【一橋ビジネスレビュー】 2018年度 Vol.66-No.3

2018年度<VOL.66 NO.3> 特集:「新しい営業」の科学









12・3・6・9月(年4回)刊編集

一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社






特集:営業は身近な活動である。日本の多くの企業には営業を担当する部署があり、多くの人が営業という業務に従事している。読者の皆さんも、営業という活動を身近に感じているからこそ、この特集に目を向けてくださったのだろう。
では、私たちは営業という活動をどれほど理解しているのだろうか。確かに、日本企業の営業に関する研究蓄積は一定のものがあるし、マーケティングやセールスに関する国内外の研究蓄積は豊富である。しかし、営業活動に対する理解が十分かと問われると、かなり心もとない。少なくとも研究者にとって営業活動はわからないことが多く、いまだに営業の実践から学ばなければならない。そのためには、データや事例をより多く集めることはもちろんだが、営業について語るための言葉(概念)、見方や枠組み(モデル)を増やし、営業を理解する準備も進めなければならない。
本特集では、身近さと未知が共にある営業活動を、営業の現場で起こる現象そのものから明らかにしようと意図した。そこで、実証研究を中心に6本の論文を集めた。


特集論文Ⅰ 現場から見た日本企業の営業
野部 剛/小松弘明/生稲史彦
(ソフトブレーン・サービス株式会社 代表取締役社長/ソフトブレーン・サービス株式会社 取締役会長/筑波大学システム情報系准教授)
日本企業の営業の現場は今、どのようになっているのだろうか。営業活動には、顧客側の現場、すなわち自社の外側で行われる活動が含まれる。それゆえ、営業活動のプロセスはブラックボックス化されがちであった。
営業活動は内容がわからないゆえに、個人のやり方に委ねざるをえず、管理も結果に依存することが多かった。これでは組織としての効果的なマネジメントや、人材育成も難しい。本論文では、ブラックボックス化された営業活動のプロセスを解説し、営業活動の内容を可視化、言語化、標準化する枠組みを提案する。これらが実現することで風通しが良い営業組織となる。次代を担う営業パーソンが確かな見通しを持って育っていくような営業組織のあり方を示す。

特集論文Ⅱ セールス研究の現状と営業研究の課題――18のメタ分析論文のレビュー
稲水伸行/佐藤秀典
 (東京大学大学院経済学研究科准教授/筑波大学ビジネスサイエンス系准教授)
本論文は、セールスに関するメタ分析を行った18本の論文を中心にレビューすることで、海外におけるセールス研究の到達点を明らかにする。特に、パーソナリティーや顧客志向、職務満足、マネジメント施策とセールスパフォーマンスの関係を概観しつつ、セールスパフォーマンスに影響を与えると考えられる要因を10のカテゴリーに分けて整理する。その上で、セールス研究が個人的な要因から組織的な要因へと広がりを見せてきていることを指摘し、単なるセールスにとどまらない、日本独自の概念である「営業」について今後どのように研究を進めていくべきかを議論する。

特集論文Ⅲ データから見えてくる日本の営業
稲水伸行/鏑木幸臣
 (東京大学大学院経済学研究科准教授/ソフトブレーン・サービス株式会社 セールスサイエンティスト)
本論文では、ソフトブレーン・サービス(SBS)、東京大学、筑波大学の産学連携により開発された営業力調査票とそれによって収集されたデータ(141社815人)の分析結果を報告する。特に、営業成績下位者はマーケティングや面談・商談に至る前の準備の部分が弱いことが明らかとなった。また、営業成績トップは、数字と事例を駆使しながら、目標から逆算してプロセスを組み立て、顧客および顧客のニーズに関する仮説の立案と検証を行うという姿が確認された。こうした分析結果から見えてくるのは、いわゆるセールス(販売活動)に限定されない広がりを持つ営業の姿である。

特集論文Ⅳ 営業活動における組織能力向上――組織ルーティンの形成とその移転
山城慶晃
東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員
本論文では、営業活動の成果向上に組織として取り組むとはいかなることかといった問題意識から、複数企業の事例を紹介する。業種や業態、規模は異なるものの、「営業プロセス+標準化+成果」という共通項を持つ事例を検討し、汎用的フレームワークであるゴールからの逆算により、自拠点の営業活動を再認識し、自拠点でのボトルネックを特定して打ち手の探索範囲を焦点化し、深掘りをして、拠点独自の新しくて優れた組織ルーティンを形成していたことが確認できた。また、拠点独自の優れた組織ルーティンを横展開する場合、組織ルーティン形成の存立条件がそのまま組織ルーティンが移転されない条件となる、二律背反的な構造があることを仮説として提示する。

特集論文Ⅴ 価値共創型営業への道筋
小菅竜介
立命館大学大学院経営管理研究科准教授
サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)に注目すると、これからの営業のあり方として、顧客による多様な資源の統合を導く「価値共創型営業」を見いだすことができる。そこでは、営業担当者は、現場のデ
ィレクターとして資源を協働的にアレンジする役割を担う。伝統的なモノ中心の営業から脱却して、このような営業を具現化する上では、本社と営業現場の間で対話が行われなければならない。その上では、距離から派生する社会的アイデンティティーの問題に焦点をあわせるとともに、人をどう選抜し、育成するかが重要である。本論文では、先行研究と自動車ディーラーの事例に基づいて、営業が価値共創型に向かっていくなかでの基本的な課題を検討する。

