【一橋ビジネスレビュー】2025年夏号 Vol.73-No.1

2025年夏号<VOL.73 NO.1>特集:進化するビジネスモデル
                ー 未来を切り開く戦略思考

 

 

12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社

特集:世界には現在、競合する2つの有力な経済システムが存在する。欧米経済の多くで支配的な株主資本主義と、新興市場の多くで顕著な国家資本主義である。どちらのシステムも、この数十年間、驚異的な経済発展をもたらした。しかし、いずれも社会的・経済的・環境的に大きなマイナス面をもたらしたことも指摘され始めている。行き過ぎた資本主義に警鐘を鳴らすように、ダボス会議をはじめとして、ステークホルダー資本主義が提案されている。ステークホルダー資本主義では、経済と社会におけるすべてのステークホルダーの利益が考慮され、企業は短期的な利益以上のものを求めて最適化し、政府は機会の平等、競争における公平な土俵、システムの持続可能性と包括性に関して、多様なステークホルダーへのより公平な貢献と分配の守護者となることが求められる。本特集では、資本主義を再考し、資本主義の未来について検討する。企業は、財務リターンの最大化を追求すると同時に社会の公器としての役割を果たすには、どうあるべきか。これからの社会で求められる企業やリーダーの役割を議論する。

特集論文Ⅰ ビジネスモデルのダイナミズム
藤原雅俊
(一橋大学大学院経営管理研究科教授)
ビジネスモデルという言葉は、2度の大きなブームを経て、日常に定着した。その実務的な関心の高さから、これまでビジネスモデルは多様な角度からさまざまに論じられてきており、その論点は実に数多い。本稿では、ビジネスモデルを収益モデルとビジネスシステムによって構成されるものとして捉えて、ビジネスモデルが織りなすダイナミズムに焦点を定め、その動態的な影響に関していくつかの事例に基づいて論じていく。その上で、多様なプレイヤー間の相互作用を通じてビジネスモデルが変容していく過程を明らかにしたり、ビジネスモデルの転換プロセスを解明したりすることの意義について論じる。

特集論文Ⅱ 「強いビジネスモデル」についての実証調査:進化のカギを握る成功のレシピ
井上達彦/近藤祐大/坂井貴之
(早稲田大学商学学術院教授/早稲田大学産業経営研究所助手/早稲田大学大学院商学研究科博士課程)
強いビジネスモデルとは何か。ビジネスモデルという言葉を耳にする機会は増えたが、その「強さ」について明確に語られることは少なく、どのモデルが強いのかは依然として曖昧である。従来のビジネスモデル研究は特定モデルの比較や事例研究が中心であり、モデルの違いが業績にどう影響するのかを体系的に検証する試みは限られていた。本論文では、多くの研究や実務知見の先にある問い、すなわち「強いビジネスモデルとは何か」に正面から取り組む。また、ビジネスモデルの強さは単体の強さだけでは語りきれない。モデルを組み合わせることによって、さらに強化される可能性があるのだ。本論文では、組み合わせの視点にも踏み込みながら、ビジネスモデルの「強さ」を可視化する探索的な実証調査を試みる。成功のレシピは、本当に存在するのか。その手がかりを探ってみたい。

特集論文Ⅲ 経営戦略研究の新潮流から「ビジネスモデル」を再考する
琴坂将広
(慶應義塾大学総合政策学部教授
本稿は、「ビジネスモデル」という概念の広がりと複雑性を経営戦略の視点から議論する。まず、概念としてのビジネスモデルの原点を、経営戦略研究の歴史的経緯とひもづけて特定する。次に、東証グロース市場に上場した企業の上場時の有価証券報告書の生成AIを用いた初期的な分析から、ビジネスモデルという概念の社会実装の現状、経営戦略論の各種理論体系との関連に触れる。さらに、実践・行動、非市場・制度、社会的価値・根源的価値観、アルゴリズム/ロボティクスといった経営戦略研究の新潮流をビジネスモデルに関連する最新学術研究を交えて紹介し、これらを取り入れることで、ビジネスモデルが今後いかに進化すべきかを提示する。

特集論文Ⅳ 投資家は企業のビジネスモデルのどこに注目するのか
仮屋薗聡一/高原康次/中村香央里/吉田晃宗
(グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社 共同創業パートナー・グロービス経営大学院テクノベート経営研究所所長/グロービス経営大学院テクノベート経営研究所副所長/グロービス経営大学院テクノベート経営研究所副主任研究員/グロービス経営大学院テクノベート経営研究所副主任研究員
投資家は企業のビジネスモデルをどのように見ているのだろうか。著者らは実務経験に基づき、まず著名機関投資家が評価するデカコーンの最新のビジネスモデルを概説する。次に、縦軸としてインターネットの登場以降のテック業界におけるビジネスモデルのトレンドを振り返る。さらに、横軸として企業の成長段階、つまり、新規株式公開(IPO)の前と後に分け、それぞれのステージにおける投資家の視点から、ビジネスモデルの評価軸がどのように変化するのかを示す。以上を通じて、投資家から見たビジネスモデルの評価軸および投資家とビジネスモデルの関係を立体的に描き出す。

