCTを実施し、睡眠の改善が生産性にポジティブな因果効果をもたらすことを示した。本稿では、この事例を用いて、企業内RCTの設計・分析・結果の読み方を解説する。また、経済学・経営学で近年蓄積が進む企業内RCTのサーベイを通じて、実装手法と主要な知見を整理し、限られた予算で最もリターンの高い打ち手に資源を配分するための指針を提示する。
特集論文Ⅳ 障害者雇用による従業員の多様性が職場に与える価値
内藤拡也/マイケル・プライス/牧 兼充
(清水建設株式会社 技術研究所/アラバマ大学 カルバーハウス・カレッジ・オブ・ビジネス教授/早稲田大学ビジネススクール准教授)
少子高齢化や人材の流動化を背景に、現代の職場は異なる経験や価値観を持つ人材が共に働く場となっている。国内では障害者雇用の推進も進み、包摂的な職場環境づくりは今日の経営課題として、よりいっそう重要になっている。一方、多様なメンバーが集まると、チームをまとめるのが困難になると思われるかもしれないが、その難しさは、おのおのが持つ知見を引き出し、内容を擦り合わせるといった工夫を生み出す契機にもなりうるのではないだろうか。本研究は、国内企業のオンライン研修を用いたフィールド実験を舞台に、障害のある従業員を含むチームと含まないチームを比較し、限られた時間のなかでの、チームごとの意思決定の傾向について分析するものである。多様性を義務や善意ではなく、組織の生産性向上につなげるため、多様性のあるチームが持つコミュニケーションの強みと、それを活かす働き方の設計についての新たな視点を提示する。
特集論文Ⅴ スタートアップは「選ぶ」と集まらない:コーポレート・アクセラレータ・プログラムにおける応募方式のフィールド実験
峯藤健司/エリック・フロイド/牧 兼充
(早稲田大学総合研究機構招聘研究員/カリフォルニア大学サンディエゴ校レイディ経営大学院准教授/早稲田大学ビジネススクール准教授)
大企業は、スタートアップをイノベーションの重要な源泉として位置づけ、その連携を目的にコーポレート・アクセラレータ・プログラムを導入してきた。アクセラレータ・プログラムにおけるスタートアップとのマッチングには、広く応募を募る「公募型」と、企業側が事前に選定したスタートアップに声をかける「事前選考型」の2つの方式が存在するが、どの方式がどのようなスタートアップを引き寄せ、最終的な協業につながるのかについては、十分に検証されてこなかった。本研究では、日本の大手企業が運営するアクセラレータ・プログラムを対象に、応募方式の違いがスタートアップの応募行動、企業による評価、最終的な選定結果に与える影響を、実際の業務の現場におけるフィールド実験を通じて検証する。分析の結果、事前選考型は応募率を大きく高める一方で、最終的に選定されたスタートアップの多くは公募型から集まっていることが明らかになった。これらの結果は、アクセラレータ・プログラムの設計において、応募数の多寡だけでなく、どのような接点の作り方が応募者の質や多様性の確保につながるのかを慎重に考える必要があることを示唆している。
[連載]デジタル時代の組織戦略
[第2回]デジタル技術への投資を経営成果に結びつける
清水たくみ
(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
[連載]ビジネス・ケースの美味しい読み方
[第4回]一汁一菜(1理論+1ケース)を振る舞う
積田淳史
(成城大学社会イノベーション学部准教授)
[特別寄稿]連合から所有へ:製薬業界における持続的イノベーションのための戦略的提携と知的財産マネジメント
リック・H・L・アールバース
(ラドバウド大学経営学部経営管理専攻教授)
製薬業界におけるイノベーションのためには、提携と買収の双方を活用し、多様な組織間ネットワークを構築する必要がある。これら2つの戦略オプションについてはそれぞれ多くの知見が得られているが、提携から買収への移行、換言すれば、パートナーとの連合から所有への移行の意義と効用はあまり理解されていない。本論文では、製薬企業351社の25年間にわたる企業データと、これらの企業が25年間に行った1784件の買収と6万5523件の特許出願を調査し、連合から所有への移行がイノベーションに与える影響を検証した。その結果、移行は漸進的イノベーションを増加させるが、革新的イノベーションへの影響は限定的であることがわかった。さらに、移行数のうち国外のパートナーの割合が高いほど漸進的イノベーションが低減し、関連産業内パートナーの割合が高いほど革新的イノベーションが低減することも確認された。これらの知見は、製薬業界における企業の戦略的提携のあり方に関する実践的な指針を提供するものである。
[連載]産業変革の起業家たち
[第26回]飽和市場に風穴を開ける理論とリアルの対話
高橋 賢
(株式会社Fast Beauty 代表取締役社長)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊/カン・ビョンウ
[ビジネス・ケース]
星野リゾート ――「社員全員がイノベーター」の実践と成果
鈴木智子/林 文彬/ホフリカ・マレック/グプタ・アキル/呉 元君
(一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻教授/一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻修士課程修了/一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻修士課程/一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻修士課程/一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻修士課程)
「イノベーションは一部の優秀な人が起こすもの」。そう考えている組織は少なくない。しかし、星野リゾートは、イノベーティブな文化を組織に根づかせ、社員1人1人が主体的に価値創造に向き合うマインドセットを育んできた。本ケースは、星野リゾートにおける「社員全員がイノベーター」という考え方が、どのように形成され、実践され、成果へと結びついてきたのかを描く。象徴的な成果の一例が、都市型ホテルブランド「OMO」である。特定の役職や才能あるいはトップの号令に頼るのではなく、組織文化の変革を通じて、イノベーションが生まれ続ける行動様式を組織に埋め込んできた。その挑戦は、多くの企業にとって示唆に富む。
HENNGE ―― 多様性を組織の力にする経営
青島矢一
(一橋大学イノベーション研究センター教授)
HENNGEは、1996年に設立されたクラウドセキュリティサービスを提供する企業である。2度の倒産危機を乗り越え、2011年に主力事業「HENNGE One」を開始。現在は東証上場企業の約19%が導入するまでに成長し、強固な収益基盤を築いている。同社の最大の特徴は、徹底したダイバーシティ&インクルージョン(D&I)経営にある。現在、エンジニアの約80%を外国籍人材が占め、約30の国・地域から集まった多様な人材が中核を担っている。多様性の高い組織を統合するため、英語を社内公用語化し、文化的衝突や離職という課題には共通の行動指針で価値観の共有を図っている。そして、透明性の高い人事評価を導入し、自律的な組織文化を構築した。創業者で代表取締役社長CEOの小椋一宏は、違いを前提とした組織こそが、互いに刺激し合ってイノベーションを生むと説く。同社は、多様性が生むジレンマを制度と対話で克服し、組織の持続的な成長能力へと転換させた稀有なモデルである。
[ポーター賞]
第25回 ポーター賞受賞企業・事業に学ぶ
大薗恵美
(一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻教授)
[マネジメント・フォーラム]
科学的な意思決定をもとに大手とは違うところで戦う
赤尾洋昭
(株式会社セコマ 代表取締役社長)
インタビュアー:米倉誠一郎/吉岡(小林)徹
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