特集論文Ⅵ AIは営業担当者の働き方をどのように変えるか
伊達洋駆/山本 勲
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役/慶應義塾大学商学部教授
人工知能(AI)技術を伴う営業支援サービス(セールスAI)が次々とリリースされている。本論文では、労働経済学の先行研究レビュー、一般労働者対象の大規模アンケート、セールスAI導入企業へのインタビューを実施したが、これらの結果に基づけば、セールスAIの活用によって営業担当者の働き方はさまざまな側面で変わりうる。たとえば、定型的なタスクはセールスAIに代替され、営業担当者は商談などの顧客コミュニケーションにさらに多くの時間を投じるようになる。このような変化は、営業担当者に高い満足度とやりがいをもたらす一方、ストレスの負荷も大きくなるだろう。また、セールスAIの導入は営業活動の分業化を促進し、広範囲の業務に属人的に取り組む従来的な営業のあり方が見直される可能性もある。

[ビジネス・ケース]
Gogoro――電動スマートスクーターのイノベーション
延岡健太郎/白 哲綸 
(大阪大学大学院経済学研究科教授/ビットキャッシュ株式会社 コーポレート統括本部)
台湾での電動スマートスクーター事業を展開するGogoroは、2011年に設立し、2018年の見込みでは、すでに年間7万台を販売する成功を収めている。同社のスクーター「Gogoro」は電動であるだけでなく、スクーターの多くの操作や、充電のためのエネルギーマネジメントをソフトウェアで行う。さらに、画期的なのは、台湾全土の主要都市にバッテリー交換の大規模なインフラも同時に構築し、ユーザー自らが充電を必要としない利便性とCO2削減という社会課題を同時に解決したことである。創業者ホレイス・ルークは、これを起業後3年あまりという短期間で実現した世界でもまれに見るイノベーターである。本ケースでは、ルークのビジョンと経営を中心に、顧客の経験価値を重視した商品・サービス開発の経緯、そして、広がりつつある海外展開までを描く。

英國屋――中小企業の事業承継とリーダーシップ
佐々木 肇/西原友里子
(一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース/一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース)
江戸時代から続く国内ショッピングのメインストリートであり、日本一地価の高い銀座通りに本店を構える英國屋は、創業から約80年を迎える老舗の高価格フルオーダースーツメーカーであり、政財界の名士に愛されるブランドとして認知されている。1990年代、圧倒的なカリスマ性を誇った創業者を失った英國屋は、バブル景気の崩壊とともに、その業績を大きく悪化させ、破産寸前にまで追い込まれることとなった。そうした混乱のなか、弱冠28歳の新社長の就任を契機に、生え抜きの副社長を中心とした新執行部が組成され、英國屋はその後の業績を大きく改善することに成功した。

[私のこの一冊]
反マーケティングを標榜する雑貨店店主の不可思議な物語
   ――長谷川義太郎『キッチュなモノから すてがたきモノまで 文化屋雑貨店』

松井 剛
一橋大学大学院経営管理研究科教授

[随想]現象学的経営学に向けて
野中郁次郎
(一橋大学名誉教授)
われわれは、知識を基盤とした経営学を構築しようと試みてきた。知識の最大の特質は、「人が関係性のなかで創る資源である」ということである。知識は、天然資源のように誰かに発見されるのを待っている物的資源ではなく、人が他者あるいは環境とのダイナミックな関係性のなかで創り出すものであり、そのときの文脈や知識を使う人の性質によって、その意味や価値が異なってくる資源なのである。われわれは、知識を「個人的な信念(思い)が真実へと正当化されるダイナミックな社会的プロセス(A dynamic social process of justifying personal belief towards the truth)」と定義した。つまり、知識とは人の、他者との相互作用を通じて、何が真・善・美であるかを探求し続けるプロセスであり、そうした信念(主観)と正当化(客観)の相互作用にこそ知識のダイナミクスがあると考えている。
知識は、人の主観と切り離された客観的で絶対的な知として「存在する」のではなく、主観的で相対的な文脈に依存し、相互主観性を通した変化プロセスのただなかで知識に「成る」のである。知識創造理論の哲学的基盤は多様であるが、改めて現象学に焦点を絞り、われわれの理論の内実をさらに深めるとともに、日本発の現象学的経営学へとより一般理論化する大きな枠組みを考えてみたい。

[連載]フィンテック革命とイノベーション

[第6回]フィンテック革命と世界の金融機関の経営
野間幹晴/藤田 勉
(一橋大学大学院経営管理研究科准教授/一橋大学大学院経営管理研究科特任教授)

[連載]日本発の国際標準化 戦いの現場から
[第5回]ナノテクノロジー ――産業利用と安全のバランス
江藤 学/鷲田祐一
(一橋大学イノベーション研究センター教授/一橋大学大学院経営管理研究科教授)

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー/米倉誠一郎
ベンチャーの使命は、ピカピカのケースを見せることにある
出雲 充
(株式会社ユーグレナ 代表取締役社長CEO)


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