特集論文Ⅴ ビジネスモデルを読み解く上でなぜ財務諸表が重要なのか
矢部謙介
(中京大学国際学部教授
財務諸表は、ビジネスの実態を映し出す鏡である。そして、経営者が財務諸表をもとに次の戦略を検討していることを踏まえれば、財務諸表はビジネスのあり方にも大きな影響を与えているといえる。つまり、財務諸表とビジネスはそれぞれが独立して存在するのではなく、相互に影響を与え合う関係にあると考えるべきだ。本稿では、いくつかの企業のビジネスモデルと財務諸表の関係を分析することで、ビジネスモデルが財務諸表上の会計数値に対してどのような影響を与えているのかを概観する。その上で、ビジネスモデルを読み解く際において財務諸表を活用することの重要性について述べる。

[連載]戦略人事の考え方
[第7回(最終回)]人事部門の戦略的トランスフォーメーション
島貫智行
(中央大学大学院戦略経営研究科教授)

[連載]コンテンツビジネスから見る世界
[第3回]技術とコンテンツを取りまとめるビジネスの役割
生稲史彦
(中央大学ビジネススクール教授)

[連載]ビジネス・ケースの美味しい読み方
[第1回]ビジネス・ケースを味わう:メインに、サイドに、デザートに
積田淳史
(成城大学社会イノベーション学部准教授)

[連載]産業変革の起業家たち
[第23回]カラスの音声研究の第一人者に起業を決心させた産学連携の難しさ
塚原直樹
(株式会社CrowLab 代表取締役)
インタビュアー:青島矢一/藤原雅俊

[ビジネス・ケース]
NTT西日本 ――共創を生み出すユニークな場の創出
久保田達也/陰山孔貴/塩谷剛
(成城大学社会イノベーション学部教授/関西大学商学部教授/神戸大学大学院経営学研究科准教授
NTT西日本は2022年3月、大阪・京橋地区の本社敷地内に共創施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」を開業した。QUINTBRIDGEは「社会課題の解決と未来社会の創造」を成し遂げる場として急速に発展を遂げ、2025年3月時点で個人会員が2.5万人を超える規模に達している。また、開業から3年で115件の共創事例が生まれるなど、具体的な成果も出始めている。多くの共創施設が参加者の動員や成果の創出に苦しむなかで、なぜQUINTBRIDGEはこれほど多くの参加者を引き寄せ、共創を生み出し続けることができているのか。また、なぜ事業会社でありながら、不確実性の高い共創に向けた取り組みを継続的に行うことができているのか。本ケースでは、QUINTBRIDGEの理念や運営方針、さらに施設を評価するユニークな仕組みなどを掘り下げながら、共創を生み出し、共創に向けた取り組みを続ける背景を探る。

今治タオル工業組合 ――「奇跡のタオル」の背景にあった組織変革
岸下ひとみ/塚口あゆ美/藤井勇成/森井孝則/柳瀬拓弥/吉田浩章/青島矢一
(一橋大学大学院経営管理研究科修士課程修了/一橋大学大学院経営管理研究科修士課程修了/一橋大学大学院経営管理研究科博士課程/一橋大学大学院経営管理研究科修士課程修了/一橋大学大学院経営管理研究科修士課程修了/一橋大学大学院経営管理研究科修士課程修了/一橋大学イノベーション研究センター教授

愛媛県今治市は、明治時代にタオル生産を始め、戦後の発展を経て日本一の生産地として知られるようになった。しかし、1991年をピークに生産量は減少した。低価格な輸入品の流入や、有名アパレルブランドへのOEM依存による価格交渉力の低下がその要因であった。こうした状況で、今治タオル工業組合は2006年、国の地域ブランド支援を機に再生に着手した。クリエイティブディレクターの佐藤可士和を迎え、品質基準やロゴを統一するなど、ブランド再構築を図るとともに、組合員企業が連携し、品質管理や人材育成にも注力した。その結果、今治タオルは高品質ブランドとして再評価され、生産量も回復した。本ケースでは、地域ブランドの構築によって産地としてV字回復を実現した今治タオルの約20年の軌跡を、当事者への取材をもとに描く。

佐久 ――伝統とビジネスイノベーションの相互作用
酒井健/藤岡詩音/坪山雄樹/遠藤貴宏
(一橋大学大学院経営管理研究科准教授・東北大学大学院経済学研究科准教授/一橋大学大学院経営管理研究科博士課程/一橋大学大学院経営管理研究科准教授/ビクトリア大学ピーター・B・グスタフソンスクール オブ ビジネス准教授

老舗ファミリー企業において、伝統とイノベーションの管理は重要な経営課題である。伝統は企業活動を安定させる一方で、しばしば競争力の源泉となるイノベーションを阻害するためである。宮城県南三陸町志津川地域の佐藤家は、江戸時代から続く家柄であり、株式会社佐久を代々経営してきた。丸太価格の低迷に伴い日本の林業が停滞傾向にあるなか、佐久は東日本大震災後、地域の林業家を巻き込んで国際森林認証であるFSC認証を取得し、南三陸杉ブランドを築き上げた。これは旧態依然的な方法を改革し、林業における新たな価値の開拓、販路の拡大をめざした取り組みであった。老舗ファミリー企業である佐久において、伝統とイノベーションはどのように関連していたのか。そこには、家に関する伝統からビジネスが切り離され、伝統を後世に伝えなければならないという精神性がビジネスの革新を促し続ける構造があった。

[マネジメント・フォーラム]
ロボットにとって住みやすい街をデザインする
谷口恒
(ROBO-HI株式会社 代表取締役社長)
インタビュアー:井上達彦/藤原雅俊

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